2019
04.15

黒川文雄のEyes Wide Open VOL.35「もうハードウェア・デバイスは売れない…という時代の象徴するアップルのサブスクリプション・モデル」

EyesWideOpen

筆者 アップル本社前 イニフィニットループ

日本はもちろんのこと、世界中のアップルマニアが3月25日のApple Special Event(以下:発表会)でのティム・クックCEOの発表を心待ちにしていたことでしょう。

その背景には、すでに、3月18日にアップルが新型「iPad Air」と「iPad mini」、19日に「iMac」、20日に「AirPods」をメデイア向けに発表していたからです。この状況から考えれば、さらに「凄い」モノやコトの発表があるのか・・・でも、iPhoneも新機種を出してからそんなに多くの時間が経っていない…ならば、「アップルの次はなんだろうか?」という気持ちがあったと思います。

そんな大きな期待をあっさりと裏切りアップルが25日のプレゼンテーションで発表したのはデバイスではなく、サービスでした。それもサブスクリプション(利用内容や利用時期に応じて料金を支払う)サービスでした。

アップルよ、お前もか…、というのが私の第一印象でした。

しかし、その次に思ったのは、アップル自身も現在のアップストアでアプリを売ることが天井を打っていることや、ハードや新規デバイスを売り続けることは難しくなっているということを良くわかっているからこそ、今回の発表とサービスの導入なのではないかと思ったのです。

「もう俺たちのハードウェアビジネスもそろそろ行く着くところまで行ったよね…」という。

ゲームやアプリ関係者の方ならば、アプリの販売分析ツールがあることはご存じでしょう。アップルは実際の生データを見ているわけですから、世界の販売状況がどんなトレンドになっているかを良くわかっているはずです。

もちろん売れているものはすごく売れているけど、そうじゃないもの、導入したけど、サービスが止まってしまったものなどを十分に把握しているはずです。

それらを鑑みたうえで「成長を期待された世界企業」としてハードではなく、行き渡ったハードのうえで展開するソフトのサービスに舵をきったということでしょう。

・・・いや、誤解の無いように言えば、従来のハードやデバイス・ビジネスは今までどおり継続し、ハードとソフトの両輪ビジネスをさらに強化し加速するというのが今回のアップルのプレゼンテーションの真意なのだと考えるからです。

アップルTV公式サイト

https://www.apple.com/jp/apple-tv-plus/

本当の意味でのポータルの戦いはここから始まると言っていいでしょう。

日本に目を向ければニコニコ動画の凋落が止まらず、サイバーエージェントが推進するAbemaTVと共闘して行くと言うニュースが有りました。その構想の背景には日本のなかで闘いあっても仕方がない、(海外に対して)共闘して行こうという主旨のようですが、スケールを考えたらそもそも海外と闘うということは難しいのではないでしょうか。日本は日本独自の文化圏のなかで進化ししていければ良いのではないでしょうか。

今回のアップルの発表会では、映画監督スティーヴン・スピルバーグを登壇させ、オリジナル映画やドラマを中心に配信する「アップルTV+(プラス)」「TVチャンネル」、ニュース配信サービスとして「アップルニュース+(プラス)」、カード番号のないクレジットカード「アップルカード」の導入(米国のみ導入、その他国は未定)を発表しました。このカードは従来のアメックスなどのブラックカードなどのように年会費数十万円というステイタス概念を覆すような、スマートでシンプルな時代が求めたクレジットカードになるかもしれません。素材もチタン、色はブラックの対局、ホワイトカードというところが素敵です。

そして、このコラムを読んでいただいているゲーム・エンタテインメント系関係者が一番気になっているサービスが「アップルアーケード」でしょう。

すでに元スクウェア(現在のスクウェアエニックス)の坂口博信氏が新作を準備しているという発表がありました。坂口さんは、ここしばらく動きがなかったのですが、実際にはこういうプロジェクトが動いていたんだ・・・と思うとそれは素晴らしいことです。

まだ、「アップルアーケード」の情報が十分にない状況なので、確信を持って言えませんが、従来のアップストアでダウンロードして販売しているゲーム・アプリとは異なる課金に、つまり月額定額、もしくは定額でどんなゲームも遊び放題というコンセプトになるのかもしれません。仮にそうなった場合、開発者やパブリッシャーへの配分がどのくらいの規模になるかという点がビジネスの境界線になると思います。

「アップルアーケード」向けに、がんばって開発してもアカウント参加数が少なくて(アップルのサービスの場合、それは考えにくいのですが)配分原資が少ないと魅力は薄いと思います。これで、アップルとグーグル、アマゾン、そしてフェイスブックのコンテンツを巡る本気の殴り合いが始まるわけですね。もしかすると最終決戦かもしれません。

アップルにしてみれば、今までさんざんたくさん売ってきたハードウェアとデバイスのうえでサービスを完結させようと言う目論見です。いわば、刈取りの時期が来たということでしょう。さらにアップルは周到な思想のもと、アップルのハードやデバイスからの顧客は一般の(つまり他社ね)よりも安いサブスクリプション金額でアップルのサービスを享受できるということになるのではないでしょうか。次に展開に注目しています。

 

筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)

1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。