2018
12.24

黒川文雄のEyes Wide Open VOL.28「2018年を振り被っておくコラム・・・未来を予測する最良の方法が自らの手でそれを作り出すことだ」

EyesWideOpen

自らの手で作り、自らの手で止めること

 お別れの日が来ることはわかっていましたが、こんなにも早く来るとは思いませんでした。

私が取材体験として、また一個人としてバーチャルリアリティ(以下VR)体験を楽しんだ「VR ZONE SHINJUKU」が営業期間満了に伴い 2019 年 3 月 31 日(日曜日)をもって閉園するという案内メールがバンダイナムコアミューズメントから着信しました。

その営業期間は21カ月に及び、日本のVRシーンに、数多くのVRエンタテインメント体験とその共有化をもたらし、アミューズメント産業の未来に大きな一歩を記(しる)した施設です。(…でした)

もちろん来年の3月まで営業をしておりますので、まだ「VR ZONE SHINJUKU」でのVRアクティビティ未体験の読者は今からでも駆け込み体験をしてみてはいかがでしょうか。「行ってみたい」と「行ってみた」は一言違いですが、その一言の重みは違いがありすぎます。

パーソナルコンピュータの父アラン・ケイ降臨

同時中継画面 右下のワイプにアラン・ケイ氏

さて、先日、デジタルハリウッド大学院でサテライト開催された「IT25・50~本当に世界を変えたいと思っている君たちへ~」というセミナーに参加しました。(本開催地は三田・慶応大学にて開催)

本セミナーはこれからのコンピュータネットワーク・ITなどを主体として、過去を踏まえて、未来のあるべきITの姿を模索するというテーマで開催されたもので、平日の夜にも関わらず高いモチベーションを持った人たちが集いました。その数はデジタルハリウッド会場だけでも約100名超。

当日のメインゲストは海外からネット講演を行うアラン・ケイ氏でした。説明は不要かもしれませんが、パーソナルコンピュータ構想を掲げ、ダイナブックなどの新しいコンピュータと人間のありかたを提唱したIT界の智の巨人です。

たくさんのばかげたアイディアのなかから素晴らしいアイディアが生まれる

 セッション進行は同時接続回線でアラン・ケイ氏の講演を聞くものでした。

個人的に残念なのは、同時通訳の場合、どうしても直訳の日本語になる部分があり、アラン・ケイ氏が実際に話したニュアンスとは異なるような気がしました。とは言うものの、このような貴重な機会に参加できたことはとても意義のあることだと思いました。

特に、アラン・ケイ氏は飛行機での移動が嫌いということと、高齢のため、これから先も来日する可能性は低いと思うからです。

途中でインターネットの可能性と未来志向の在り方の部分の話しだったと思いますが、「たくさんの悪いアイディア(個人的にはばかげたという意味だと思いました)を出すことで、その中から良いアイディアが生まれてくるのだ」という部分には共感をしました。

まずは「やってみる」、まずは「言って(行って)みる」という志向がいつの時代も重要なのではないでしょうか。

ちょっと前に観た映画「イコライザー」の中でもデンゼル・ワシントン扮する主人公ロバート・マッコールが「完璧を目指すよりも、前に進むことが必要だ」と言ったセリフにも近いと思います。

今のVR/AR/MR開発シーンにも言えること

 アラン・ケイ氏の講演のなかで、過去の世界初のマウス開発とその公開デモの模様や、初期のVR開発に関する話も大変興味を持ちましたが、そのすべての共通しているのは、まずはやってみると言うことではないでしょうか。

すべてのモノゴトやビジネスもそうですが、最初から失敗を想定して始めるケースは無いでしょう。おそらく誰もが成功を信じてそれらに取り組んでいるはずです。それらのなかから残念なことに失敗もあることでしょう。しかし、その失敗のなかからも発見があるに違いありません。

それは今のVR/AR/MRの開発シーンにも言えることだと思います。

VR元年と言われ世間の注目を集めたものの、一般への大きな普及にはまだ時間がかかりそうです。

アーケードを中心に展開を行ってきた大手パブリッシャーの健闘は高く評価できますが、それらも一般化するにはまだ少し時間がかかりそうです。

しかし、これらの活動や研究開発を止めてはいけませんし、たとえ規模が変わったとしてもそれらの研究開発や活動がプラスに働くことがあると思うからです。

冒頭で触れたバンダイナムコアミューズメントが果敢に進めたVR ZONE SHINJUKUは来年には閉館しますが、そのVR ZONE プロジェクト自体が終わることないでしょう。おそらく、これからは中小規模のアーケード施設での展開やコンテンツ開発なども積極的に行われることでしょう。

そして、数年経ったときに、「ああ、これってあの新宿のVR ZONE にあったアレだよね」というようなかたちで皆様の身近なアクティビティとして定着しているのではないでしょうか。現状のVR体験の課題のスペース=省スペース化も解消されて行くことでしょう。

ちなみに、バンダイナムコアミューズメント社によって12 月 14 日から 閉園までの4 か月間、5 つの大感謝キャンペーンを開催しています。

※詳細はWEBで( URL  https://vrzone-pic.com/shinjuku/arigatosjk.html )

VRに限ったことではありませんが、アラン・ケイ氏の名言はすべての人に勇気を与えてくれるものと思います。

「未来を予測する最良の方法は、自らの手でそれらを作り出すことだ」

2019年も皆様に於きましてもよい一年であることを祈念し、こちらを2018年の最後のコラムとしたいと思います。2019年も引き続きご指導ご鞭撻のほど宜しくお願いいたします。

アラン・ケイ氏のダイナブックのメモイラスト

筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)

1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。