2018
12.18

【World MR News】JAXA、スタートアップ企業に開発委託した「小型実証衛星1号機(RAPIS-1)」を2019年1月17日に打ち上げ! 広報PR用の説明コンテンツにMixed Realityを活用!

World MR News

JAXAは、12月18日に東京・お茶の水のJAXA 東京事務所で、「革新的衛星技術実証1号機」に関する記者説明会を開催した。

「革新的衛星技術実証1号機」は、JAXAが進めている「革新的衛星技術実証プログラム」の初号機のことを指す。このプログラムは、政府の宇宙基本計画の一環として、民間企業や大学などが開発した機器などに宇宙実証の場を提供するために行われるものだ。

これまで、ある機器や部品の軌道上実証を希望する場合、単体では実証できず、衛星の形にしなければならなかった。それを軌道上実証できる機会として可能にしたところが、本プログラムの特徴である。2年に1回、計4回打ち上げ実証が計画されており、テーマは通年公募を行っている。

JAXA 研究開発部門革新的衛星技術実証グループ グループ長 香河英史氏。

革新的衛星技術実証1号機には小型実証衛星が搭載されており、今後7機の小型実証衛星(13の実証テーマ)を高度500キロメートルの太陽同期軌道に投入する。こちらには、民間企業や大学、研究機関など10の機関が参加し、「衛星推進系」や「展開物」、「電子部品単体」といった、H-IIA相乗りなどでは実証機会が少なかったものが採用されている。(今回の記者発表では、小型実証衛星の1号機(RAPIS-1)及びRAPIS-1に搭載する7つの実証テーマについての説明が行われた)

また、JAXAの衛星としては初めてスタートアップ企業に開発を委託しているところも特徴だ。JAXA自身は、単体で持ち込まれるテーマに対して実証環境や必要リソース、計測・確認手段の提供を提案するという立場になるという。

革新的衛星技術実証1号機の模型。先頭の赤いキューブ部が小型実証衛星1号機(RAPIS-1)

シンプルにすることで絶対に死なない衛星を開発

RAPIS-1の開発を担当したのは、アクセルスペースだ。同社ではこれまで3機の人工衛星を開発してきたが、いずれも100キログラム以下であった。そのため、今回のRAPIS-1は初めての200キログラム級を扱うことになる。2016年秋に受注してから、2年半をかけて開発が行われてきたという。

今回のRAPIS-1では、衛星の開発だけではなく打ち上げた後の運用も受託しているところが特徴だと、アクセルスペース 代表取締役 CEOの中村友哉氏はいう。そのため、打ち上げた後の運用も考慮した設計ができたそうだ。

アクセルスペース 代表取締役 CEO 中村友哉氏。

衛星本体に関しては、これまでの開発実績を活かし、自社開発した衛星のコンポーネントや民生品を使うことで、コストを抑えながら信頼世を確保している。なるべくシンプルにすることで信頼性を高め、絶対に死なない衛星を作るという方針で開発が進められている。

例えば放射線の影響で何か不具合がでたときに、いったんシャットダウンして元の状態に戻るようにしている。

ちなみに従来まで同社が開発してきた衛星は100キログラム以下と小さかったため、バス系とミッション系を完全に分離していなかった。しかし、「革新的衛星技術プログラム」は今回だけではなく4回行われる。そのため、プラットフォームが使い回せるように、バス系とミッション系を完全に分けて開発されている。これにより、何か不具合が起きたときもバス系が影響を受けないような作りになっている。

地上システムについては、完全自動運用で行われる。衛星が安定した状態に入った後は、トータルで完全自動化し人的リソースが掛からないようにしている。ユーザーはブラウザ上から実験要求が行え、結果もブラウザから受け取れるようにしている。

今回、RAPIS-1に搭載される実証テーマ(部品・コンポーネント)は以下の通りだ。

■革新的FPGA の耐宇宙環境性能軌道上評価【日本電気】

FPGA(ユーザーが自由にプログラミングできる集積回路)には、内部に大量のスイッチが入っている。従来までは切り替えスイッチに半導体スイッチが使われていたが、今回の革新的FPGA(NBFPGA)には、原子スイッチが使われている。その特徴は、放射線に強く、メモリーとしても利用出来るところだ。また、小型化することで、低コスト・低消費電力も実現している。RAPIS-1では、カメラモジュールとして搭載される。

■X 帯2-3Gbps ダウンリンク通信の軌道上実証【慶応義塾大学】

降雨に強くて省電力。低価格のX帯通信システムでありながら周波数の利用効率が高く、地球周回衛星から世界最速のX帯2~3Gbpsダウンリンク通信の実験が行われる。元々総合科学技術・イノベーション会議で制度設計された革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の中で研究開発されていたものだ。

■グリーンプロペラント推進系(GPRCS)の軌道上実証【(一財)宇宙システム開発利用推進機構】

衛星にはスラスタと呼ばれる推進機構がある。これを安全(グリーン)にするプログラムだ。従来までは、推進薬に取扱が危険な「ヒドラジン」が使われていた。それに変わり、「SHP163」と呼ばれる推進薬が使われる。燃やすと高温になりパワーが出る。能力的にはヒドラジンと同等にあえて落として、同じモノが使えるようにしている。低消費電力も特徴。低い温度でも凍らないため、ヒーターの電力節約にもつながる。

粒子エネルギースペクトロメータ(SPM)の軌道上実証【(一財)宇宙システム開発利用推進機構】

衛星の小型化と低価格化に対応した、放射線計測装置。民生部品を使用することで、小型で軽量、低コスト、短納期を実現している。計測目的としては、衛星搭載装置の誤動作や不具合の原因究明になるデータを集め、解析結果を磁気の衛星設計に反映させていく。

■深層学習を応用した革新的地球センサ・スタートラッカの開発【東京工業大学】

ディープラーニングを応用した軽量・高速な画像識別機を搭載し、軌道上でリアルタイムに地上の属性を識別していく。これを地上のサーバではなく衛星上で行うのは世界で初めての試みとなる。こうした情報は鮮度が重要になってくるため、防災や災害監視などに活用できる。その場で画像認識したモノを圧縮して地上に送ることができるようになれば、これからの衛星のあり方も変える可能性がある。応用実験として、姿勢決定にも活用する。雲の合間から見える陸地から、3軸の姿勢決定を行えるようにする。

また、スタートラッカーでは、5つの星のパターンから星を検出する。こちらはすでに事業化を進めており、2020年に商品化を目指している。

■軽量太陽電池パドル機構【宇宙航空研究開発機構】

多くの衛星には太陽電池パドルが付いているが、宇宙航空研究開発機構が開発した「薄膜3接合太陽電池」は、従来の3分の1まで軽量化を実現しているのが特徴だ。このパネル5枚がしかり開き機能するか確認するための実験が行われる。パネル部分が赤い理由は、セルとパネルの接着剤の色が赤いからだ。また、パネル部分の強度を持たせるために、少し湾曲した作りになっているそうだ。

■超小型・省電力GNSS 受信機の軌道上実証【中部大学】

GNSS受信機とは、GPSに代表される衛星ソケットだ。簡単にいうと、衛星向けのカーナビゲーションシステムのようなものである。搭載する受信機は5センチメートルほどの小型のものだ。その中に、GPS受信機とアンテナなど、全てのものが詰め込まれている。この『Fireant』がターゲットにしているのは、超小型衛星だ。今後のトレンドである、数100~数1000の衛星を群れで運用する「swarm」として利用することで、従来までの大型衛星ではできなかったことを実現するために使われる。

写真左から、JAXA 研究開発部門革新的衛星技術実証グループ グループ長 香河英史氏、アクセルスペース 代表取締役 CEO 中村友哉氏、日本電気 システムプラットフォーム研究所 技術主幹 杉林直彦氏、慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 特任教授 平子敬一氏、(一財)宇宙システム開発利用推進機構 専務理事 久能木慶治氏、東京工業大学理学院物理学系 助教 谷津陽一氏、JAXA 研究開発部門第一研究ユニット 主任研究開発員 住田泰史氏、中部大学工学部宇宙航空理工学科 准教授 海老沼拓史氏。

Mixed Realityを活用した「革新的衛星技術実証プログラム」のPR用コンテンツを記者が体験

今回の発表会では、「革新的衛星技術実証プログラム」をMRデバイスの『HoloLens』で説明を聞きながら視覚的もわかりやすく理解できる体験会も行われた。宇宙に関する技術は、宇宙空間に打ち上げるものだけではない。事象技術としても活用できることから、今回の試みが実現している。また、MR技術を使うことで価値が上がっていくと考えているという。

『HoloLens』を取り扱うマイクロソフトとしては、これまでのありふれたプレゼンテーションではなく近未来的かつ体感できる体験価値として『HoloLens』のMixed Reality技術を活用した広報PR活動をJAXAに提案。その結果、マイクロソフト Mixed Reality  開発パートナ認定企業であるポケット・クエリーズが制作を担当することとなり、完成した成果物が今回の体験会でも活用される運びとなった。

日本マイクロソフト エンタープライズサービス部門 エンタープライズサービス営業統括本部 ソリューションスペシャリストの鈴木保夫氏。

ポケット・クエリーズ 代表取締役の佐々木宣彦氏。

実際に筆者も体験してみたが、衛星の大きさやそこに搭載されるコンポーネントなどのサイズ感もわかり、ただ説明を聞いたときよりも多くの情報を得ることができた。また、アニメーションと音声による説明が入るため、実際にはどういうものに使われるのかということも、しっかり把握することができた。

ちなみに、この『HoloLens』を使ったPR用コンテンツはポケット・クエリーズのMRソリューションである『QuantuMR』のエンジンを利用して作られている。制作には約2ヵ月間掛かったそうだが、実際に体験するとそのインパクトはかなりのものであった。

衛星のように、スケールの大きなものは実物を目の当たりにするのはいろいろと難しいが、XR技術を活用すれば、ある程度スペース的な問題は解決することができる。今後は、様々な分野での応用も広がっていきそうだ。

 

革新的衛星技術実証プログラムのJAXA公式サイトはこちら

 

Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。