08.15
黒川文雄のEyes Wide Open VOL.19「チャイナジョイ(Chaina Joy) 2018 参加ドキュメント (上編) VRは過去のテクノロジーなのか・・・?」
デジタルシティに変貌を遂げた上海租界
中国、上海、初めてこの地を訪れたのは1999年だったと思います。
その記憶が曖昧な理由は、当時、私は株式会社デジキューブに勤務しており、コンビニエンス・ストアで販売するためのゲームソフトのノベルティ製作を管轄していました。その関係で、北京、深セン、杭州などで、それらを製作する工場を視察するため出張で訪れていました。
その都市のひとつが上海でした。
上海で記憶に残っていたのは、上海租界(そかい)と呼ばれるイギリス・アメリカ・フランス統治時代のクラシックで建築物が多く残っており、街は歴史の証人のような荘厳な雰囲気を漂わせていました。
ちなみに、その上海租界は、1987年に劇場公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督の「太陽の帝国(原題:Empire of the Sun)」で、ハリウッド映画としては初めて中国政府から公式な許可を得て、1940年代の上海の街並みを演出し、大掛かりなロケを敢行したこともでも知られていました。このあたりを総称してバンド地区(外灘)とも呼ばれています。
ちなみに、この作品には「バットマン・ビギンズ」などで世界的なスターになった、少年時代のクリスチャン・ベイルが出演しています。
さて、話を戻しますが、2003年当時の上海で記憶に残っているのは、静かな佇まいの上海租界と雑然とした路地裏、まさにジャッキー・チェンのアクション映画の舞台になりそうな、そんな雰囲気が残った街でした。
しかし、今はどうでしょうか。
租界側から黄浦江を挟んで対岸を見れば七色に輝く上海タワー(上海中心:正式名称は東方明珠電視塔)の周りにはフィナンシャルセンターなどがそびえたち、写真ではわかりませんが、ビルの壁面がすべて電飾看板になっています。その煌(きら)びやかな様子は、リドリー・スコット監督が「ブレードランナー」で描いた2019年のロサンゼルスを思わせる未来都市が実際に現れたかのような錯覚すら覚えます。
そして、そこにはランボルギーニ、ポルシェ、メルセデスベンツ、アウディ、レクサス、などの高級車ばかりが目立ちます。かつて私が大量に見たフォルクスワーゲンの国際展開者サンタナはタクシーとして煤(すす)けたボディを酷使して走っているのを数台見かけました。
時は、人と街を変え、人と時も、街を変えるのです。
チャイナジョイ(Chaina Joy) 2018とは
チャイナジョイは、中国最大のゲーム・エンタテインメント系展示会です。中国最大ということは、事実上アジア最大級の展示会と言って差し支えありません。
おそらくゲーム関係者の誰しもが、チャイナジョイを見学すれば、東京ゲームショウの規模感が日本国内で喧伝するほど大きなものではないかことがわかります。このあたりは「チャイナジョイはすごいらしいよ」という現地に行った人から聞いた噂話ではなく、実地で経験した「チャイナジョイはすごかった」というリアリティの違いでしか説明できないのが残念です。
まず、チャイナジョイの展示棟の規模ですが、下部の写真を参照いただければわかりやすいと思います。
W=西、N=北、E=東の3棟の集合体が通称SNIECと呼ばれる「上海新国際博覧中心(センター)」を構成しています。例えば、W棟は全部で5棟あり、W1はレジストリ(入場受付)のみを行う棟です。W棟は主にはBtoBを展開する企業や団体の出展が多く、今回日本からはコンテンツの輸出を促進するJETROがブースを出展していました。
N棟は主には家庭用ゲーム、PCゲームなどの出展が大半で、1棟を大きなブース4つほどでシェアして出展を行っており、東京ゲームショウでの株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント・サイズの出展が4-6つほど1棟に出展しています。
そして、中国ならではの特色は、お互いのブース同士が、あたかも意地の張り合いの如く、大音量でやアナウンスや音楽を掛け続けてタイムテーブルにあるイベントを行い、集客をしています。N棟も、W棟と同じく全部5棟あります。
そして、最後はE棟ですが、このE棟のみ全部で7棟があります。E7ではコスプレ系のイベントが実施されE6では日本でも「ロボコン」としてお馴染みのロボット対戦バトルのコーナーがありました。中国でもロボットに対する関心は年々高まっているようです。
VR展示がない・・・?
まずメディア用の入場パスをW1棟で入手し、会場に入ります。
W/N/Eのすべてを1日で観て回ることは不可能です。おそらく各棟1日でも時間が足りません。各棟ともに連日、入場できる限界を超えた来場者が押しかけており、日本から来た関係者が言わくは「通勤時間帯の(東京メトロ)東西線の混雑に匹敵する」とのことです。おそらく、ベッドタウンから都内へ向かう人が押し込まれた通勤電車並みの混雑ぐあいを想像してもらえれば良いかと思います。
そして、私が今年のチャイナジョイを観始めて思ったことは「VR展示がない?」ということです。
ここ数年参加している知人曰く、2017年はVRとブロックチェーンがメインだったと聞いていますが、W棟を皮切りに各展示棟を見学して回りました。そのなかで、見学初日に、辛うじて見つけたVR展示のブースがこちらでした。
地元、上海の天舎文化伎媒有限公司の開発に依るVRアトラクションでした。
どちらもジェットコースターをテーマにしたもので、ひとつは二人一組で体験できるもの、もうひとつは座席の後部中央にある軸を中心に360度シートが回転するコークスクリュー・タイプのジェットコースターを体験するというものです。マシン自体は大掛かりですが、実際に体験するVRアトラクションの内容はありきたりのものでした。それでも来場者には人気があり、待機列が途絶えることはありませんでした。
さて、この先、まだN棟、E棟と残り12棟の展示がありますが、VR、AR、MRでの新しい発見はあるのでしょうか。
それともVRはすでに忘れさられようとしているテクノロジーなのでしょうか・・・。
(以下 次回に続く)
筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)
1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。