2018
06.17

黒川文雄のEyes Wide Open VOL.15「SEIYA ~VRの可能性を諦めない 近藤善洋氏に訊く」

EyesWideOpen

5月2日、フェイスブック社が満を持して発売したVRデバイス「Oculus Go」に続き、5月11日には、レノボ社による「Lenovo Mirage Solo with Daydream」が発売されました。

この2機種に共通することはヘッドマウントディスプレイのワイヤレス対応です。プライス面では「Oculus Go」(32GB:2万3800円、64GB:2万9800円)がやや安価でアドバンテージを感じますが、そのほかの部分については、一長一短があるかも知れませんが、今までセットアップ面で煩雑な思いをした開発者、ユーザーともに、今回のこの2機種の導入に関してはバーチャルリアリティ(以下:VR)産業におけるエポックメイキングなデバイスだと思います。(参考価格:Lenovo Mirage Solo with Daydream 5万5296円)

写真)OculusGo体験中の筆者

これらのデバイスを持ってして、VRの民主化は急速に促進するのかどうかという点ですが、私はまだ懐疑的です。
アーケードにおけるVRアクティビティ体験、「日常における非日常を演出する場」は独自の進化で徐々に浸透しつつありますが、家庭で体験するVRの民主化に関してはまだ道半ばと言ったほうがいいかもしれません。
今回の拡現人コラムでは、当初はインディーズとして開発を推進し、3月15日にSTEAMVRストアにてリズムアクションVRゲーム「SEIYA(セイヤ)」

https://store.steampowered.com/app/757100/VR_RHYTHM_ACTION_SEIYA/

をリリースした株式会社ワンドブイ・VR事業責任者・近藤善洋氏に現在のVRビジネスの実態を語って頂きました。

VRリズムアクションゲーム「SEIYA」紹介
 VRリズムアクションSEIYAは、リズムを刻む音楽ゲームとは異なりメロディを奏でる事が出来るVR音楽ゲームです。スクリーンから飛んで来る星のオブジェクトをパンチすると楽器の音が流れ歌詞のオブジェクトをパンチすると歌が流れます。パンチの強さに応じてスコアがアップするので、エクササイズ感覚でメロディを奏でることができます。

SNSがもたらした「SEIYA」開発のキッカケとは?

「元々は、システムエンジニアをやっていたのですが、2014年頃、出向先でDK1を体験させてもらった、その時はあまり感動しなかったです。でも、ある時、ツイッターでGOROman(ゴロマン・近藤義仁)さんが自作のVRコンテンツに関してツイートしているのを見て、それに共感してツイートやリプライをしてことでGOROmanさんや著名な起業家の方々と交流ができたことがVRコンテンツを開発しようと思ったキッカケです。それまではゲーム自体にもあまり関心はありませんでした。ゲームは昔、RPGツクールとかでちょっと試しにつくった程度の知識しかありませんでした。」

苦労を重ねた「SEIYA」開発初期段階

「その頃は出向先で仕事していたんですが、出向先は職場環境などで気持ちが落ち着かないところもあり、Unityの勉強を独自に進めたり、IT系の勉強会などに参加するようにしていました。そのような状況のなかで、気が付いたらVR関係の知人が増えて、自ずとVR開発を進めるようになりました。

最初は通常の業務が終わったあととか…、つまり業務時間外に自分でUnityなどの開発言語を勉強するところから始めました。その当時、所属して会社のメンバーも賛同してくれて、自分を入れて4人で開発を始めました。その頃には会社でVRの開発事業部も立ちあがったのですが、会社の事情もあって、なかなかうまく進まないままでしたが、2016年の夏くらいにはだいたいのゲームシステムは出来上がっていました」

なぜ「SEIYA」、なぜ音楽VRゲームだったのか

「まず考えていたの『酔わないVR体験』と『老若男女を問わず誰でも体験できるコンテンツ』を作ろうと思っていました。自分がVR体験をしたときの感覚で酔ってしまうようなものがあったので、そうではないもの、VRは楽しいものだということを認識してもらえるようなものを作りたかったんです。

SEIYAというゲーム名は、純日本風のもの、掛け声とは神社の御囃子(おはやし)みたいなものをイメージして命名したんですが、あとになって考えれば、もっとユニークなゲーム名にすればよかったなと思いました。今はSEIYAで検索する有名な漫画のヒーローとがヒットしてしまうので…(苦笑)」

イベント出展を重ねて「SEIYA」をブラッシュアップ

 「前職を辞めてからすぐに今のワンドブイに開発をしていたメンバーで転職をしました。その頃は商品化というよりも、『こういうVRコンテンツが受託でも作れますよ』という営業デモ的な位置づけで、色々な展示会とかに出展していました。その展示や体験者の皆さんからのフィードバックを随時反映して『SEIYA』を更新してきました。

でも、2017年6月に開催された「VRコンソーシアム」で最終選考に残ったあたりから、やはり商品として『SEIYA』を世に出そうと言う方向性を考えるようになりました。」

STEAM VR 登場2位、『SEIYA』の売り上げはどのくらいのものか?

写真)SEIYAグローバルVRランキング3位達成時のスクリーンショット

「3月15日にSteamVRストアで『SEIYA』の販売を始めました。すると驚いたことに導入した当日、ワールドワイドのランキング2位に達したんです。ちなみにそのときのランキング1位は「スカイリムVR」でした。ちょうど2位のときのスクリーンショットは撮り忘れてしまいましたが、3位のものは残っていました。

https://store.steampowered.com/app/611670/The_Elder_Scrolls_V_Skyrim_VR/

導入から1週間くらいはランキングベスト5のなかを行ったり来たりしていました。でもちょっと意外だったのは世界ランキング2位なのに、売り上げ的には『ええ、これ?』という感じでした。つまり思ったほど大きな売り上げではなかったということです。」

 ランキング2位と対外的な評価からわかるもの

写真)SEIYA国内VRランキング1位達成時のスクリーンショット

「発売当日のVRランキング2位に関しては嬉しかったです。でも、ここから先は想像の域を出ないんですが、1位との販売差ってかなり開きがあるんじゃないかと思うんです。

でも、やればここまで行くんだという感触はつかめました。あと思ったのは、一日に数回のダウンロードがあるだけでもランキングが上下するということです。『SEIYA』のレビューを見て頂ければわかると思うんですが、レビューはかなり良いものが多いのが嬉しいのですが、大半が日本からの購買者様になります。おそらく『SEIYA』のデモ体験会から応援してくれたお客様が多いことも瞬間風速でランキングが上がった要因だと思います。今は他社さんもチャレンジしていますが、まだ大きなビジネスになっているところは少ないんじゃないでしょうか」

『SEIYA』の課題と今後のビジョン

「SteamVRなどのポータルがあることで全世界に販売ができることはメリットですが、アップルやグーグルと同様に売り上げから30%の手数料を徴収されます。弊社(株式会社ワンドブイ)のように自社でパブリッシングをやっているケースであればいいのですが、他社さんや海外のパブリッシャーさんに依頼すると、そこでまた手数料がかかるため、商売的にはあまりうま味はないかもしれません。

今後は『SEIYA』を水平展開していきたいと思っています。

今も数社からオファーはありますので、それをどのように活かすかを考えています。あと楽曲は随時増やしていきます。今後も音楽をテーマにしたVRコンテンツにはチャレンジしたいと思っています。ちょうどOculusGoがリリースされましたが、まだGoのコントローラでは『SEIYA』に対応できないので、ハード自体は歓迎していますが、これからもハードの進化にも期待しています。

今はキラーVRコンテンツが無いという意見もあり、ビジネスとしては厳しい側面もありますが、思い返すとiPhoneも「4」くらいからスペックが向上し、画面も高精細になって、アプリやゲームのリリースが活性化した記憶があります。ヘッドセットも「メガネ」くらいの装着感にならないといけないのではないか…という思いもありますが、やり続けることで、その段階になって夢が実現した人たちが居たと思います。その時は来たときには対応ができて、素晴らしいコンテンツを提供できるように継続して開発を続けたいと思います。」

今回の取材は近藤氏がインド・ムンバイでの展示を終えて帰国してすぐのタイミングで行った。インタビューでは実際にリアルな販売金額や実態をヒアリングすることができた。「SEIYA」の導入に前後して日本からチャレンジングなVRコンテンツがSteamVRストアに導入されている。

一例を挙げれば「Airtone」、直近では「VRカノジョ」が話題になっている。近藤氏が言うように、家庭用というべきか個人用VRはデバイスの進化に伴ってさらにコンテンツ開発は加速することだろう。考え続けること、やり続けること、諦めないことをやり遂げたものこそが、誰も観たことのないVR体験と世界を提供できることだろう。

筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)

1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。