2017
04.04

【MRのある世界】永遠の砂漠の都、ほんの少し先の私。

MRのある世界

はじめてこの地を訪れた時は、風化して崩れかけた土の壁と洞穴だけが延々と続いていた、中国大陸の西果てにある砂漠の古代都市遺跡。もう何年前のことになるだろうか。現地のガイドさんはカタコトの日本語と身振り手振りで一生懸命に説明を繰り返していた。「ここに立派な役所が建っていました。そして向こうまで続く土山は広大な土地を守るための城壁。そしてあっちには寺院があって、人々は灼熱の暑さから逃れるために、地下で暮らしていたのです。」と。
風が吹きさらし、時折埃が舞い上がる中、遥か昔の歴史栄華の物語を想像しながら一生懸命ペンを走らせメモを取る。どんなに想像してみても、“遺跡”としての土の塊だけがただただ目の前に広がっていた。

あれからほんの数年だが、本当にいい時代になった。再びこの砂漠の地を訪れるチャンスが来たので、遺跡の中へ入ってみることに。そこは数年前と同じように、見渡す限りの土の壁。何一つ変わることなく、ただ時折砂埃が舞う。風当りが懐かしい。
そして私は、今回楽しみに持ってきた秘密兵器を取り出す。太陽光UVカット兼砂除けのサングラスを装着してみる。そう、このサングラスにはMR機能が搭載されている。日本でも先月発売されたばかりだが、私はもちろんいち早く買ってみた。ちょうどあの30代の頃PlaystationVRやiphone8が出た時と同じように。

装着し、風景を見渡すとすぐに、そこには、かつて栄華を極めた要塞のような古代都市が一気に甦る――。超リアルに3D再現された建築物、人も動物もいる。ロバかな。ラクダもいるようだ。役所の検問官らしき人は威厳ある風貌で門に立ち、城内を歩く人々は絹の衣を纏い、市場は女性たちで賑わっている。寺院の塔にお祈りをする人もいれば、地下の日陰でスイカやフルーツで一服する人たちも。そこには確かに、この土地で栄華を極めた時代の、古代の人々の姿があった。紀元前2世紀に建設され、14世紀に戦火で焼け落ちるまでの要塞都市の歴史が、まるで今そこにあるかのように再現されていく。来年からは、年代別にここの人々と実際に会話できるようになるプログラムもサービス開始となるそうだ。今回私が見た景色は、全てデータ保存されているので、そのままアップロードされ、田舎で暮らす両親や家族にも共有することもできる。もはやメモを取りまくる必要もない。

さらに、この砂漠地帯の新幹線での移動は、よりスペクタキュラーなものに変貌を遂げた。車窓からの眺めも、数年前はどこまでも続く広大な砂漠地帯だけ。地平線の先には他に何もなかった。だが今、このMRサングラスをかけてから窓の外を見渡し、少し待つこと数分。前方にはシルクロードのキャラバン隊を見つけることが出来る。何十頭も連なるラクダにのった人々の列が、悠々と砂漠を進んで来る。私達は一瞬で、彼らの列とすれ違う。あれ、ちらっとこっちに手を振った人もいるぞ。そしてまたしばらく行くと、今度は盗賊たちが旅人を襲っている現場に遭遇。たまたま隣の席の中国人の青年もちょうど同じサングラスで景色を見ていたので、「ああ!大丈夫かな!」と車内で大騒ぎ。何事かと後ろの席の観光客白人女性のおばちゃんたちが寄って来たので、ちょっとサングラスを貸してあげる。そうすると「Oh!My!!」とびっくりした様子。旅は道連れ、ということで、このデバイスは多くの人たちとの交流にも一役買ってくれた。

現状は、英語、中国語、日本語、スペイン語、ドイツ語、フランス語の翻訳対応機種のみだが、幸いなことにユネスコがこのMR技術導入の世界地域一斉導入を昨年発表したため、これからこのような歴史復元の景観は、世界中の観光地で導入され、多言語化もどんどん進むだろう。