2017
04.20

【MRのある世界】MR入試世代

MRのある世界

この春から大学生になった僕。大好きな桜の季節も終わりにさしかかり、入学式、オリエンテーションも無事済んだ。晴れて第一希望の国際コミュニケーション学部への進学が決まったことを喜んでくれている伯母が久しぶりに日本へ帰国しているので、たまにはリアルに会って話をしようということになり、父の家にみんなで集まることになった。

僕は父さんの妹であるこのハルミおばさんのことが結構好きだ。話を良くわかってくれる。受験の時も、物理的には一番距離が離れていたところに暮らしていたけど、誰よりも僕の相談にのってくれていた。おばさんは、僕の父母に比べると、先進的な発想が好きで、なにより、いつも若々しく溌剌としている。

父さんや母さんやおばさんたちの時代の大学入試ってすごいんだぜ。国際学部の試験なのに、全部ペーパー試験なんだ。それも、遠くの人も近くの人も一斉に試験会場に出向いて、机の上に合計4時間必死にへばりついて、で、やることはただの選択方式のマークシートと論文書くだけ。日本語で。そのために、わざわざ交通費や宿泊費を払って、希望の大学まで行ったんだって。コミュニケ―ション専門の学部なのに、だよ。それで、そのペーパーテストで受かった人だけ、またわざわざその学校の面接会場に行って、面接官と話すんだって。日本語で。今となっちゃ考えられない効率の悪さだ。おじいちゃんも、出費がかさんできっと大変だっただろうな。

僕らの時代は違う。詰め込み式のペーパーテストは存在しなかった。2020年代後半に、北欧の教育システムが世界一斉導入された結果、ラッキーなことに、宿題という概念が消えた。高校1年からは全員MRで世界共通の授業を受講できるカリキュラムが導入され、中国語と英語は必須科目だけど、それでもやっぱり聞き取りと発言が難しい場合は同時翻訳補助システムを使える。でも、高得点を目指すなら、これには頼り過ぎない方がいい。僕らはこのシステムを使って、世界中の素晴らしい先生たちの授業を受け、学生たちとディベートする機会も持てた。相手の話の聞き方や交渉術、こちらの要望の通し方、妥協点についてなどの国際基本ルールをすぐに学べるように、大学へ入る前に基礎は既に身に着いている。この毎日が入学合格の判断となるから、ペーパー入試なんてものはない。少なくとも、コミュニケーション学部にはね。

さて、やっと久々におばさんに会える。家の玄関の扉を開けると、父さんと母さん、そしてハルミおばさんが笑顔で迎えてくれた。
「あれ?ハルミおばさん、なんだかちょっとぽっちゃりしてない? あと、化粧が濃い気がするんだけど、、、シミ、シワ隠し? 昨日までとなんかちょっと違うなあ…」

すると、おばさんは大笑いして言った。
「そりゃそうよ。あなたが毎日レンズで見てるのは、私が設定している6年前の私だもの。小学校卒業した時に最後に会った、あなたの見た記憶をそのままにしてあるの」

なんと…、おばさんの若々しい秘訣のひとつはそういうことだったか。もしやとは思ってたけど、やられたな。この世界の生活に慣れてしまうと、こういうことも、たまにあるんだよね~。