2019
08.30

黒川文雄のEyes Wide Open VOL.44「グランツーリスモSPORTはリアルスポーツなのか?」

EyesWideOpen

eスポーツという言葉の違和感

 拙著「プロゲーマー、業界のしくみからお金の話まで eスポーツのすべてがわかる本」(URL https://amzn.to/2Wrn5B5)を6月に刊行して約2カ月が経過する。販売のほうはおかげさまで好調な様子である。昨今は書店に配本されども、陳列されないまま、最終的には返本されるケースがあるなかでは、まず店頭に陳列いただいているということは大変有りがたい気持ちでいっぱいだ。

好評な反面、SNSなどの書き込みなどを見ていると、やはり「ビデオゲーム」を「スポーツ」と称することに一定の反対意見があるように思う、なかには「絶対に許さない」という強烈な拒否反応もある。それらの意志表示の背景には「座りっぱなしでモニターを観てコントローラ-で遊ぶゲーム」というエンタテインメントを「スポーツ」と呼ぶことは許せないという感情だろうと思う。

かつてレースと呼ばれたモータースポーツを思い出してほしい

 1980年代中盤くらいのことだったと思う、ブリヂストンやダンロップなど、国内外のタイヤメーカーが、自動車レースのことを「モータースポーツ」という呼称を使い始めた。

グランツーリスモSPORTはリアルスポーツより

その背景にあるのは、海外から輸入されたカー・カルチャーがあったと思う。

フォーミュラー1(以下:F1)が日本で初めて開催されたのは1976年。

その後、WRC(ワールドラリーチャンピオンシップ)、ヨーロッパで開催された市販車を改造して展開されたツーリングカーチャンピオンシップなど新しい展開が繰り広げられた。そんな世界のモータースポーツの盛り上がりとともに、F1が日本に再上陸したのは1987年の鈴鹿サーキットだった。

この鈴鹿サーキットでのF1は私も観戦したが、今までの日本風のオイル臭い、オーバフェンダー、スリックタイヤ、シャコタンが走るレースのイメージとは真逆で、コース随所には大きな応援フラッグがはためき、観戦者たちも自分の応援しているチームのTシャツやタオルを持ち、中には大枚をはたいてパドックを見学するというバブルなフルコースを堪能した客層も居た。そこには今まで一般的に観てきた日本的なレースの風景と異なるものがあった。

グランツーリスモSPORTより

グランツーリスモSPORT体験中の筆者

話が横道に逸れたが、これらのF1ブームなどと相乗するようにして、各社が自動車レースをモータースポーツと呼ぶという啓蒙活動を行っていた。

私自身も当時、前述のSNSでのeスポーツへの反論と同様に「(シートに)座って、ハンドルとギア、ブレーキとアクセルを操作する」ことを(モーター)スポーツと呼ぶことに違和感があった。しかし、ル・マン24時間耐久レース映像を観ていると、…これは気力と体力を使い、ドライバー同士、チーム間の駆け引きが発生するスポーツに該当するという考えに至ったのだ。

あと10年経ったら違和感は無くなるか?

世の中は千差万別、様々な意見や考え方があって成りたつ多様性の世界だ。

eスポーツをスポーツと呼ぶことに抵抗を持つ人が居ることだろう。しかし、私自身は時代の変化に伴ってそれらは自然と融和していくのではないかと思う。

グランツーリスモSPORTより

それは先に挙げた「レース」から「モータースポーツ」への感覚の変化に伴に近いのではないだろうか。

ビデオゲームビジネスがアーケードから発生し、それが家庭用に昇華し、現在はPCオンラインやスマートフォンのゲーム系アプリが全盛を極める時代になった。それらの変化は俯瞰してみれば、転換点がそれぞれあったことだろうが、流れのなかでは自然に変化を遂げて行ったものだと思う。またこの流れに逆らうこともかなり難しい。

なんとなくある違和感は、なんとなく時間が経つうちに薄れて行くと思う。

グランツーリスモSPORT関東地区予選大会より

グランツーリスモSPORTはリアルスポーツか?

モータースポーツという言葉は一般的に浸透したものの、現実にはクルマに乗る人が減っていると言う。それはイコール免許取得者が減っているという現状とクルマの購入意向が減少していると言う現実に直結している。おそらく都市部で生活している人々にとっては交通インフラが充実しているため、免許やそれに伴う自家用車という需要が必要ないという現実があるからだろう。

さらには自動運転という未来もある。筆者自身は完全な自動運転社会には懐疑的だが、それらがアシストしてくれる未来は歓迎だ。

そんな、自動車免許と自動車への関心が薄れているなかで、新しい未来を感じる動きがある。

現在、第74回国民体育大会「いきいき茨城ゆめ国体」(開催日程 2019年10月4日(金)~6日(日))の文化プログラムにて行われる「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2019 IBARAKI」の競技タイトルに「グランツーリスモSPORT」(ソニー・インタラクティブエンタテインメント/以下:SIE)がサポートする活動だ。

「国民体育大会」(国体)は、1946年以来,毎年都道府県持ち回りで開催されている日本最大の体育・スポーツのイベントだが、その中で開催される「文化プログラム」は国体内で開催される行事の一つで、スポーツ文化や国体開催県の郷土文化等をテーマにしたものだ。

8月上旬のことだが、新宿伊勢丹の催事場を使って、「グランツーリスモSPORT」の関東地区予選会が開催された。最年少参加者はなんと7歳だった。

最終的には、これらの予選会を勝ち残った優秀なドライバーたちが、国体の文化プログラムである「全国都道府県対抗 eスポーツ選手権 2019 IBARAKI」のなかで最速を競うという、そして、その中の18歳以下のファステスト・ドライバーが第46回東京モーターショー2019 e-Motorsport 「都道府県対抗 U18 全日本選手権」でさらなるファステストを競うと言う。
すでに、欧州ではSIEとヨーロッパ日産が手掛けるグランツーリスモのドライバー育成プログラム「GTアカデミー」からプロドライバーが輩出されている。

すでにリアルとバーチャルの境目さえ希薄になりつつあるなかで、近い未来には実車のマシンではなくバーチャルリアリティ上でのマシンバトル、eモータースポーツが盛んになるのかも知れない。そして、その時には誰もが違和感なく、ゲームをeスポーツと呼ぶのではないか、そんなことを思った2019年の残暑である。

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筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)

1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。