12.10
黒川文雄のEyes Wide Open VOL.27「VTuber(バーチャルYouTuber)ってどうなの・・・」
VR(バーチャルリアリティ)元年を超えて生まれたもの
新しいものが生まれては一般化する。一般化とは聞えはいいがある種の陳腐化だ。世の中は常に変化が溢れており、その変化に対応できないと取り残されることがある。特にエンタテインメント系の商売でその傾向は顕著で、御託はいいから、まずはやってみるという姿勢が重要だ。
2017年は、誰が言ったか知らないが・・・「VR(バーチャルリアリティ)元年」というフレーズが飛び交った。さながら、今年(2018年)の「eスポーツ」というフレーズと同じようなものだろう。言葉としては盛り上がっているが、実態としての盛り上がりはどうか?という感覚に近いと思える。
世の中のトレンド(流行り廃り)と言われるものがそうであるように、先鋭的な購買者や嗜好者が取り入れたりすることで、徐々にコップの水がこぼれていくように一般層に拡がっていくことを想像してもらえると良いと思う。それらのエンタテインメント系トレンドを俯瞰してみると、VRは言葉として一般化し、そして今はより細分化してきているように思う。
VTuber(バーチャルYouTuber)ってなんだ・・・
細分化が進むVRのジャンルで、今、私が個人的に注目しているのはVTuber(バーチャルYouTuber)だ。
NHK情報告知サイト
http://www6.nhk.or.jp/anime/topics/detail.html?i=5195
もはや説明の必要はないかもしれないが、VTuber とはYouTubeなどの動画配信サイトで実際の人間などに替わって登場する架空のキャラクターで、主にはモーションキャプチャーで体の動きをキャラクターに反映し、リップシンクであたかも喋ったり、歌ったりする演出を施したものだ。
リアルタイム配信やステージでのイベントもこなすほど技術的にも向上し、企業でも個人でもVTuberを展開するハードルが下がった。
2019年1月2日(水)23:35には、NHK総合テレビで特別番組「NHKバーチャルのど自慢」がオンエアされるという。これはお馴染みの日曜日の昼の時間帯にオンエアされている「NHKのど自慢」のスピンアウト企画、国営放送のNHKがこのような展開を行うことが時代を象徴している事案として大変興味深い。
出場するVTuberは静凛、鈴木ヒナ、田中ヒメ、月ノ美兎、電脳少女シロ、ときのそら、樋口楓、富士葵、ミライアカリ、YuNiなどで、ゲストとしてバーチャルグランドマザー小林幸子とキズナアイも出演するという内容だ。
また、面白(おもしろ)法人 株式会社カヤックが開発、運営する多人数参加型ソーシャルVRプラットフォーム「VR SPARC」において、2018年12月31日(月)にVTuberによる年越しVR歌合戦イベント「Count0(カウントゼロ)」を開催するという。
VR SPARC https://sparc.tokyo/count0/tickets
NHKよりも先んじたタイミングでやってしまおうということがカヤックとしての面白事案なのかどうかはわからないが、世の中のトレンドに乗っておこうという意図が見える。こちらも人気のキズナアイを迎えた企画やVR初詣も実施すると言う。もしかすると鎌倉の「鶴岡八幡具」をVRでモデリングして、主催者のカヤックに「投げ銭」をするようなものなのかもしれない。
VTuber(バーチャルYouTuber)同士のeスポーツイベント
最後に紹介するのはVTuberとeスポーツのミックスイベントが11月23日から25日にかけて展開された。まさに去年のパワーフレーズ「バーチャルリアリティ」と2018年、今年のパワーフレーズ「VTuber」が融合したイベントだ。
eスポーツは言う間もなくオンライン対戦型のゲーム、元々、対戦相手の詳細が解らないステイタスでの展開に加えて、今回はさらにVTuberで「リーグ・オブ・レジェンド(LoL)で対戦会を行うというハイパーミックスな試みだった。
その名も「VTuberだらけのLoL天下一武道会」(企業も個人も関係ねェ)という大会。
それぞれのVTuberの知名度はあまり高くないが、eスポーツを絡めて展開するところにトレンドを感るイベントだ。
対戦結果云々よりも、このようなイベントを考えて実行に移したというモチベーションを評価したいと思う。
ちなみに主催者に聞いたところではVTuberだらけの 第一回LoL天下一武道会」には「第一回優勝チーム」と名付けられたチームが出ていたが、チームメンバーに「忍者のバーチャルYouTuber」である「乾伸一郎」が居るのだが、「忍者のチャンプ(キャラクター)しか使用しません」ということでLoLの世界観に沿ったプレイに終始したとのこと。「優勝チーム」と銘打ったものの、残念ながら優勝には至らず3位に終わりましたが、視聴者の支持が高くエンタメ賞を受賞したとのこと、こういう面白味もVTuberとeスポーツの融合に依るものかもしれない。ちなみに初心者ばかりのチームというJGYも十分に健闘したようだ。
VTuberだらけの 第一回LoL天下一武道会 参考動画
・TOPで2vs1になり窮地に追い込まれた仲間を、自らの身を挺して守り死にゆく忍者。
https://youtu.be/nKep9yjnX3U?t=14973
VTuberだらけの 第一回LoL天下一武道会 公式サイト
https://sites.google.com/view/vtuber-lol/
VTuberは21世紀の新しい声優スタイルだ
さて、VTuberとは何かを考える際にヒントになるのは、ちょっと時代を遡るが、テレビ放送の黎明期にそのルーツをたどることができる洋画の吹き替え声優ではないだろうか。
テレビ放送の始まりは、戦勝国アメリカから輸入したホームドラマやアクションドラマのタインナップが大量にオンエアされた。いうなれば、それらは敗戦国へのアメリカという国はワンダフルでビューティフルだというプロパガンダの側面も強かった。
その後、復興にともないテレビ放送ではオリジナルアニメーションなど日本独自の文化が芽生えていったことは皆さんもご存じのことだろう。
そして、平成が終わろうとしている今、VTuber、戦後のアメリカのTVドラマのキャストの吹き替えのような存在ではないだろうか…そして、それは新しい声優ビジネスもしくは新しい声優を生み出すチャンスを秘めたキャラクターコンテンツだと言えよう。そこにeスポーツを絡ませたり、テレビのキャスターなどとして起用することもアリだろう。
その活動の幅は今後さらに拡がって行くことだろう。
しかし懸念が無くも無い…。その懸念は、VTuberのキャラの声が今まで以上にリンクして行ったとき生まれる契約問題や、キャラをどのように存続させていくかと言うことに他ならない。
VTuberは永遠の時間と不老不死の命を持っていても、生身の人間はそうはいかない。単なる生き死にだけでなく、細かい人間関係のトラブルも予見されるだろう。
ただし、新しいものが生まれるということは新しい問題も生まれるということを意味する。それらを踏まえてでも、我々は新しいエンタテインメントを創造するために一歩を踏み出さなければいけないのだ。
筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)
1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。