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黒川文雄のEyes Wide Open VOL.26「中国厦門(アモイ)で見たエンタテインメントの一帯一路政策」
「厦門(アモイ)国際アニメマンガフェスティバル(厦门国际动漫节)」とは
11月14日から16日まで2泊3日で中国の厦門(以下:アモイ)市に出張してきました。
今回の出張は、中国政府、福建省文化娯楽担当部門が開催するゲームコンテンツのコンテスト(わかりにくくてスミマセン)の審査員に選抜されたためです。私の他に審査員として参加した日本側のメンバーは、株式会社トイディア松田崇志(代表取締役)氏、株式会社ムゲンコンボ 手塚武(代表取締役)氏、ゲーム作家いたのくまんぼう氏で、中国側との企画の調整は、厦門でゲーム開発を行う、株式会社グラティークの高橋玲央奈(代表取締役)氏が担当しました
このコンテストは、今年で11回目を迎える「厦門(アモイ)国際アニメマンガフェスティバル(厦门国际动漫节)」のゲームコンテストで、ゲームコンテスト自体は今回が初めての開催で、このようなコンテストが開催される背景には、中国でもゲーム自体が大きなカルチャー、エンタテインメントとしてその存在価値を十全よりも高めているからに違いありません。
このコンテストへの応募は中国、台湾、香港、日本のみならず、遥か南米からもエントリーがあり、その応募総数は全部で151コンテンツに及びました。その大半はスマートフォンのゲームアプリが大半でしたが、VRコンテンツもありました。
「厦門(アモイ)国際アニメマンガフェスティバル(厦门国际动漫节)」
公式サイト https://www.cybersousa.info/
VRコンテンツはめぼしい作品はなかったが・・・・
中国側の審査員のひとりにエンタテインメント系の投資をしているベンチャーキャピタリストがいましたが、彼に言わせると「今、中国で一番ホットは投資先はVRコンテンツ開発だ」とのことです。確かに国土の広大な中国ではVR施設を作る環境も整っていることも一因としてあるようです。しかし、実際の今回のコンテストではめぼしいVRコンテンツの応募がなく、残念ながら最終選考には残りませんでした。
一方、今回の応募作品の大半はスマートフォンの中国製ゲームアプリで、それらのコンテンツは日本を始め世界的なレベルと比較しても遜色のないコンテンツに仕上がっていました。またそれらは数人の開発メンバーで取り組んでいるものも多く、日本で言うところのインディーズ系ゲームアプリ開発者が多かったように思います。
それもそのはず、今回のコンテストに於いては賞金が供されます。日本ではこのような賞金つきのゲームアプリの開発コンテストは、私が知る限り一般的に見たことがありません。日本でもこのようなアクションやイベント、コンテストが開催されると流動性の欠けた今のスマホゲーム市場も活性化する光明が見えるのかもしれません。
ちなみに参考までに御紹介しますが・・・、
コンテストの賞金は厦門市人民政府から拠出され、その総額は50万元、日本円に換算すると約800万円でした。
最優秀ゲーム金賞 9万元 1件、最優秀ゲーム銀賞 7万元 1件、最優秀ゲーム銅賞 4万元 1件、最優秀ゲームアプリ賞 2万元 5件、最優秀ゲームアート賞 2万元 5件、最優秀ゲームプラン賞 2万元 5件 という構成になっていました。
また、スポンサーのゲームパブリッシャーから副賞として1000万元(日本円で約1億6000万円)相当のローカライズ、パブリッシング、マーケティング、ローンチなどを含むサポートが得られます。懸念事項は、現在、中国国内では新規の課金型のゲームアプリの導入許諾の審査が止まっており、版号(はんごう)と呼ばれる許諾番号が取得できない状態にあることです。なお、無料のカジュアルゲームであれば許諾と版号なしで市場導入ができます。
金賞受賞は「RPGタイム!~ライトの伝説~」
今回のコンテストの金賞に輝いたのは、6年間をかけて開発している「RPGタイム!~ライトの伝説~」です。子供の頃にRPGゲームを遊んで、自分でもダンジョンやマップを書いたかたも多いと思いますが、その想いと、当時を彷彿させる手書きイラストのマップのなかを冒険する素朴な味わいのあるコンテンツです。
6年間かけてゲームアプリを開発していること自体がものすごい執念と熱量だと思いますが、今回の金賞を得て、早めに市場導入が促進されることが望ましいと思っています。
「『RPGタイム!〜ライトの伝説〜』公式サイト
中国で始まった「新漫画」という新しい展開
そして、今回の出張でとても印象に残ったことを最後に皆様に御案内したいと思います。
このコンテストの中国側のコーディネートを担当した「ユーラボ」という会社の存在です。
正式な名称は「厦門優菜柏網絡科技有限公司」という会社ですが、主たる業務は中国で漫画の企画、開発、製作、出版を行っています。中国では紙で読むスタイルの漫画誌がほとんどなく、ユーラボの朱代表取締役は日本の漫画スタイルを日本からそのまま輸入し中国でそれを具現化しています。
朱代表取締役は早稲田大学に留学していたこともあり、日本の生活スタイルやカルチャーやエンタテインメントへの造詣が深く、日本の漫画黎明期にあった「トキワ荘」のような漫画家が共同で生活し切磋琢磨し合う環境を中国で再現しました。
企画、開発、製作、編集においては日本の一流出版社で編集の腕を振るったメンバーをヘッドハントしており、ほぼ日本と同じスタイルで漫画をプロデュースしています。それらは「新漫画」と銘打っており、すでに紙の漫画からヒット作品が生まれており、次はそれらの「ゲーム」化の企画も進んでいるようです。
このような展開は中国ではまだ無い市場を創造するという、ある種のマーケティング(市場創造)活動で、かつてアメリカの市場で起こったことは数年後に日本で必ず起こるといわれたタイムマシン経営のような図式でしょう。
中国には漫画の市場自体がほとんど無かったものが、このような日本スタイルと日本からの優秀なキャリアを持つ人材を連れてきて開発を行うというものが、家電や半導体などのようなハードウェア部門だけでなくソフトウェア部門でも起こっていることをもっと我々は知るべきではないでしょうか。
数年前まで日本のゲームクリエイター、プロデューサー、経営層に関わる人々は「中国のコンテンツやクリエイティブの追い上げはすごく感じているが、それらのスキルやナレッジの根幹が日本に追い付くには10年以上かかるだろう」という観測をしていた人たちが多かったと思います。
しかし、どうでしょうか。このコンテストを見るまでもなく、すでに中国メイドの良質な作品が日本市場でも目につきます。
やるからには徹底してやる、そんな中国の一帯一路的な思想と行動が見え隠れします。
今回のコンテストのような形ばかりでなくとも、日本と中国のコンテンツ共同開発や技術交流が促進され、双方が高いレベルでカルチャーやエンタテインメントを追求することでまた新しいコンテンツの水脈が見えてくるのではないでしょうか。
筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)
1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。