2018
08.31

黒川文雄のEyes Wide Open VOL.19「チャイナジョイ(Chaina Joy) 2018 参加ドキュメント (下編)  遠くて近いVRの旅路」

EyesWideOpen

灼熱のなか遥か彼方の展示棟を目指して 

前回の上編に続く・・・

 チャイナジョイW棟を観たのちにも、まだN棟、E棟と残り12棟の展示があります。

もはやその距離感は韓国の仁川(インチョン)空港かシンガポールのチャンギ国際空港のターミナルを徒歩で回る感覚と言っても理解いただけないでしょう。すくなくとも、成田空港の北ウイング、南ウイングのような歩いて回っても10分程度のレベルではありません。

とにかく、開催期間中にすべての展示棟を観て回らなければ参加した意味がありません。

日中の温度は36度前後でしたが、日差しが近い感覚があります。太陽が常に自分にフォーカスしているという表現が適切かどうかわかりませんが、じりじりと皮膚が焼けるような感覚を幾度となく味わいました。会場内には休憩ができるようなスペースも少なく、上部写真にあるような日陰のエリアはあっと言う間に参加者が休憩をするため埋まってしまいます。

家庭用ゲームとPCゲーム展示中心のN棟

今回、チャイナジョイ参加の目的にひとつには、現地の有力パブリッシャーとの面談も含まれていました。

そのなかには中国のゲームパブリッシャーのなかで、現在ナンバー1のポジショニングを維持するテンセントとの面談がありました。現在、彼らのメインターゲットは、自社で展開するメンセンジャー「WeChat」(ウィーチャット※)をベースに展開するHTML5のゲーム配信と、PC、モバイルのオンラインゲームによるeスポーツの促進です。

「WeChat」は日本ではほとんど使用しているユーザーはいませんが、中国本土では逆に使用していない人を探す方が困難なほど人気のメッセンジャーアプリです。「WeChat」は中国経済圏では圧倒的な利用率を誇り、利便性もあります。Apple PAYと同じようにデジタル決済への利用、レストランなどの待ち時間の表示と確認などにも利用されています。おそらく生活の大半の面倒なことがこの「WeChat」で行うことができます。

この「WeChat」の徹底ぶりは、良質なメッセンジャーアプリだったことに加えて、ある意味共産主義国家だからこと徹底できることではないでしょうか。もちろん自由な競争社会という側面もありますが、サービスをここまで徹底できるのはユーザーにとっても便利だと思います。

また「WeChat」の優れた点はゲームとの親和性です。

テンセント社は現在HTML5のゲームへの集中投資を行っており、自社開発はもちろんのこと、パートナーとの共同開発コンテンツも含めて常に良質な新作を探していました。メッセンジャーのなかで「WeChat」友達とゲームを共有したりすることができることがメリットです。

またテンセント社はeスポーツに関してもかなりの宣伝販促費を投入している様子で、日本とは比較にならないレベルでのブースでのイベント展開、告知を繰り広げていました。しかし、ここでもTwitchに似たようなロゴマークを使った「もどき」のサービスがあり、そのあたりは「良いモノはコピーして当たり前」的な中国らしさを感じました。

小覇王(シャオバーハン)?ってなに?

 ちょっとだけ家庭用ゲーム機で気になったものがありますのでご案内します。それは「小覇王(シャオバーハン)」社のブースで発見した「小覇王Z+」という家庭用マシンです。希望小売価格は4,998人民元(日本円で82,000円程度)です。

小覇王社は過去に著名なゲーム機などのエミュレーターマシンなどを多数導入してきた、いわばコピーマシンのメーカーだったと記憶しています。

しかし、このところ中国の他の企業がそうであるように、徐々にコピーのブランドからオリジナルへの転向を目指しています。今のところ、日本での発売などはまったく未定ですが、VRへの対応も可能なようで、ブースではVR向けのオリジナルヘッドセットも展示し体験を促進していました。

(オリジナルのHMDでの 小覇王Z+ VR体験コーナー)

社名に「小」がついている覇王ですから、まだ可愛げがあるのかもしれません。

E棟に辿り着いたその先にあったものは 

 小覇王(シャオバーハン)ブースでVRコンテンツを発見したのを皮切りに、最後に控えたE棟めぐりのなかで、VR系コンテンツのブースを多数見学することができました。それはホール1棟まるごとインテルが協賛しているPC系出展ブース群がそれです。

ホール1棟そのものすべてがインテルとの協力関係にあるコンピュータハードウェアメーカーやコンテンツメーカーであり、そこでの出展はeスポーツとVRが大半を占めています。

 

AMD、RAZOR、ゼンハイザー(ヘッドフォンなどの音響機器)、DXRACER(ゲーミングチェア)などとともにHTC VIVEが大きな展示ブースを出展していました。実際に、このホール棟にたどり着くまで3日かかっています。

AR 「ジェダイ・チャレンジ」

MARGE ARで体験するのは、映画「スターウォーズ」に登場するライトセーバーを使用しての「ジェダイ・チャレンジ」のデモ体験が行われていました。ライトセーバーを使用してのAR体験のなかではベストと評されているものです。こちらも体験列ができており、コンテンツへの関心の高さがうかがえます。このような名作映画からのスピンオフコンテンツは提供するほうも、体験するほうもわかりやすさがポイントになります。

https://www.lenovo.com/jp/ja/jedichallenges/

 

またフリーローム(ワイヤーが無く自由にスペース内を動くことができるVR体験)タイプのものが主流で、対戦モノは会場内でも数種類見かけました。ただしこれらはすでに様々なテーマでのVRコンテンツが各社から提供されており、特別なものはありませんでした。

圧巻のlVRパフォーマーのステージイベント

(写真:ステージではプレイヤーがソロで実演中・画面後方がVR画面)

インテル協賛ブースのなかで、一番ダイナミックなVR展示を行っていたのが、こちらのAMDのブースです。

メインステージでシューティング系VRゲームのパフォーマンスが行われていました。このパフォーマンスはかなりハデな展開で、魅せるVRプレイと言ってもいいかもしれません。ゲームのイメージは「Rez」(※)のような音楽とVRシューティングをうまくミックスしたようなものでした。

(※クリエイター水口哲也氏プロデュースのVRリズムシューティングゲーム)

写真に写っているVRと書かれたTシャツ、半パンのプレイヤーが踊るように魅せるプレイに終始していました。これがVR系のプレイ・パフォーマンスなのか、それとも単なるプレイなのかは判断できませんが、観客として観ている限り、ゲーム実況動画と同様に「うまい人のプレイは見ていて気持ちいい」という感覚に陥ります。

(VRゲーム画面)

今回、初めて参加したチャイナジョイですが、観るべき物量の多さ、展示のスケールに圧倒されました。読者に皆様に於きましても、機会を作って参加してみてはいかがでしょうか。

「チャイナジョイ、すごいらしいよ」と「チャイナジョイすごかったよ」では説得力が異なります。

いよいよ9月には幕張メッセで東京ゲームショウ2018開催です。中国がすごいとか、日本がすごいと言う話ではなく、それぞれにそれぞれの特色があると考えています。常に新しい発見と知識を得ていくことをお勧めします。

 

筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)

1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。