07.30
黒川文雄のEyes Wide Open VOL.18「Japan VR Fest. 銀座VR2 一体型VR祭」
2018年7月7日、銀座松屋デパートの裏手にある銀座フェニックスプラザ、日本一地価の高い場所で開催されるVRイベント、それが「Japan VR Fest. 銀座VR2 一体型VR祭」です。そして、驚くべきことにこのVRイベントは出展者費用無料、参加見学者の入場料も無料と言うものでした。
・・・いったいどのようにすればこのようなイベントが組成できるのかはわかりませんが、少なくとも主催者である「NPO法人オキュフェス」の調整力と努力に依るところが大きいと思われます。
このようなイベントは短期、単発的に開催されることはあっても、継続して開催し回を重ねることは容易ではありません。その意味でも日本におけるVR系コンテンツ開発者やその関与層への影響力は大きいものだと考えています。
今回は一体型オンリーフェス
イベントのタイトルにもあるように今回のイベントは「一体型VRデバイス」のみに出展コンテンツと出展者を絞り込んだものです。ゆえに、通常のインディーズ系VRイベントで出展している開発者とは若干ことなるタイプのVRコンテンツも多かったと思います。カジュアルなVR体験のものが多く、まだ開発途上のものもありました。
おそらく、このような多くのもののなかから新しいVRコンテンツが生まれてくることでしょう.
また、一体型の代表格である「Oculus Go」や、レノボとグーグルがタッグを組んで送り出す「Lenovo Mirage Solo with Daydream」(以下:ミラージュ・ソロ)など、軽量化され、ワイヤーレスのVRデバイスならではのものが生まれてくることを期待しています。
一体型ならではの簡易な体験
今現在の一体型のVRデバイスの基本的な用途としては、以前にコラムにも記したように、360度ビュアーとしての活用法とそのニーズは強いと思います。同時に簡単なVR体験用のツールとしても「パッと体験できる」という点も大きなメリットです。
会場で気になったものをいくつか挙げて見ますが、まずは「NPO法人オキュフェス」の運営を行う「桜花一門」の代表・高橋健磁氏がプロデュースした「Modern Archery VR (モダンアーチェリーVR)」。
コントローラーを弓のように持ち、簡単な操作で的を射るものです。2020年のオリピピックに向けての簡易型のデモVRコテンツとのことですが、首の動きとコントローラーを使用して的を狙うもので、VRならでは距離感、的に当った、外れたときの視点を移動してみることができる点が面白いと感じました。未来のeスポーツはこのようなものに変化していくのではないかという、フィジカルとバーチャルの融合を感じるようなコンテンツでした。
一体型のメリットを活かしてプレイする戦闘機バトルアクションゲーム「ACE PHANTOM」も良く出来ていました。体を左右に動かし敵機の攻撃をかわし、首を前後左右に動かし、視点でロックオンし迎撃するというシステムで、著名な戦闘機アクションゲームをVR化したらこうなるかも…というコンセプトも、早い者勝ちなVRゲームかもしれません。
個人ならでは独特な世界観
他にも「ブーメラン」でオブジェクトを攻撃するVRはブーメランを離すタイミングが難しく、このあたりは改善の余地を感じました。また斬首・ギロチンを体験するVRコンテンツも、「ああ、実際にギロチン台にのぼって斬首されるとこんな感じなんだろうな」と生暖かいリアリティを感じました。それと昔のATARIの「PONG!」(ブロック崩し)を立方体のVR化したものなど多様なものを体験することができました。
それとデバイスのほうも一体型の「IDEALENS(アイディアレンズ)」の最新モデルの体験展示もありましたが、こちらはスペックなども含めてまだ公開できる段階ではないとのことで、追って御案内できるときが来たらご紹介します。
空間的な拡がりを感じる「歩ける全天球動画」
4Kの360度撮影した動画をフォージビジョン社が「歩ける仕様」にコンバージョンしたものが「歩ける全天球型動画」だ。この対応デバイスはミラージュ・ソロで、グーグルのVRプラットフォーム「Daydream」に対応する一体型VRヘッドセットで、一体型としては、初めてグーグルのトラッキング技術「WorldSense」を採用したものだ。
内蔵センサーカメラで周囲を認識することで、ヘッドセット単体で使用者の動きを高精度に認識できるのが特徴。ヘッドセットにポジショナル・トラッキングが内蔵されているもの、そのため、体験者の位置をデバイスそのものが感知して、移動を含めた6DoF(degrees of freedom)3次元に動ける自由度(上下・左右・前後)が特徴となっている。
その特性を活かしつつ、先に挙げた360度動画を活かしたVR空間作りを行った。今回のVRデモにはしながわ水族館のトンネル水槽と、奥日光の湯滝の動画の中を歩く体験が出来るできるものだ。通常このようなVRデモは足元のポジションがはっきりせず、よく言えば浮遊感があるが、悪く言えばふらふらと酔う感覚を伴うのだが、このデモ体験VRは足元がしっかりと認識することが大きな特徴だ。もちろん、歩き回るためには、ある程度スペース的な余裕が必要だが、歩き回ることでの不自然さは全くない。
このVRデモを作ったのは、このデモを構築するためのミドルウェアを作成しており、それらを販売していきたいというためのものだという。とても自然な状態でのVR空間の演出と生成がなされており、注目に値するものだと思う。
VRが個人開発の枠を超えて、徐々に自身で起業したり、または彼らがどこかの会社に所属してコンテンツなどを開発するようになった。そのような今、VRコンテンツシーンはやや落ち着いた状況に思えるが、ワイヤレスヘッドセットのデバイスの販売は好調ななか、今後また新しいトライアルや新しい体験が生み出されていくことだろう。
Japan VR Fes
http://jvr-fest.com/
フォージビジョン株式会社
https://www.forgevision.com/
HOME360(しながわ水族館のトンネル水槽の動画素材提供)
VisualizeVision(奥日光の湯滝の動画素材提供)
筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)
1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。