2018
06.29

黒川文雄のEyes Wide Open VOL.16「「Oculus Go」パーソナルユースのアドバンテージ」

EyesWideOpen

前回のコラムで御案内済ですが、5月に発売されたVRデバイス「Oculus Go」の販売が好調のようです。その要因としては2万円代のプライスと容易にVRに没入できるという感覚がプラスに作用しているように思います。

現段階ではVRのキラーコンテンツがあるわけではありませんが、値段も手ごろだし、試しに買ってみた・・・というガジェット好きのユーザーにも概ね好評です。しかし、それはVRデバイスというよりも360度ビュアーとしての使い道として評価されているのかもしれません。

デバイス自体はGEAR-VRの一体版ヘッドセットという評価もありますが、むしろ、この価格帯で、それらを実現したことを評価すべきではないでしょうか。

写真)UNITE2018会場にて Oculus井口健治氏(Partner Engineering Specialist)

私個人に限ったことではないと思いますが、「Oculus Go」を使って映画やテレビなどの番組を観るというニーズは高いと思います。

VRを体験するには思ったほど心を惹かれるキラーコンテンツが少ないことに加えて、各家庭でそれを体験しようとすると、それなりのスペースを予め確保することと、さらに家族持ちならば、家族の理解も必要だからです。

ゆえに、パーソナルなツールとして、自分が観たいものを見るためのツールとしての「Oculus Go」は良い選択ではないでしょうか。

ただ、そこには課題もあるように思います。

それはどれだけ長時間の装着に個々人が耐えられるかという点です。

こちらは個人差があると思いますが、PSVRと異なり顔の上部全面をピタリと覆ってしまう「Oculus Go」は密着度が高いことが没入感というメリットでありながらも、圧迫感というデメリットにもなり得るからです。

過去に体験した「Oculus DK2」や「HTC-VIVE」のヘッドマウント・ディスプレイを例に考えますが、ある程度カラダを動かすゲーム系アクティビティの場合、体温上昇に伴って、ヘッドマウント・ディスプレイ内に汗が気化し曇ることが何度かありました。

もちろん今回の「Oculus Go」をソファに座ってじっとした状態で被験すればそのようなことはないかもしれません。それでも、密着した状態でのヘッドマウント・ディスプレイでの映像再現になるため、ある程度の熱が籠ることを考えると圧迫感や汗の発生は避けることはできないでしょう。

その点PSVRのほうは密着しないバイザータイプで、下部にスキマがある関係上、ある程度の熱の籠りを緩和することができます。その点の感覚の好みは分かれるかもしれません。

コミュニケーション手法の一助となるか

「Oculus Go」を販売するフェイスブック社が今考えていることは、いかに家庭にこのデバイスを浸透させるかということではないでしょうか。

それは現在のスマートフォンのビジネスモデルに良く似ていると思います。

全員がそうとは言いませんが、ガラケーからスマートフォンに乗り換えたユーザーは、スマートフォンの便利さを体感したらガラケーに戻るというケースはなかなか考えにくいのではないでしょうか。ただしガラケーとスマートフォンの二本持ちというユーザーは私を含めてまだ居ると思いますが…。

つまり、まずは価格面でアドバンテージを有する「Oculus Go」が、個々の家庭に受け入れされることが重要です。

そして、その家庭で「Oculus Go」(=VRデバイス)がその場所を確保することが初動段階で、それが次のバージョンアップ時の購買ユーザーになる可能性が高いと言う算段です。

つまりデバイスに満足が得られれば「Oculus Go」がバージョンアップされるごとにユーザーが買い替えるというビジネスモデルが生まれるのではないかという推測です。ただし、良質なコンテンツが定常的に提供されることや、使用法の拡張性がその買い替え需要を左右することは言うまでもありません。

その際、同時に進むことはデバイスのさらなる小型化です。

今回の「Oculus Go」もサイズ、価格面でも2018年度時点で良質なVRデバイスだと感じています。しかし、この先、パーソナルユースと長時間の使用を考えると、大きめのサングラス程度になって行くのが望まれるのではないでしょうか。

写真)Oculus Go

写真 (C) Oculus

筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)

1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。