2018
04.27

黒川文雄のEyes Wide Open VOL.12「バーチャルウォーズ」から「レディ・プレイヤー1」~VRと現実が融合する日

EyesWideOpen

スティーヴン・キングの原作小説「芝刈り機の男」(原題:The Lawnmower Man)を御存じでしょうか。

原作小説は、芝刈り機で庭の芝刈りを任されていた男が、悪魔の化身を自称し、雇い主を芝刈り機で斬殺するという内容です。キングならではストーリーと背景の設定が秀逸な名作です。

(写真:現在は絶版中の「バーチャルウォーズ」VHSカセット 著者所有)

1992年、この小説を基に劇場公開映画“The Lawnmower Man”が公開されました。日本での公開作品名、邦題は、ちょっとダサ目の「バーチャルウォーズ」・・・映画配給は松竹富士、おそらく松竹富士か、もしくはビデオ販売元であるSPO(エスピーオー)が邦題を考えたものでしょう。

小説「芝刈り機の男」が「バーチャルウォーズ」になるには理由もあります。原作の小説とはまったくかけ離れた内容の映画になってしまったからです。

映画は、西暦2001年、脳の活性化を研究しているアンジェロ博士(演じるのは、後に007・ボンド役に抜擢された俳優、ピアース・ブロスナン)は、新たな実験の被験者を探していた。

そんなある日、知的発達障害を持ったジョーブと出会う。彼は庭の芝刈りを手伝う心優しい青年であったが、世話をしてもらっている教会の牧師からは日常的な虐待を受けていた。博士はコンピュータを使ったバーチャル空間を用いて、ジョーブの脳を活性化しようと実験を施したとところ、ジョーブは恐ろしい力を手に入れてしまう。今まで自分を差別してきた人々を、バーチャル空間を支配することによって復讐し、さらには世界を征服するという映画オリジナルのストーリーになっています。

これでは原作者のキングが激怒するのも無理はありません。公開当時、原作のクレジットから自身の名前を削除させたという逸話も残っています。

私はかつて映画配給の仕事に携わっており、ある程度の映画に関する知識を他の方よりも持っていると思いますが、ウィリアム・ギブソンの原作による「JM」(キアヌ・リーブス/北野武 主演)や、ウォシャウスキー兄弟(今は姉妹)の手に依る「マトリックス」などバーチャルリアリティ的な世界観を描いた作品はありますが、バーチャルリアリティを映画として描いた作品はこの「バーチャルウォーズ」が初めてだと思います。

おそらく1990年代のバーチャルリアリティの状況を研究し、ヘッドセット、グローブ、フルスーツ、そして、VRを映画として表現した作品でしょう。ちなみに、昨年サンノゼで開催されたシリコンバレーVRエキスポは90年代のバーチャルリアリティ専用のデバイスが多数展示されていました。

(写真:Virtual Research VR4 1994年製)

 

(写真:FAKESPACE PINCH GLOVE 1995年製)

原作者キングの反発をよそに、映画の設定自体は悪くないのですが、要所に挿入されるCGアニメで作られた主人公が進化したバーチャルリアリティ・キャラクターが登場するたびに、チープな映像になってしまい、観るものを萎えさせます。

おそらく今のCG技術でリメイクするに相応しい作品だとは思うのですが・・・現在の映像市場を鑑みると、ちょっとタイミングを逃してしまった感があります。

余談ではありますが、この「バーチャルウォーズ」はプレイステーション向けのソフトにもなっており、動画投稿サイトなど探せば、その面妖なゲーム演出の一端も観ることができます。

スピルバーグ監督の新作映画「レディ・プレイヤー1」(絶賛上映中)がなければ・・・

(写真:レディ・プレイヤー1より)

 先に挙げた「バーチャルウォーズ」のリメイクは、現在のテクノロジーや表現技法を用いればいともたやすく実現することでしょう。

それは、おそらく、現在公開中のスティーブン・スピルバーグ監督の「レディ・プレイヤー1」が製作されていなかったらリメイクする価値はあったと思います。しかし、「レディ・プレイヤー1」が全世界で公開されてしまった以上、現時点のテクノロジーと演出表現をもってしても、「レディ・プレイヤー1」を超える映画は出来ないと思うからです。

「レディ・プレイヤー1」の原作はアーネスト・クラインの「ゲームウォーズ」と呼ばれる作品で、日本でも書籍化されています。

アーネスト・クラインは、アメリカが生んだオタクの権化のような存在で、ゲーム、アニメ、などのコンテンツへの愛情と知見に溢れています。なかでも自身が幼少期に体験したアタリ社のゲームハードとゲームソフトへの想いと、それを未来に融合したアーネスト・クラインの未来予想図が「ゲームウォーズ」の原作のなかに散りばめられています。

バーチャルリアリティ・ワールドのイースターエッグ探し

 物語は2045年、ゲーム開発者、VRゲームワールド「オアシス」の創設者・ジェームズ・ハリデーの創り上げたVRワールド「オアシス」の中に隠したカギを3つ手に入れたものに「オアシス」の権利のすべてを与えるという設定です。

物語として当然ながら善玉と悪玉の設定があり、少年・ウェイドを中心に、ゲームを純粋の楽しみながらカギを探すアバターチーム、対するは企業としてゲームの支配権を掌握すべく悪の限りを尽くして対抗するIOI社のシクサーズ陣営との抗争軸が映画を展開です。

ストーリーとその顛末は出来る限り大きなスクリーンの劇場で観るべき作品でしょう。

それはスクリーンの隅々までありとあらゆるキャラクターで埋め尽くされ、それをどれだけ探せるかという楽しみ方があるからです。それでも気が付かないキャラクターや設定は友達同士で情報交換をするという楽しみ方もあります。二度三度観ても新しい発見があるかもしれません。それと作品の中でスタンリー・キューブリック監督の名作「シャイニング」へのトリビュートシーンも見逃せません。

バーチャルリアリティの未来はもしかして・・・こうなのか?ということを感じさせるスピルバーグならではの作品です。

バーチャルリアリティ・ワールドの実現は近い

「レディ・プレイヤー1」を観て思うことは、スピルバーグ監督だからこそ、この作品は実現できた作品ではないでしょうか。他の監督だったら、ここまでのキャラクターの許諾は取れなかったかもしれません。すべてはスピルバーグのイマジネーションを信じてコンテンツやキャラクターの使用許諾を出したと考えても良いと思います。

(写真:レディ・プレイヤー1より)

かつての「セカンドライフ」とは異なり、よりリアルで、コミュニケーション要素を含んだバーチャルリアリティ・ワールド「オアシス」のような世界観の実現はそう遠くないタイミングで具現化することでしょう。

そのときには、僕も貴方も今を生きる自分とは別人格のアバターとして、バーチャルリアリティ・ワールド内ですれ違うこともあるかもしれません。

未来って、気が付くとそこにある。もしかするとバーチャルリアリティのなかにあるのかもしれません。

 

レディ・プレイヤー1 公式サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/readyplayerone/
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筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)

1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。