2017
05.15

黒川文雄のEyes Wide Open VOL.1「もう歯医者に行くことをイヤがらない・・・?!」

EyesWideOpen

「拡現人」の読者の皆様、初めまして黒川文雄です。

詳細なプロフィールは欄外のものをご参照いただきたいのですが、ゲーム産業界に長く関わり、ゲームコンテンツはもちろんのこと、現在は特に、AI(人工知能)、VR(バーチャル・リアリティ)、AR(オーギュメンテッド・リアリティ)、MR(ミックスド・リアリティ)に関心を高めております。

今回より、「拡現人」にてコラムを担当します。宜しくお願いいたします。

さて、まずコラムのタイトルですが“Eyes Wide Open”とは何か?ですが…、英語の慣用句で「大きく目を見開いて」とか「目を皿のようにして」という意味の言葉になります。

ちなみに、私の好きな映画監督、スタンリー・キューブリック監督の遺作「アイズ ワイド シャット」という作品がありますが、あの作品はお互いに観てはいけないものは観ないようにする…というような、人間の禁忌に触れてはいけないことをテーマにした作品でした。

このコラムでは、常に情報の感度を上げ、私なりの感性で目を見開いた状態で皆様に何かを伝えられればと考えています。長いお付き合いを頂きたく宜しくお願いいたします。

 

街角の未来は、身近にある未来…

皆様の近所にあった古い家が取り壊されていつのまにかマンションやオフィスビルになっていることはありませんか?

それは、いつの間にか始まって、気が付いた頃には終わって、新しい何かに変貌をしています。

そんなとき、「あれ?ここには前に何があったかな・・・」ということが思い出せないことが良くあると思います。それは記憶の上書きのようなものでしょう。不要な記憶は脳内で消去され、新しい印象や記憶によって上書きされるようなものです。実は未来もそのようなかたちで、我々の生活のなかで、いつの間にか気が付くと「未来だと思っていた何か」が実はすでに実生活に浸透していることがあります。

様々な事例があると思いますが、馬車に変わって自動車、階段に替わるものとしてエレベーターやエスカレーター、自動改札、ETCなど、未来はいつの間にか当たり前にように近づいてきて、浸透しています。そんな身近な未来、上書きされる過去と未来こそがMRなのかもしれません。

 

ソフトバンクが挑戦する医療分野開拓

去る4月21日、私はお台場にある、歯科医療機器販売の株式会社モリタ(以下:モリタ)のショールームにいました。
この日は、モリタとソフトバンクの子会社リアライズ・モバイル・コミュニケーションズ株式会社※による
AR(拡張現実)とVR(仮想現実)のテクノロジーを重ねあわせた歯科治療技術の発表会に参加しました。
※旧 ソフトバンク・モバイル株式会社

簡単に言えばオキュラスのヘッドマウントディスプレイ(以下HMD)を装着し、外部のカメラモニターの映像を HMD内に融合して、歯科治療患者のカルテデータ、レントゲンデータ、治療する個所の画像や、歯と骨との状況など、肉眼では確認しにくい部分をAR+VR=MRとして表示し、治療を促進するというものを見学しました。これらは実際の民間の歯科治療に導入する前提ですが、現在は歯科医の研修などに先行して活用することです。

このシステムソフトの開発には1年ほどの月日を費やしたそうですが、使用しているデバイスはすでに民生用で購入できるオキュラス・リフトを前提にしており、ハードウェア自体のコストは50万円程度という説明がありました。しかし、HMD内に投射する患者の個人のカルテデータの視認システムソフトや治療に最適化するために施術個所の提示や表示などのシステムソフトにはかなり予算を割いて開発されたものと思います。

 

VR+AR=MRの進化は医学にとってプラス

簡単に歯科治療のフローを説明します。医師がHMDを被ると、位置を測定するセンサーで患者の歯列などの位置をリアルタイムで検知します。そして、目に見えない口腔内の神経や血管の位置、骨の形状のコンピューターグラフィックス画像をつくったうえで、HMDの前面に搭載したカメラで撮影した患部の映像に重ねて表示し、治療必要な個所をVR上でガイドしつつ、治療するというものです。カルテなどに手で直接触れないことを前提に清潔さを維持するためにLeapMotionの採用も行っています。

今までの歯科治療は医師自身がもつナレッジや経験がものを言う部分が多かったと思います。

また、口腔という特殊な部位を扱うことから、患者は、かかりつけの歯科医がヤブっぽいとは思いながらも、なかなか新しい医師に替えることが出来ないのが実態ではないでしょうか。…かくいう私がそうなで、「この歯科医は信用できる」と思うと他の医者に診てもらうことを極端に嫌うことがあります。

だからこそ、町の医者は固定患者でやりくりができているのだと思います。

しかし、仮に、このVR+AR=MRの技術が幅広く受け入れられたら飛躍的に治療法や技術的な進歩が望めるのではないでしょうか。すくなとも、歯科治療による、削り過ぎや、詰め物の不具合などのケアレスな医療ミスは大幅に削減できるものと思います。

今はエンタテインメントでのVR、AR、MRなどの技術や賑やかな話題が我々の耳目を引きますが、実はこのような未来が知らず知らずに浸透していることが重要なことだと思います。「そういえば、そんなこともあった」という人の記録、記憶は曖昧なものですが、技術の進歩、意識の変化のなかにこそ見えない未来はあるのかもしれません。

了)

治療デモ映像

リアライズ・モバイル・コミュニケーションズ株式会社
http://www.realize-mobile.co.jp/w/ja/news/press/2017/2680/

 

筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)
1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。