2020
02.04

【World MR News】「AUGMENT(拡張)」で体験を拡張していく。KDDIが取り組む事業創造――「KDDI INNOVATION MAKERS 2019」レポート

World MR News

KDDIは、11月13日に東京・渋谷のTECH PLAY SHIBUYAで同社が取り組む注目領域での取り組みや今後の戦略を紹介するイベント「KDDI Innovation Makers 2019」を開催した。このイベントは2回に分けられて開催され、今回はそのDAY1としてXR、ブロックチェーン、IoTをピックアップ。DAY2は11月27日に開催され、そちらは「5G時代の共創」をテーマに実施される。本稿では同イベントの中から、XRに関する話題に焦点を当ててご紹介していく。

同社では、この「KDDI Innovation Makers」というイベントを開催している。ここのところのテクノロジーの発展やグローバル化など、ライフスタイルの多様化もあり、同社を取り巻く環境も大きく変化してきており、“通信会社”から“ライフデザイン企業”に変わろうと、様々な挑戦をしている。その一部を紹介するのが、このイベントの趣旨だ。

■「5G時代のXRを活用した取組み」

KDDI パーソナル事業本部 サービス本部 プロダクト開発1部の水田修氏と下桐希氏からは、「5G時代のXRを活用した取組み」というテーマでセッションが行われた。

写真左から水田修氏と下桐希氏。

KDDIは元々通信の会社であるため、音声を使用したコミュニケーションがメインだ。しかし、今後は5Gなどの登場もあり、より視覚的なコミュニケーションが実現できるようになっていくと考えている。たとえばセリフを入れると話してくれる「Digital Human」や、ARグラスの『Nreal』、マーカーを使わずに今いるところがどこかわかる「VPS(Visual Positioning Service)」を使うことで、CGのキャラクターを屋外に設置することもできる。

また、サッカーなどのスポーツをリアルタイムや録画されたものを、自由な視点で観ることができる「自由視点」というものも取り組んでいる。

「VPS」については、渋谷駅でスマートフォンをかざすことで向いている方向などを把握して空間にロゴや風船のCG、動画が流れていないところにビジョンを出すという取り組みを行っている。こちらの仕組みは、衛星写真から3Dマップを作り、それとスマートフォンから取得した画像と認識を合わせている。そのため、スマートフォンが今どこにいてどの方向をみて、どの角度を向いているかという情報を取得することができるという技術である。

応用としては、3Dのオブジェクトを建物にぶつけるゲームなどにも利用することができる。また、特定の場所にいったときにそれをトリガーとしてキャラクターを出現させることも可能だ。

KDDIがなぜこうしたものに取り組んでいるのだろうか。その理由のひとつは、XRのマーケットが伸びているのが理由だ。また、アップルがARグラスを開発中という噂が流れるなどハードウェアの市場も伸びてくると言われているのも理由である。

昨年、PCやスマートフォンなどのデジタル媒体が、4マス媒体よりもユーザーに使われている状況になってきている。そこで通信をメインにしている同社も、見逃せない状況となってきているのである。

地図や天気などのアプリが上位で使われており、5Gが出てきたときにさらにそうしたニーズが高まっていきスマートフォンがさらに便利になると考えているそうだ。 

KDDIがXRに取り組み始めたのは、2016年ごろからだ。産業用途が多いことから、まずは法人向けのソリューションからスタートしている。しかし同社には、エンドユーザーが4000万人いるため、そうした顧客に向けて何が出来るか考え、徐々にコンシューマー向けにも広げてきている。

VRよりもARのほうが使う範囲が広かったため、結果的には現在のマーケットの動向と上手くシンクロすることができたという。

同社では、5G時代にどんなことができるかを戦略に様々な取り組みを行っている。そこで使われている言葉が「AUGMENT(拡張)」だ。従来までは、スマートフォンを使って様々なコンテンツを届けることを生業にしてきた。しかし、5Gで何かをすることはスマートフォンを単に進化させるということだけではなく、現場の価値を上げることに特化していかないと5G打ったところがピカピカにならないという気持ちがあるという。

そのため、単なるデジタル体験ではなくリアルな体験にアプローチしていくことがメッセージとなっている。

実際に取り組んでいる事例としては、「AUGMENT WALK」として、渋谷区と街の社会課題を解決していくという新しい課題に取り組んでいる。渋谷区ということでエンターテイメントにコミットして進めており、この9月から「渋谷エンタメテック推進プロジェクト」をKDDIと渋谷観光協会、渋谷未来デザインと共に、社会実験的かつ街に新しい事業を生み出すものをアプローチしている。

■渋谷エンタメテック推進プロジェクト #Shibuya5G

https://shibuya5g.org/

先ほどの「VPS」を活用したコンテンツでは、多くのインバウンドの観光客が来たときにわかりやすいサインを直感的に表示するようにしている。例えば空を見上げれば天気予報が表示され、駅を見ると電車の遅延情報が表示されるといった感じだ。これは従来までスマートフォンを見ながら検索していたものを、直感的なものに置き換えているのである。

外国人向けに多言語の看板を、実際の渋谷の街に増やしていくのは情報量やコストなどに限界がある。それをデジタルで乗り越えることができるか、ダイバーシティの観点からも取り組んでいる。

これを皮切りに、毎月渋谷の街でイベントが開催されている。10月には「渋谷音楽祭2019」を開催している。こちらは、歩きスマホなど街中でかざすことへの課題があることから、耳に焦点を当てたモノだ。

特定の場所にたどり着いたときに、その人の気分と天気、時間帯に合わせて一番気持ちのいい音楽をAIでジェネレートして聞けるようにしている。

11月に実施したのが「WHITE NIGHT WEEK」だ。こちらは、渋谷の観光資材テーマである「ナイトタイムエコノミー」に焦点を当てたものである。渋谷は人が多いのにもかかわらず、あまり夜は楽しめない街になっているというのが大きな課題だ。そこで、夜に映えるということで、アートで街を繋ぐという企画を実施している。

実施した場所はSHIBUYA CAST.で、アートと作品をデジタルで作りそれと同タイミングで実際のアートも体験できるようにしている。こちらは、Psychic VR Labのアワードを受賞した作品もいくつかプレビューできるようにしている。 

これらは、渋谷という街自体を、デジタルで新しい経済を生み出す街にしていこうというテーマで行われている。そこに、情報や音楽、アートを足していったが、まだまだ取り組んでいないものも沢山ある。そうしたものを「VPS」などを活用して、次のビジネスをシティースケールで生み出していこうとしているのだ。

これらは、4G時代ではKDDIという企業がスマートフォンだけでは実現することができなかったものばかりだと水田氏はいう。そのため、同社としても試行錯誤しながら悩みながら進めているという。まだまだ5G時代が到来したときに、それに付随してXRなどの最先端テクノロジーがどのように係わってくるのか未知数の部分も多いが、今後の動向にも注目していきたいところである。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。