06.13
黒川文雄のEyes Wide Open VOL.39「グーグル Stadia(スタディア)のポテンシャルとその包囲網について考えた件」
ちょっとがっかりなStadiaというマシン?!
前回のコラムVol.38で、5月16日のソニー・インタラクティブエンタテインメントとマイクロソフトの提携発表はゲーム業界の必然的なものだ・・・と書いたばかりですが、3週間経過した、6月7日にグーグルが話題の家庭用ゲーム機「Stadia(以下:スタディア)」の発表を行いました。前回の情報がプアーすぎたので今回の発表には世界的に大きな期待が寄せられていたことでしょう。
そして、その発表からたった2日後の6月9日には、マイクロソフトからXboxの後継マシン「PROJECT SCARLETT(プロジェクト・スカーレット)」の発表がありました。まぁ、ちょうど、E3(6月11日―13日まで開催)の直前の情報リリースなので、この原稿が掲載された頃には、より詳細な発表や展示が行われることでしょう。
これだからゲーム産業界は面白いんですよ…。昨日までの追われるものが、今日は追うものになるような、逆もまた真なり、このダイナミズムこそがゲームの本質です。
さて、実際にグーグルの発表したスタディアですが、ファーストインプレッションはがっかりなモノという印象です。理由は後述しますが、まずは一般的なスペック紹介をします。
従来型の家庭用ゲーム機の最終電車
スタディアは日本国内での導入時期がまったくわからない状況なので、どのメディアも外電の発表かグーグルの公式発表をそのままなぞっています。
先行導入は11月の予定で、国または地域限定的なものとなり、今の時点では米国やカナダ、英国など14カ国(ベルギー、フィンランド、カナダ、デンマーク、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、オランダ、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、イギリス、アメリカ)。来年には日本はじめ…?さらに利用地域を拡大するそうです。期待しています。
個人的にはアメリカでの展開よりも日本での展開を先行した方が、テストという意味合いでも通信環境など整っていると思うんですが、残念です。
その他にわかっていることは、「クロームキャスト」を装着したテレビでも対応可能とのことで、2020年からはブラウザー「クローム」搭載したPCやスマホ「PIXEL」への対応可能です。いずれにしてもデータを端末にダウンロードする必要がないので、加入者であればいつでも、どこでも対象地域ならばプレイが可能とのことです。まあ、理想的な部分もあります。
サービスに関してですが、まずは有料版に加入したほうがいいでしょう。
先行ユーザーには、3カ月分の利用料やコントローラなどで、定価ベースだと300ドルのものが、導入キャンペーン価格で129ドル99セントのパッケージ販売があります。2020年導入予定の4K、60fps、HDR、5.1chサラウンドをサポートするプランは月額制の「スタディア・プロ」で、9ドル99セント(約1000円なのでPSNと同等ですね)で31作品が遊べるとのことです。
そして、無料版もあります。スタディア・ベースというもので、利用可能は2020年、解像度は最大1080pまでに対応。5.1サラウンドには非対応なので、まぁ、無料なりのものです。
Stadia Connect 6.6.2019 – Pricing, Game Reveals, Launch Info & More
スタディアで導入予定のゲームタイトル
(※代表的なものをピックアップ)
バンダイナムコ:ドラゴンボール ゼノバース2
ベセスダ:ドゥーム2016、:ドゥームエターナル、Wolfenstein:Youngblood他
バンジー:Destiny 2
セガ:Football Manager
SNK:サムライスピリッツ(Samurai Shodown)
スクウェアエニックス:ファイナル ファンタジーXV、トゥームレイダー ディフィニティブエディション、ライズ オブ ザ トゥームレイダー、シャドウ オブ ザ トゥームレイダー
2K:NBA 2K、ボーダーランズ3
ワーナー:モータルコンバット11(Mortal Kombat 11)
THQ:Darksiders Genesis
UBIソフト:アサシン クリード オデッセイ、Just Dance 他
カプコン:未定
エレクロニックアーツ:未定
Rockstar:未定
がっかりなポイントってなに…?
過剰な期待感をもっただけかもしれませんが、現状の通信環境でのスタディアの導入に関してはマイナスイメージを引き起こしかねないではないかと言うことです。
もちろん日本での導入を遅らせたのは、「実は日本のゲームユーザーのシビアさを感じていたので……導入を先送りにしたのではないか…」ということ考えられます。
だって、一度、二度でも「通信遅延」とか「フレーム遅延」とかあったら日本のゲームユーザーからは総スカンもあり得ますし、「クラウドゲームだから、こんなものだろう」という感覚が通じないような気がします。そのため海外でのデバッグとチューニングを万全にして、さらには日本での導入は2020年に促進する5G環境を見据えての導入見合わせだったのかもしれません。
発表に依れば4K、HDR、5.1chサラウンドを実現するためには、35Mbpsの速度を安定的に供給するインターネット回線が必要で、HD画質(720p、60fps)を実現するには、10Mbps以上の速度を持つ回線が望まれるということですからね。現時点ではPSNとの差があまり感じられないと思います。
そんな折に、先に挙げたマイクロソフトがXboxの次世代機で、現行のXbox One X」の4倍のパワーを誇る「プロジェクト・スカーレット」を、2020年、アメリカのクリスマス商戦に投入することを発表しました。こちらもスタディアと同様に日本での発売時期は未定です。およそ7年ぶりの新型家庭用ゲーム機の導入です。
Xbox Project Scarlett – E3 2019
さらには、スタディアに対抗してか、マイクロソフトも、ゲーム機を必要としないストリーミング方式のクラウドゲーム事業「xCloud」(仮称)を北米で10月に開始すると発表しました。
益々激化するクラウドゲーム、サブスクリプション制の波はアップルも巻き込んで最終戦争、審判の日を迎えることになるようです。また世界中のゲームユーザーを巻き込んだ大きくて新しいゲームの始まりです。
筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)
1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。