12.11
【World MR News】このままでは日本のXR市場シェアは4パーセントまで低下する? ビジネスXRにおけるグリーの取り組み――「OMC2018 -XR MeetUP with Taiwan-」レポート②
12月3日に東京秋葉原の秋葉原UDXで開催された、日本と台湾のXR業界によるミートアップイベント「OMC2018 -XR MeetUP with Taiwan-」。本稿ではその中から、グリー 開発本部 XR事業開発部 部長 原田考多氏による日本XRセッション「日本におけるビジネスXRの現状と当社の取り組み」をレポートする。
XR市場ではB2B(B to B)は期待できる分野になる
XR市場は2017年から2025年にかけて、約1000億USD規模まで急成長すると予測されている。世界のAR/XR関連支出額では、2022年までに2087億ドルになり、そのうちの65パーセントほどをB2Bが占めるようになるという。こうしたことから、XR市場ではB2Bは非常に期待できる分野であることがわかる。
それにともない、投資家の関心事も移り変わってきていると原田氏はいう。最初はヘッドセットからスタートしたのが、VRコンテンツを簡単に作ることができるツールやミドルウェアを制作している会社に投資先が移り、現在はエンタープラズのほうに投資が流れてきているのだ。
それでは、エンタープライズで期待できる領域はどこだろうか? VR IntelligenceとSuperDataが発表したXR産業に関するレポート「XR Industry Survey 2018」によると、導入済みユーザーの分野別割合ではエデュケーションが1位で23パーセントを占めている。
また今後注力する産業では、1位をゲームとエデュケーションでそれぞれ50パーセントとなっており、以降、ヘルスケアやフィルム/TV/ブロードキャストメディアと続いていく。
このように、エンタープライズ領域ではエデュケーションや医療、AEC(建築・エンジニアリング・建設)などに注目が集まっているという。
ちなみに、アジア圏は直近5年間で市場の過半数を占めるようになり、市場の牽引役になると予測されている。そこで気になるのが、日本のXR市場だ。現在市場シェアの28パーセントを持つ日本だが、これが2022年にはなんと4パーセントまで低下すると言われている。つまり、アジアの成長率と比較して日本は相当遅れを取るであろうと予測されているのだ。
また、世界のヘッドマウントディスプレイ出荷数の予測では、VRに関しては日本もある程度世界に追随するレベルで伸びていくが、ARの伸びは低いと言われている。
グリーでは、この市場シェア4パーセントを28パーセントにすることが今やらなければいけないことだと考えており、そのための切り口がエンタープライズであると原田氏はいう。
日本における「VR」という用語の認識率は、87.6パーセントと高い。これは、2016年のVR元年以降様々なコンテンツが登場してきたこともあり、言葉だけは聞いたことがあるという人が多いからだ。しかし、現物のヘッドマウントディスプレイを見たことがあるという人は、21.2パーセントとまだまだ低いままである。
実際にグリーでアンケートを取ってみたところ、見たことがあるという人の中でも実際はヘッドマウントディスプレイではなく遊園地のプロジェクションマッピングのようなものだったということもあったという。
そのため、見たことがあるという21.2パーセントという数値も怪しく、実際はもっと少ないかもしれない。このあたりが、日本で市場を大きくしていくうえでの課題だと、原田氏は語る。
VRの職場での活用についてのアンケートでは、38.7パーセントが可能性を感じると回答している。その中で、「非常にあると思う」と回答しているのは11.1パーセントにとどまっており、職場での期待値はまだまだであるということがわかる。そのため、流用性を示していきながら利用を促進していく必要があると原田氏はいう。
また、勤務先企業での活用の可能性がある用途としては、1位が研修やトレーニングで48.2パーセントとなっている。2位は顧客への商品説明やプレゼンテーションで37パーセントとなっており、社員や顧客に対して何かしらの理解度を上げるためにVRを活用するニーズがあることがわかった。
マネタイズ面でも教育VRは魅力的
グリーでは元々ゲームを開発しているということもあり、エンジニアなどは多数在籍している。また、ゲームの配信プラットフォームも運営しており、コンテンツを配信する仕組みも持っている。これらのリソースを活かした、受託開発・制作サービスも行っている。
業務用とは別に行っているのが、「採用VR」だ。これは、全国の企業訪問を喫茶店でできるというサービスである。様々な企業訪問のVRコンテンツを作り、大学生専用の無料カフェにVR機器を設置して提供している。
会社を公開している企業は23.1パーセントだが、それを希望している学生は39.5パーセントもいる。このギャップの16.4パーセントをVRで埋めるというのが基本コンセプトとなる。こちらは年間45万人の来客数があるという。
また、同社で一番期待しているビジネスモデルが、「研修VR」であるという。クライアント企業は、社員向けの研修を行いたいと考えている会社だ。管理職研修を社員が行っても上手くいかないことが多く、外部の研修プログラムに頼ることが多い。
グリーでは、こうした外部の研修プログラムを提供している提携企業に、「+VR」のメニューを作ってもらうということを実施している。
また、講師とVRをセットにしたビジネスモデルも用意している。こちらは顧客だけで完全に完結できるものにしており、元々は会社によく導入されているeラーニングのVR版を作ろうというところからスタートしている。
コンテンツを顧客自身が作り続けるということを簡単にできないと、継続的に使ってもらうのは難しい。そのためのVRオーサリングツールを提供しているほか、マルチテナントの管理者機能にストリーミング配信システムも提供している。
システムサービスとして「XTELE」を活用している。こちらはVRコンテンツのストリーミング配信サービスで、研修以外にも活用できる。例としては、JTBの大曲花火大会のVR Live配信にも活用されている。
同社では米国ybvr社の代理店も行っており、ヘッドマウントディスプレイで見ているところだけを最適な画質にし、見ていないエリアのPixel密度を下げることで、高画質かつ低データサイズのライブストリーミングサービスが行える技術を導入しているという。
「教育VR」では、今年の7月に「VRで月面ドライブ!月の環境を体験しよう」というイベントを開催している。また、12月22日から1月7日にかけて、VR体験サイエンスツアーも実施する。
教育とVRを融合することで、「学ぶべき多正しい内容」にVRの特徴である「高い体験性とポータビリティの両立」「三次元でピンとくる」「インタラクションによる興味の深まり」をプラスすることができる。
このVRを教材化するメリットは、ビジネス的にも大きいと原田氏はいう。そのポイントはふたつあり、ひとつは「回転率の向上」だ。ユーザーをさばく回転率が悪いと収益化ができない。しかしVRでは体験の時間が短くとも、体験の密度が濃いため回転がいいのが特徴だ。
もうひとつは「開発コストの圧縮」である。ゲーム開発では、レベル設計ややりこみ要素を盛り込まないとユーザーに遊んでもらえない。これを学びにフォーカスすることで、開発コストを大きく引き下げているのだ。そのため、VRのマネタイズという意味でも、教育VRは魅力的なのである。
Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。