2018
12.11

【World MR News】ソフトバンクが考えるコンシューマーVRビジネスの課題と可能性――「OMC2018 -XR MeetUP with Taiwan-」レポート③

World MR News

日本と台湾のXR業界が一堂に会したミートアップイベント「OMC2018 -XR MeetUP with Taiwan-」が、12月3日に東京秋葉原の秋葉原UDXで開催された。こちらでは、ソフトバンク コンシューマ事業統括部 プロダクト&マーケティング統括新規事業開発室 新規事業推進部 VR事業推進課 課長の加藤欽一氏による、日本XRセッション「コンシューマーVRビジネスの課題と可能性」についてレポートする。

ソフトバンク 加藤欽一氏。

VRビジネスではハードの普及もコンテンツ作りも重要

VR関連のビジネスでは、「ハードが普及してない」「コンテンツが足りない」といった、鶏が先か卵が先か的な議論がよく出てくる。これはどちらが重要というものではなく、ハードも普及させていく必要があるし、コンテンツも作っていく必要がある。

ハード面ではフェイスブックはかなり攻めており、9月にはハイエンド一体型デバイスの『Oculus Quest』を発表している。今年は他にも『Mirage Solo』や『Oculus Go』、『VIVE Focus』なども発売されており、ある意味スタンドアローン元年とも言える年となった。

このスタンドアローン型VRヘッドマウントディスプレイには、価格が従来までの3分の1と非常に安く、インパクトがある。また、高性能なPCも不要で単体で利用出来るところも特徴だ。これは、コンシューマー向けとしてはもちろんだが、業務用で使う場合も有利な面が多く、使い勝手が良い。

一方ソフト面では、剣で音を切り刻んでいくリズムアクションゲームの『BEAT SABER』が発売1ヵ月で10万本を突破するなど好調だ。また、「VTuber」と呼ばれる日本独自のバーチャルYouTuberも、すでに5000人以上が誕生している。こちらは企業コラボなどにも採用されるなど、一般の人も目にする機会が多くなってきている。

VRでは、バーチャル世界に入ってコミュニケーションができるところも大きな価値のひとつだ。『VR Chat』が10日で200万インストールを達成したり、『AltspaceVR』がマイクロソフトに買収されたりするなど、注目度が高い。その先には、バーチャル空間で観戦する「ソーシャルVR観戦」なども出てきており、今後もますます広がっていきそうだ。

世界と国内のVR活用事例

続いて世界と国内の活用事例の紹介が行われた。ゲームは、海外では『Fallout 4 VR』や『ザ エルダースクロールズ V:スカイリム VR』などハイクォリティなCG描画が追求されている。日本でも『ドラクエVR』や『マリオカートVR』など、強いIPを利用したゲームが登場してきている。また、「2018年平昌オリンピック」では、VRコンテンツをNHKが配信している。

B2Bでは、米国ウォールマートが1万7000台の『Oculus Go』を導入し従業員教育に使用している。さらには手術のトレーニングやバーチャルオフィス、VR会議、などにも活用されてきている。

また「スピーチ・トレーニングVR」では、人前で講演やスピーチの体験をすることができる。これはただ練習するというだけではなく、目線やジェスチャー、声などを計測して採点もしてくれる。このあたりは、ただのeラーニングとは大きく異なる部分でもある。

日本の事例では、『終活VR』というものが出てきている。霊園のバーチャル見学やお墓にどんな石が合うのかといったシミュレーションも行える。実際にこうした場所に足を運ぶのは大変だが、VRならどんな感じなのかは体験することができる。これにより、受注の効率も上がったという。

VRは避難訓練などとも相性がいい。『避難体験VR』というコンテンツでは、どれぐらいの時間を掛けて避難したかや煙をどれだけ吸い込んだかといった避難行動を、判定してくれる機能も付けられている。さらにはVR防災体験車というものも出てきており、こちらは子供や母親からの関心が高く、行列ができるほどであったという。

VRの特徴のひとつに、距離を超えてコミュニケーションが取れるというところがある。たとえば200キロメートル離れた場所に住む難病の少年が、バーチャル上で祖父と対面するということも手軽にできるのだ。

ユニークなVRの活用例としては、摂食障害を克服するためのトレーニングに利用されたり、あるいは受刑者が実生活のトレーニングをするためにVRが使われていたりする例もある。

「Beyond Carrier」をスローガンにVR/ARにも注力

ソフトバンクがスローガンに掲げているのは、「Beyond Carrier」だ。その中のひとつとして、VRとARの活用に注力している。

同社では、最新のテクノロジーを持つ一番強いところと組んでいくという方針があり、VRライブ配信会社のNEXTVRに出資。今年の「CES 2018」では、自由に視点移動ができるテクノロジーや解像度が飛躍的に向上した点なども発表している。

少し変わったところとして、ホテルスマホを取り扱っているhandy Japanへも出資を行っている。無料で利用できるホテルに設置されているスマホだが、こちらは年間8000万人が利用するため、そこにVRや観光コンテンツをファーストタッチとして利用してもらうことを想定してトライアルを進めている。

B2Cでは、JR東日本旅客鉄道に安全教育ソリューションを納入している。鉄道関連の作業は、非常に危険が伴っている。しかし、それを実体験するのは当然のことながら難しいのが現状だ。そこで、事故の事例をVR上で再現して体験できるようにしている。同様に、スカイマークやJR西日本にも研修用のVRコンテンツを導入している。

こうした法人向けVRの課題としては、もともと顧客側がVRでなにができるということがわかっているわけではないため、ニーズが不明瞭であることが多いというところだ。また、VR/ARの知識やITリテラシーの不足や、導入後の運用といったところにも課題感を持ち、対応しているという。

B2Bでは、なかなか足を運ぶことができないライブなどのイベントについての課題を、VRで解決できると考え活動している。音楽フェスの『ヨンフェスVR配信』では、3ヵ月限定の公開で20万回以上が再生されている。こちらは複数の視点で楽しめるようになっており、VRならではのライブ体験ができるようになっていた。同じく『フジロックフェスVR配信』も、2週間で6.2万回以上再生されている。

また、VRとの相性がいいところから、格闘技(キックボクシング)やアイドルのライブ、Bリーグファイナルといったコンテンツも配信している。

実写系のVRにはいくつか課題がある。カメラの設置場所や音の収録方法、視点も複数ないと面白くならない。同社ではこうした課題に対して、VRならではのポジションカメラにカメラを設置したほか、視点もユーザーに切り替えてもらうようにしている。また、音声は実況などの音声を合成。デバイスはスマホゴーグルにも対応している。

今年は『ホークスVR配信』を10試合で実施。バックネットにVR専用の穴まで開け、ユーザーが自由に視点を切り替えられるリアルタイムライブ配信を行っている。VRは短時間で飽きてしまう人が多いと思われがちだが、この『ホークスVR配信』では試合終了まで視聴者数が減らなかったという。

体験をしやすくしてハード購入者を増やしていく

同社として期待している部分に、「5G」がある。高速通信で大容量のデータを送ることができるということで5Gに可能性を感じており、より高品質の映像をリアルタイムで配信できるようになる。また、現在は制限があるアバター数などの問題も解消することができる。

とはいえ、VRの課題はスマホで簡単に見られるといった感じのものではない。実際にVRを体験してもらうまでのハードルが高いのである。そのため、コンテンツ作りからプロモーションまで意識してやっていく必要があるのだ。

VRを盛り上げていくにはハード所有者か、あるいはコンテンツのファンなのか、どちらにアプローチしていけばいいのだろうか。これに関しては、すでにハードを所有している人にアプローチをしても、コンテンツ購入者はその中に限られてしまうため、どうしても小さくなっていってしまう。

そのため、体験にいかにしやすくするかということをやっていきながら、ハードを購入する人を増やしていけばいいのではないかと同社では考えているそうだ。

Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。