2018
12.12

【World MR News】台湾の日本のXRマーケットに関するパネルディスカッション――「OMC2018 -XR MeetUP with Taiwan-」レポート④

World MR News

日本と台湾のXR業界が一堂に会したミートアップイベント「OMC2018 -XR MeetUP with Taiwan-」が、12月3日に東京秋葉原の秋葉原UDXで開催。この日最後に行われたのが、パネルディスカッション「日本と台湾それぞれのXR産業育成について・日本と台湾のXR企業のコラボレーションの在り方」だ。本稿ではその一部を抜粋してお届けする。

モデレーターは、リンクトブレイン 代表取締役社長/BBAイノベーション部会 部会長 の清水弘一氏と、よむネコ 代表取締役/Tokyo XR Startups 取締役の新清士氏。パネリストは、TAVAR President / XR EXPRESS TWのCori Shieh氏とSTARVR Corp.  Manager of APAC Business DevelopmentのMarch Lu氏、HTC Corp. Director of APAC VR Sales and OperationsのMike Chi氏。

写真左から清水弘一氏、Cori Shieh氏、Mike Chi氏、March Lu氏、Mike Chi氏、新清士氏。

台湾のエンタープライズXRマーケットで注目されている業界は?

ここ3年間、台湾では4~5の団体がAR/VRを導入しているとCori氏はいう。そこには、エデュケーションや工業用の応用、インタラクティブ、コンシューマー向けゲームや音響関係、不動産やインコマース業界などが含まれている。また、博物館やアーケード、テーマーパークといった展示関係にもXRマーケットの技術が取り入れられている。

Cori氏によると、これらはトレンドでもあるため、台湾政府は多くの資金を投入して援助をしているのだという。

2015~2016年はゲーム業界の方が注目されていた。しかし、2017~2018年はどんどんエンタープライズに目が向けられているとMike氏。これはどの分野の事を指しているのかということよりも、多くの企業がそれぞれの課程のなかで、効率化を図るために導入してきたからだ。

Cori氏があげた以外の例では、危険性の高い作業現場や製造過程において、バーチャルトレーニングとして取り入れている企業が増えてきている。

AR/VRは、すべての企業に需要があるのではないかとMike氏は語る。しかし、AR/VRについてよくわかっていない企業が多く、どのように応用すればいいのかかわらず、模索しているところが大半を占めているのが現状だ。こうした問題を解決するときに、市場に出回っているソリューションを導入するよりも、ベンチャー企業と接触してカスタマイズしてもらったものを利用するほうがよいとMike氏はいう。

STARVRは、設立後、エンターテイメントからエンタープライズまで、様々な業種にサービスを提供しているとMarch氏。

最初にXRの効果を感じてもらえる分野は、エンターテイメントだ。しかし、エンターテイメント向けでもエンタープライズ向けでも、その準備段階はかなり大変である。エンターテイメント分野では、顧客に満足してもらうに、様々業界の需要に対応できる高い技術が必要となる。また、エンタープライズに使ってもらうためには、パートナーを探し、その業界をよく知っているところと提携することが重要であるとMarch氏はいう。

この3年間、Tokyo XR Startupsで様々な企業に投資ししてきなかで、VR/ARは予想しなかった業界で花開いてきたと新氏。今では当たり前になりつつあるが、不動産分野では効果が上がってきている。投資先のInstaVRは、360度の写真や動画をウェブ上に吐き出せるシステムを作っている。世界1万以上で利用されているのだが、不動産屋の内見に利用されていることが多いのだとか。

たとえばアメリカでは、大きな家を紹介する不動産屋で使われていた。ロサンゼルスなどでは、物理的に現地に行けないことが多い。そこで、顧客の内見用に使われており、売り上げに繋がっているのだという。

また、医療系の投資先であるHoloEyesでは、CTスキャンした3DデータをVR空間に持っていき、『HoloLens』などを利用してどのように手術を進めていくのかという参考にするためのツールを提供している。CTスキャンのデータは、世界中でトップクラスの枚数が日本では撮られている。しかしこうしたデータはハードディスクに保存されるということもあり、捨てられてしまうことがほとんどだ。

それらを繋いで、Unityなどのゲームエンジンに取り込むことでデータとして閲覧できるようになる。人の内臓などもひとりひとり異なるため、あらかじめ状況把握した上で手術を進めていくことができるようになるのだ。

同じく投資先のジオクリエイツでは、建築と脳波を組み合わせるシステムを開発している。これはVR空間に建築データを配置し、脳波を測定してその建物がユーザーにとって心地よいものになっているのか可視化するというサービスだ。これは、VRだけでは実現できなかったものだが、これにより売り上げも伸びてきているという。

こうしたように、エンタープライズにこれまでの発想+VRを組み合わせることで、新しい価値を持ったものが生み出せるということが、具体的な事例として出てきている。問題はどこに種があり、それをどのように見つけていくのかが重要になってきている。そしてそれは、世界的に起きている状況であると新氏はいう。

3月に同じようなイベントを開催したときには、XRについてどうすればいいのかわからない、どこにたのめばいいのかわからないとう企業が多かったと清水氏はいう。そうした企業のために、今回のようなマッチメイキングが開催されている。また、台湾の状況については、遙かに先を進んでいるだろうなと思いつつ、同じようにXRの需要が高まっているということがわかり安心したと感想を述べた。

台湾は進捗のペースが速い。これは韓国についても感じているところだが、日本ではVR/ARに関するちゃんとした業界団体が成立していないと新氏は語る。国がサポートするにしても、どこかの団体に予算を付けるというような状況にはなっていない。

新氏によると、一部アーケードゲームの団体はあるが、VR全体からB2Bも含めた業界団体がないのは、日本の弱みでもあるという。

なぜXR分野でインキュベーターの役割が重要なのか?

HTCも当初は、VRを広めるために何箱もの機材を持っていろんな国を訪問し、いろんな企業を訪ねて、VRがどういうモノかを説明してきた。そうしたなかで、受け入れられたのは小さなスタートアップ企業であったとMike氏。

大企業やある程度の科学技術を持っているところは、「わかりました。いったん持ち帰って考えます」といわれ、その後1年以上も連絡が来なかったりそのまま音信不通になってしまったりといったところばかりだったそうだ。一方、小さなスタートアップの企業は、VR/ARは将来性があるとすぐに見抜き、研究に着手しデモを行ってくれたという。

このように、大企業は動きが非常に遅く小さな企業は動きが速い。「VIVE Xの設立は、VRのエコシステムを作るためのものだった」とMike氏はいう。VIVE Xでは、スタートアップ企業の持つ技術を保証し、認証している。これにより、多くの大企業に利用される可能性が高くなったのである。

こうしたHTCのやり方は、自らの力でサポートしてエコシステムを作り上げていくというやり方だ。しかし、こうしたエコシステムの中にも、共通した課題が存在しているとCori氏。

その課題とは、「人が足りない」「お金が足りない」「どこで商売をすればいいのかわからない」といったことだ。TAVARでは、1年間を通して様々なプログラムを企業に提供し、こうした問題を解決している。

台湾では政府側から資金面でサポートがある。スタートアップ企業に対して、どのように政府から援助してもらえるのか手伝いもTAVARで行われている。ちなみにこの台湾政府のサポートは、台湾企業のみならず海外のスタートアップ企業も歓迎しているそうだ。

Tokyo XR Startupsは、マーケットを作るために3年前にスタートしている。その当時はコミュニティもあり勉強会も行われていたが、成長するために何が欠けていたのか、インキュベーションをする、資金的な裏付けを与えて成長させる仕組みが欠けているというところがあった。それが、Tokyo XR Startupsが設立された経緯でもある。

米国企業の情報を収集し、日本の企業が実力的に劣っているところは少ないと考えていた。しかし、優秀なスタートアップであっても、なかなかチャンスを得ることができない。こうしたところを、どのように拾っていくかをテーマに、この3年間活動してきたと新氏はいう。

実際にインキュベーションプログラムを運営してきてわかったことは、参加している企業が6ヵ月で急激に成長するということだ。残念ながら参加できなかった企業とでは、驚くほど差が付いてしまう。

プログラムを受けているところは、サポートを受けながら最新情報をキャッチアップし、サービスの中身をどんどん良くしていく。しかし、プログラムに参加していないところはどんどん立ち枯れてしまうのだ。

能力があるにも係わらず、適切な援助が受けられないことで成長できないという状況に危機感を持っていると新氏はいう。自分たちだけが成長すればよいという話ではなく、日本全体が成長していかないと伸びていかない。現在は、そうした部分をどうすれば改善できるか、探っているところであるという。

「台湾政府から資金的な援助があるということを、あまりうらやましがらないでください」とMike氏は語る。世界の流れをみてもわかるように、政府から多くの支援があるということはその国の企業が強くないという証拠でもあるからだ。

たとえば、米国の政府は1円たりともスタートアップに支援しない。それは米国のスタートアップ企業が求めているのは、自由な市場と企業の資金、そしてベンチャーキャピタルであるからだ。日本の大企業に、アメリカの企業をまねてもらいたいところが1ヵ所あるとMike氏。「アメリカの大企業は、スタートアップに対する受け入れが高い。今後日本の大企業がより強く大きくなるために、日本のスタートアップ企業がより大きくなるために、そして日本全体の産業をアップするためには、より多くの大企業がスタートアップと提携する必要があります」(Mike氏)

Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。