2020
02.04

【World MR News】引きこもりでもアバターで70万人が集客するイベント「バーチャルマーケット」を実現。中には2000万稼ぐクリエイターも――「VRMコンソーシアム セミナー」その①

World MR News

一般社団法人VRMコンソーシアムは、2019年11月29日に東京・銀座のドワンゴ セミナールームで「VRMコンソーシアム セミナー 第1回『ビジネスにおけるアバター活用術』」を開催した。VTuberの登場などでも注目を集めている共通3DアバターフォーマットのVRMだが、第1回目となる今回はずばり「アバター」に焦点を当てた内容となっていた。

本稿ではその中から、VR法人HIKKY 舟越靖氏とパルス 加田健志氏のセッションの模様をお届けする。

■「アバター+パラリアルで社会の課題を解決する」by VR法人HIKKY 舟越靖氏

VR法人HIKKYの舟越靖氏からは、「アバター+パラリアルで社会の課題を解決する」というテーマでセッションが行われた。同社は、バーチャル空間で制作を行うために立ち上げられたチームだ。バーチャル文化が広がりつつあった頃に、モノ作りが好きなメンバーが集まり制作チームを作ってスタートしているうちに、案件が増えてきたことで法人化したものである。

▲VR法人HIKKYの舟越靖氏。

「バーチャルマーケット」では、様々な企業との取り組みも行われている。セブンイレブンとの取り組みでは、店舗をバーチャルで再現し、購入した物が実際に家に送られてくるようになっていた。

パナソニックとの取り組みでは、渋谷を再現したワールドで自撮りをすると街中の街灯ディスプレイに表示できるようにしている。こちらを利用したフォトコンテストを募集したところ、多くの応募があったそうだ。

WEGOとのコラボでは、あえてノンブランドで洋服の販売を行った。リアル店舗とも連動しており、バーチャルだけではなく実物とのセットでTシャツが売られていた。

こうした「バーチャルマーケット」の出現以前には、モノを作ったり売ったりといった経験がなかったユーザーが、このイベントをきっかけにクリエイターになって2000万円ほど稼ぐ存在になった人もいるという。

また、VR発のアニメプロジェクトとして「モクリプロジェクト」というものも実施している。こちらは改変が自由ではないアバターが多かったことから、自由に使用できる「レッサーモクリ」というアバターを配布したところから始まったものだ。

その後1年ほど放置していたところ、改変されたレッサーモクリを使うユーザーが増えVR空間内で集会も行われている。そこで、アニメというわけではないが一本筋が通ったストーリーを作るというのが、「モクリプロジェクト」だ。

同社に所属している、「バーチャルマーケット」プロジェクトオーナーの動く城のフィオ氏の働き方もユニークだ。同氏は過去にうつ病を患っており、数年間引きこもり生活を続けた後にVRに出会い「バーチャルマーケット」を企画している。現在も会社には出社しておらず、リモートで作業を行っている。

フィオ氏はアバター状態で社内のディスプレイに表示されており、同氏がオフィスの状態が見られるようにカメラが設置されている。これだけでも、かなりスムーズにコミュニケーションをすることができるという。

▲画面にフィオ氏のアバターが映っていないときは、本人がいないときだという。

先ほどもチラリと触れたが、WEGO 渋谷109店との取り組みでは、新しい働き方ができないかということでパラリアル企画を実施している。バーチャル空間とリアル空間を連携させるというのはよくある話しだが、バーチャル空間ではバーチャルなアルバイトを募集し、接客を行っている。

実際の店舗でお客さんが来たときは、近くに設置されたiPadなどで位置を検出してバーチャルワールドのアバターが見られるようにして、接客にも活かしている。また、鏡に見立てた画面があり、そこに実物の人がいると売られている服が自動的に試着できるようにしている。

参加者の中には長期入院している人もおり、働けないと思っていたところARで店頭接客ができ給料ももらえ社会貢献できたことに喜んでいたという事例もあったそうだ。

■「バーチャルライブプラットフォーム「INSPIX」におけるVRM活用事例」by パルス 加田健志氏

パルスの加田健志氏からは、「バーチャルライブプラットフォーム『INSPIX』におけるVRM活用事例」というテーマでセッションが行われた。

▲パルス 加田健志氏。

『INSPIX』の開発を行っているパルスは、イグニスの子会社だ。同じくVRやVTuberに係わっているバルスと間違えられることが多いという。同社は岩本町芸能社やミラクルプロに、技術的なサポートを行っている。

バーチャルライブプラットフォームの『INSPIX』は、VRライブやYouTube・ニコニコなどでの生放送、箱を借りてみんなで楽しむライブビューイングやARライブ、ミュージックビデオの作成、握手会などが行える。つまり、バーチャルタレントとして活躍できるシステムの総称というわけだ。

『INSPIX』の特徴は3つある。ひとつ目はフルタイムリアルタイムライブだ。歌やダンスなど、すべてがリアルタイムで行える。たとえば昼と夜公演で、それぞれ歌やダンスが異なったり、あるいはミスをしてしまったりといったことも含めてライブ感を重視しているからだ。

もちろん、すべて生で行う必要はなく、要望に合わせてMC部分だけ生に対応するといったことも可能となっている。

ふたつ目の特徴は、スマホVRにも対応しているところだ。ユーザーが高価な機材を買わなくとも体験できるのが特徴である。下位のスマホVRから始めて、認知度を高めてから専用デバイスに拡大していくといった考えで開発が行われている。しかし、スマホVRは貧弱であるため、エンジニアやデザイナーにとっては厳しいところからのスターとなっている。しかし、その分後で上位機種に対応していくことは容易である。

3つ目の特徴は、多人数リアルタイム出演だ。光学式モーションキャプチャシステムを採用しており、スタジオ内に何人いても問題ない。

VRMの活用事例として、サンリオのバーチャルタレント「となりの研究生マシマヒメコ。」のミュージックビデオ作成に、『INSPIX』が活用されている。モデルのインポートにVRMを使い、モーションキャプチャシステムで動きを取り込み作成されている。

ふたつ目の活用事例は、斗和キセキ×Marprilコラボ動画だ。こちらも提供してもらったVRMをインポートして、コラボ動画を撮影してる。普通のモデルから作るよりは、遙かに少ない工数でコラボ動画を作ることができたという。

『INSPIX』の持っているランタイムでモデル操作機能には、全身トラッキングのほか、髪やスカートなどの揺れ物に加えて、表情変更、まばたき目線操作、口パク、マテリアル変更などの機能が用意されている。

マテリアル変更は、顔の表現を大きく変えたいときに使用するものだ。オブジェクトのON/OFFは、><のようなBlendShapeで表現が難しい表情のときに使用されるものである。

小物を持たせる機能は、マイクなどを持たせるときに使われている。光学式モーションキャプチャシステムでは、マーカーを付けたままだと手がブレブレになってしまうことがある。それを解決するために、マイクを持たせるなど特定のポーズを取らせることで見栄えを良くしているのだ。これを応用して、ピースや指さしといったものも綺麗に出すようにしている。

モデル実装までのワークフローは、VRMがなかったころは、FBXを書き出してもらい表情毎にブレンドシェイプ値を設定し、揺れ物を設定した後にQAチェックを行うという流れだった。そのため、概ね1キャラクターあたり1ヵ月ほど掛かってしまっていた。

VRMが登場してからは、VRMを書き出して『INSPIX』用にコンバートしてQAチェックで済むため、1週間もあれば実装できるようになった。VRMに書き出した時点である程度動作の保証が行われているため、巻き戻りが少ないのも工数を削減できる理由のひとつとなっている。

VRライブでVRMを使用するときは、『INSPIX』の基本構成はスタジオで歌って踊って演出したデータを、中継サーバを介して各家庭に配信している。このときに、単純に通信で送ってしまうと、音声データとモーションデータとでは届く速度が異なってしまう。そこで、モーションデータにタイミング情報を付与するようにしている。

スマホVRでは、処理不可を分散させるために重い処理は送信元で行っている。また、通信料は無尽蔵に使えるわけではない。そこで、毎フレーム送らずに受信側で補完するようにしている。また、見た目に影響しないボーン情報も送信しないという工夫も行われている。ボーンの回転情報もfloatではなくintに圧縮している。

今後は、『INSPIX』を拡張しなくてもVRM側の機能が拡充されていることで、モデル実装工数がさらに低くなり、表現も豊かになっていくのではないかと加田氏は考えているそうだ。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。