02.04
【World MR News】グリーと住友林業がVRを活用した業務研修を共同開発。来春より新入社員研修などで本格導入を開始
グリーと住友林業は、11月27日にメディア向け説明会を開催した。両社が取り組んだのは、住宅の若手設計・生産(工事)担当者を対象に、VRを活用した業務研修の共同開発だ。来年4月移行に行われる新入社員研修より、本的に運用が開始される予定である。今回の説明会では、その経緯と体験会が実施された。
住友林業では、「中期経営計画2021」を掲げ、未来志向のもと、新たな事業の創造と育成を推進している。そこで4つの基本方針を推進しているが、今回の取り組みはその中の持続的な成長に向けた経営基盤の強化を目的としている。
中でも組織力の強化を重要な項目と捉えており、人材育成を推進することが組織力の強化に繋がり、社員への育成は強い個人と強い組織に繋がり、高い競争力を持つ企業になると考えている。
住友林業の人財開発部は住宅事業のスタッフを対象に業務に直結する内容を、社内講師が直接教育している。同社には家を設計する設計担当者や、設計担当が作成した図面を工事・管理を担っていく生産担当者がいる。両担当は、建築士資格を保有する技術者ということで、専門知識が必要となってくる。
従来までは、入社1年目から3年目までの若手社員に対して、習得する知識を現場で確認することを目的にバスを借りて現場に出向く、現場研修を行ってきた。今回の取り組みは、これまでの移動を伴うような現場研修を、VR動画で体感できるようにしたものである。
現場研修では、当然のことながら家づくりをしている一般の顧客に協力をしてもらうほか、1回の訪問に掛かる準備など非常に負担が大きかった。当日の研修内容と、それにあった現場を探すという点においても、苦労することがあったという。また、大型バスを準備して移動するため費用面に関しても課題がある。さらに、受講者の人数によっては後ろの方が見えにくいなど学習習得度に差が出てきてしまう。
これらの課題を、VRを活用することで削減することができるというわけである。受講者が同時に同じ動画を見ながら研修をすることで、理解の質を一定に保つことができると考えている。また、同じ動画視聴でも二次元の映像を視聴する物とは異なり、受講生たちが動画の中でそれぞれが感じた疑問点を、自ら見に行くことで理解が促進されるという。従来までの課題の解決だけではなく、学習効果も期待できると考えている。
移動時間の短縮もバカに出来ない点だ。9月に行われた研修では、往復で3時間や会場の準備なども含めて4時間ほど短縮でき、生産性も上がっているという。
住友林業がグリーと組むことになった理由は、ゲーム業界におけるVR技術と実績があり、ヘッドマウントディスプレイなど機材のサポート体制などに加えて、今後進めていく研修のスタイルが合致したからだという。
業務分担は、住友林業が研修企画を相談するところから始まり、研修内容の企画から撮影動画の検討をし、グリーが撮影と動画編集を行い研修機材の提供も行っている。今年の9月に行われた研修では、受講生50名ほどの規模だった。移動がなかったと言うこともあり、参加者から体力面からも研修に集中することができ、内容の密度が濃かったという感想があったそうだ。
VRを活用した研修は、他企業でも採用されはじめている。それらの多くで採用されているのは、CGを活用したものだ。そして、コンテンツの内容は疑似体験ができるというものである。そして、その疑似体験をするがゆえに断片的なシーンに限られている。
また、VRではいくつかの疑似体験に合わせて必要な機材が多く、研修自体が少人数になり体験者以外の受講生は待っているというような運営になり、研修の生産性にも課題がある。
しかし、今回住友林業とグリーが採用したのは、リアリティを重視した実写の動画だ。体験内容も断片的なものではなく、家づくりのプロセスや業務のプロセスを動画にして、流れを理解するということを目的に作られている。
研修方法も、グリーの持つ技術を使い動画の受講生を一斉再生することで、効率的に行うことができたという。
VR研修では、実働丸一で行われた。ヘッドマウントディスプレイを個人ワークで装着してもらい、外して講義を進め、開設時に再度受講生に被ってもらうという運用だ。研修では、それを繰り返して行われた。
研修当日は、建築計画研修と仮設計画研修、安全管理研修の3項目で行われた。今回メディア向けに体験できたのは、その中のひとつである安全管理研修である。住宅を建てるときに、仮設のフェンスや足場、トイレを建てる。この仮設計画を作成する目的には、近隣に対する配慮や通行人など第3者に対する配慮が必要となる。また、実際に働いている労働者への災害防止、そして仮設工事にもお金が掛かるため必要原価の確保も必要な項目となっている。
研修では、安全計画は建物の計画時からスタートしているということを教えている。例として吹き抜けを計画した場合、あらかじめ内部工事をするための足場が必要となる。当然のことながら、そのための費用も掛かるため、計画時から内部の足場の安全計画が必要となるというわけだ。こうしたものは一貫した流れで学んで行く必要がある。
ワークの流れは、個人ワークが20分、グループワークが10分で行われた。個人ワークでは、VRで動画を見てどこがおかしいのか自分の中で考えてもらう。それをグループでもディスカッションを行う。研修では6ヵ所の危険ポイントからの動画が見られるようになっていた。
今回の体験会では、玄関周辺と屋根頂点の2ヵ所の視点の動画が見られるようになっていた。使用したデバイスはDaydreamで、解説が入るポイントのみヘッドフォンを装着するといったスタイルになっていた。ちなみにコントローラーは使わず、基本的には流される動画を見るという形だ。
まずは静止画を見て、本来その現場にあるべきものがないといった間違い探しを行っていく。次に答え合わせが解説付きで行われる。屋根頂部のシーンでは、必要な施設がなかったために作業員が転落するというシーンが登場するのだが、これがなかなかリアルな作りになっていた。
実際にVR研修の一部を体験した感想は、たしかに眠くなる普通の動画を見てもなかなか頭に入ってこないが、VRならばなぜか集中力が切れずに見ることができた。ある程度自由な視点で見回せるということも、影響しているのかもしれない。
住友林業では、生活関連事業を多岐にわたり行っている。今後の展開としては、住宅時魚以外の他事業においてもVR研修の検討に入り、連携していく。また、グループ企業においてもVRの研修カリキュラムを水平展開していこうと考えている。
社員があらゆる環境で勉強ができるようなインフラ整備も重要だと考えている。こちらは具体的なものはないが、推進していくそうだ。さらに将来的にはVRだけではなく、AR技術も活用して生産性の高い教育環境を整備していく予定である。
Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。