2019
09.18

【World MR News】MR技術を活用して熟練工のノウハウが必要な技術を初心者でも扱えるようにしたい――「サン・シールド㈱」インタビュー

World MR News

サン・シールド㈱は、8月6日から9日までの期間、パシフィコ横浜で開催された「下水道展’19横浜」にラムサス工法協会と共同でブースを出展した。このイベントは、下水道に関する幅広い最新技術や機器が一堂に集まり、展示・紹介するといったものだ。

同ブース内では、ポケット・クエリーズが技術提供した、『サン・シールドHoloLensコンテンツ』のコーナーなども設置。多くの来場者が『HoloLens』を身につけ、最先端技術を活用したMRコンテンツが体験できるようになっていた。

こうした取り組みについて、サン・シールド㈱代表取締役の米森清祥氏と工事部 副部長の齊藤俊二氏、開発部の山本将太氏にお話を伺ってきた。

▲写真左より、齊藤俊二氏、米森清祥氏、山本将太氏。

■技術を持たない人でも使えるようにMRを活用

――今回の「下水道展’19横浜」で出展されたものについて教えていただけますか?

齊藤氏:今回は、ラムサス工法の中でも特に小口径や中大口径のマシンが中心です。昨今、非常に狭い場所で作業を行う必要があり、ラムサス工法協会がメインで売り出し中の「smart犀」工法を展示しています。それに付随して、様々な現場で拡張していけるようにMixed Reality(MR)といった次世代の技術を取り入れたものも展示しています。

▲ラムサス工法協会のブース。入り口付近にあり、赤と黒がベースだったということもあり非常に目立っていた。

――今回出展されたMRコンテンツは、具体的にはどのような内容でしょうか?

齊藤氏:従来までは現地で確認する必要がありましたが、それを遠隔地と現場をリモートで繋いで確認出来るようなシステムです。これにより、いつでもどこでもできる体制に加えて、当社では「誰でも」ということもキーワードにしています。この「誰でも」というのは、現場の技術者の数が年々減っていく傾向にあり、その知見をデータ化し、マイクロソフトの『HoloLens』を使用して熟練工の技術を画面上に表示させることで、技術を持っていない人でも操作が可能なシステムにしたいと考えています。

――技術者の数は年々減少している感じでしょうか?

齊藤氏:今高齢化してきているというのが現状です。かといって、若い人たちは、こうした業界を敬遠しがちな傾向にあり就職する人材が少なくなっています。そのため、今残っている人たちが年を取っていくという感じです。

米森氏:今回展示している製品は、特殊な機械装置の集まりです。土木工事には、どちらかというと人力という面もあります。しかしそれだけではなく、機械を操作するという技術が求められます。それに付随して、機械や電気の知識が求められるため、習得するのが難しくなっています。

土木業界の中でも、機械土木工事のような特殊なジャンルになります。トンネルを掘る方法は二種類あり、上から掘って管を埋める「開削」という方法、2ヵ所に穴を開けて掘って繋げていく「推進」という方法があります。地下鉄などのトンネルも、ほとんどは2ヵ所に穴を掘って機械を使って繋げる方法が採用されています。

もったいないと思うんです。若い人たちがなかなか業界に入ってこず、業界がその魅力を伝え切れていません。こうした仕事は、全く知らない人からみると、日焼けしたいかつい人がなにかをやっているようなイメージを持っていると思うんです。人の手で作業する部分と機械で作業する部分が混ざっており、難しい部分があるところもこうした理由のひとつですね。

これが全部機械ならば、機械に学習させて自動でできます。それを人間が操作して、細かい部分は人が入っていき操作を行います。その度合いを具現化していきたいと考えています。

――機械と人のハイブリッドのような能力が問われるわけですね。

齊藤氏:職人気質がありまして、自分が持っている技術は直属で付いてくる人には受け継ごうとしますが、少し違う人には教えたくなかったり、簡単に済ませてしまったりといったことがあります。また、人それぞれで感覚が要求されるといわれていますが、実際は感覚ではありません。ある程度職人が培ってきたノウハウのなかで、経験を自分の中でデータ化しているのだと思っています。

米森氏:カレー屋さんが分量をぴったりと合わせるようなことと同じで、何かあるんですよね。

――これまではしっかりと数値化出来ていなかったから、感覚になっていたんですね。

齊藤氏:これまでのように人が多かった時代は、それでも良かったのですが。今の時代ではそれをデータでまとめることもできますし、それをどうやって次世代に伝えていくかという方法も確立されてきています。そのときに、今回のMixed Realityに出会って「これならできるんじゃないか」と思い、会社として取り組むことになりました。 

■技術継承は待ったなしの状況

――Mixed Realityの導入を検討されたのはいつ頃からでしょうか?

米森氏:早かったですよ、昨年の夏頃でしょうか。開発チームを昨年4月に起ち上げて、そこで将来に向けてのことをやっていこうとしていました。

――開発チームを作られた目的を教えていただけますか?

齊藤氏:基本は、この業界で一番困っていた測量の技術のためです。測量というと、通常は人が覗いて何かを見るというイメージです。人が入れる場所ではそうしたこともできるのですが、人が入れないような場所もあります。それに対する技術もあるのですが、人がやるよりも圧倒的に精度が悪くなってしまいます。それをなんとか解消したいというのが、課題でした。あとは、後々マシンの自動化を目指していくという、大雑把なところでやっていこうというところで、スタートしています。

――機械の精度を上げていきたいというのが最初にあったんですね。

米森氏:そうです。人ではなくロボットが判断して、作業をするというのも継続して開発しています。その中で、技術継承もしていくことになりました。これも5年遅いと、全員年を取り熟練した技術者がいなくなってしまいます。

――待ったなしの状況でもあるんですね。

米森氏:ノウハウやデータはみんなの頭の中にあるので、忘れていってしまいます。現場から離れてしまった人もいますし、データ量が年々少なくなっていきます。今回のシステムを開発するために、様々な過去のデータも集めました。その中には、「あれ見つからないな。あんなこともしたんだけど」というような事例もありました。

齊藤氏:ちなみに、社長は突拍子もないことをいつも考えているんです。それがまた面白いんですけどね。

――突拍子もないこととは?

齊藤氏:それこそ、ドラえもんのポケットができないかというようなことですね。イメージとしては(笑)。やっぱりロボットが好きなんでしょうけど。

米森氏:先ほどの位置を測るようなものも、所定の場所に入れいていく必要があります。それが、まっすぐ走っていくだけではなく曲がることもあり、計測が難しくなっています。位置を計測するセンサーやカメラを使って測らなければいけません。昔考えたのが、ハエやハチのようなものにカメラを付けて中を走らせて、旗が立っているところの写真を撮っていくというものでした。その時はできませんでしたが、それが今はドローンが登場してきましたからね(笑)。

齊藤氏:社長がいっているようなことは、今なら6割ぐらいはできそうです。

――子供の頃に漫画やアニメで洗礼を受けてきたものと、リアルなテクノロジーが微妙に融合してきていますね(笑)。

山本氏:一般の人をベテランにするための機械を使い、ベテランになるためのデータを使って、最終的にロボットにしたいという感じですね。

米森氏:○○さんの行動パターンを全部データにして、カセットのようなものに入れて、自動で動くようなイメージですね。これがやりたいんです。

齊藤氏:この場所だったらこの人だというように、得意不得意が職人さんにもあるので、選べるようにしたいですね。

米森氏:そうしたもののひとつにMixed Realityがなると思い、今回のイベントにも出展しています。学生の人たちもブースに来ますので、体験してもらい「この業界にはこんなものがあるんだ」ということを知っていただきたいです。

そのスタートが切れたかなと思っています。こうした技術を導入するのも、タイミングと決断が必要です。いろんなことに優先して進めたほか、お金も掛かるため悩みましたが、これだと思いやりました。

――実際にブースでMixed Realityを体験した方の反応はどんな感じでしたか?

齊藤氏:Mixed Realityという概念がまだ世間に伝わっていないのか、VRと間違えている方が多かったですね。

米森氏:娘さんとお父さんの親子連れがブースに訪れて、「VRやれよ、VR」という会話をされていました。

齊藤氏:実際に体験された方は、「すごい」という人もいれば「ふーん」という人もいました。どちらかというと、初日は同業者でハイテクなことを取り入れようとしている人たちにウケが良かったですね。2日目は、施工業者さんの人たちが、「本当にできたらこれはすごい」と感動していました。たぶん、そこも少ない人数でやっているようなところで、技術がこれだけ進んできているんだということが思ってもらえたようです。ただ、ほとんどは「まだわからない」という感じはしました。

山本氏:わざわざどうしてこれを(『HoloLens』)を掛けてやる必要があるんだ。紙でいいんじゃないかというようなことは言われましたね。

――その紙ベースで行っている作業を無くすという意味もありますよね。

齊藤氏:「いろんなことをスリム化する」ということはいいますが、スリムにはなっていないと思っています。余分なことが増えたり、縛りがきつくなってしまったり、そこから抜け出せません。抜けるときには、おかしな事をやるしかないのかなということは感じています。

建設業界がなぜ人気がないのか、僕はどっぷりつかっているためまったくわかりません。魅力として、自分たちが作ったものが知らなくても、日本人や世界中の人が使っています。

――インフラを誰が作ったかということは、ほとんど意識することはありませんからね。

米森氏:そうなんですよね。子供が将来なりたい職業に「大工さん」というのはまだあると思います。出来上がっていく喜びは、男の子ならあるはずです。そこが上手く伝えられていません。

齊藤氏:そうしたなんでだろうというのもありますが、一方でITなど人がいらないぐらい余っているところもあります。この差がなにか考えたときに、最初に受けるイメージが良くないのだと思いました。

建設業界もIT化が進んできましたが、元々は土木という泥臭いところから抜けようとしない人たちが多いため、華やかに見える方には負けてしまいます。そうした部分を変えたいというのも、Mixed Realityを導入することになった理由のひとつです。

――現在Mixed Realityのコンテンツでできることはどんなことでしょうか?

齊藤氏:今現在は、簡単な工事のシミュレーションです。敷地があって、そこにものが置けるか置けないかという判断や、検査の手順を確認するということですね。これをベースに、まずは工場でマシンを整備する人たちを教育していきたいと考えています。それができれば、次は現場でトラブルが起きたときの整備対応ができるようになります。

いろんなものが自動化されていくなかで、機械を使うものにはメンテナンスが発生します。こうしたメンテナンスは、ある程度知識のある技術者でなければできません。それを『HoloLens』を使い、誰でも見て修復ができるようにして、それを応用してオペレーティングができるように進めていきたいと考えています。

米森氏:いつ購入したものなのかなど、部品に属性を持たせて交換時期を教えてくれるという感じで、機械のカルテも作っていきたいですね。あとは現場のデータを蓄積して、それを他の現場のコストをはじくもののベースになります。日本で工事をしているので、だいたいパターンは決まってきます。現場経験のない女の子でも、条件のシートを見ることでだいたいのコストがわかるようにしたいです。業務のスリム化ですね。

齊藤氏:ここまでできると、かなりスリムな状態になります。やってる内容も、IT側までいかなくとも、見栄えがよくなってきます。

――実際のところ、Mixed Realityのようなハイテクを現場で使用する業界は御社のようなところだと思います。

齊藤氏:土木のイメージは悪いですが、使っているもの自体はハイテクな機械ばかりです。それを本物の職人が使うので、そのギャップもあります。職人のイメージが強いですが、その職人のノウハウでハイテク機械も変わっていきます。

――今回のイベントにはほかにもいろいろ展示されていましたが、これはというものがありましたら教えてください。

齊藤氏:これから増えていくであろうというニーズを先読みして、200型のラムサスも展示しています。200型というのは、ヒューム管というコンクリートの管がありまして、その内径が200ミリなんです。

米森氏:これは世界初なんです。他の機械では50メートルしか掘ることができないのですが、こちらはその倍掘ることができます。それだけではなく、管もパイプも強くすることができます。管は痛んできますが、それが痛みにくくなっています。トータルコストとしても、50メートルを2回やるよりも、100メートル1回のほうが安くなります。この開発には3年掛かりました。

▲1/1スケールの200型超小口径泥土圧推進機。

――機械も常に進化し続けているということですね。

米森氏:せっかく未来に進んでいける工事ができる技術があっても、みんながまず知りません。それを知ってもらいたいです。いまVRはだいたい浸透してきましたが、これから私がやりたいのは、各学校に回って会社の取り組みについて紹介していくことです。

学校の理系の先生などはハイテク機器が好きな人が多いので、「個人的には興味あるんだけど、今の子はねスマートフォンをやってるんです」とおっしゃられます。そのときに、「スマートフォンでもできるんですよ」というようなことも言っていきたいですね。

――近いことはできそうですね。

米森氏:工事現場には先ほどお話したようなロボットが何台かあり、人が行っていた作業をロボットが行い、少し離れた場所に事務所があり、ロボットを操作し、そのデータを我々が見ながら「もうちょっと右」と指示できるようなものを実現したいですんです(笑)。

――無茶苦茶ハイテクですね(笑)。

齊藤氏:今までは社長が妄想を言ってたなということが大きかったのですが、『HoloLens』があることで、現実味が出てきました。

――ありがとうございました!

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。