08.21
【World MR News】nrealのビジョンは誰でも使えるMRを提供すること――話題のMRグラス開発企業が語る将来の展望とは【ARISE#1】
MESONは、8月3日にARコミュニティイベント「ARISE: Spatial Experience Summit #1」を東京・渋谷のAbema Towersで開催した。本稿ではその中から、メガネ型MRデバイスで注目を集めている中国のスタートアップ企業nrealによるセッションの模様をレポートする。
■軽くて薄くて便利なMRグラス『nreal light』
映画の中などで登場するMRグラスは、眼鏡やサングラスのようなものが多い。『nreal light』は、まさにそれを具現化したような製品だ。重量は88グラムで視野角は52°と広い。nreal社はデバイスを開発しているだけではなく、様々な企業と提携してエコシステムを作り上げようとしているところだとJoshua Yeo氏はいう。
ひと月前にアメリカで発表されたのが、『Nreal Light Developer Kit』だ。それに対応した「NRSDK」で、様々なアプリやコンテンツの開発が行うことができる。また、「Project EVE」ではプラットフォームとコンテンツの開発が可能だ。
■nrealは洗練されたエコシステムを構築していく
続いて、nreal Teamのプロダクトマネージャーを務めているWei Lv氏から、『nreal light』と「nreal SDK」についての紹介が行われた。
nrealのビジョンは「誰でも使えるMRを提供すること」だとWei Lv氏は語る。最初に注目した点は、グラスの使いやすさだ。理想的なMRグラスは、軽量で快適な使い心地がキーポイントとなるからである。また、公の場所で掛けてもおかしく思われないものにしたかったという。また、MRは、マルチモーダル・インタラクションを直感的に融合させ、様々なユースケースに適用されるべきであると述べた。
nrealのグラスはAndroid端末に対応しており、USB Type-Cでデバイスと接続することが可能だ。また、5G技術でさらに強化させることもできる。
次世代プラットフォームとして、既存のMRプラットフォームを常に意識しており、洗練されたエコシステムを構築していこうとしている。モバイルARアプリやネイティブアプリ、アンドロイドアプリのいずれもnrealグラスに対応している。
MRの体験は、画面の存在に制限されるだけではなく、ユーザーの目線を広げてマルチタスクができるように拡大されるべきだ。センサーを搭載することにより、MRデバイスは現実世界を把握することができる。MRデバイスで実現可能なユーザー事例としては、ゲームやソーシャル、教育など、様々な分野で使用可能だ。
■88グラムの超軽量MRデバイス『nreal light』
『nreal light』は、88グラムと他社のデバイスと比較してもかなり1/3~1/4ほど軽量だ。その軽さゆえに、持ち運びしやすいところも特徴のひとつといえる。デザインも、シックでスタイリッシュなものが採用されている。カラーバリエーションも豊富で、レッド、ブルー、ホワイト、イエローなどが用意されている。
『nreal light』の視野角(FOV)は52°で、他の製品よりも広いところも特徴のひとつだ。クロスプラットフォームに対応しており、USB Type-CでスマートフォンやPC、専用ユニットの「Computing Unit」に接続することができる。
『Nreal Light Developer Kit』に含まれているものは、グラスと「Computing Unit」だ。グラスは「Computing Unit」のためにセンサーデータを提供する。この「Computing Unit」はアルゴリズムを担当し、レンダリングされたフレームと電源を提供する。「Computing Unit」のコントローラーは磁石で繋がっており、Bluetoothで接続されている。
この「Computing Unit」とコントローラーに関しては、手持ちのAndroidデバイスに置き換えることも可能だ。
『nreal light』には、ふたつの空間コンピューティングカメラが搭載されている。そのほか、5MPのRGBカメラで動画や画像をキャプチャーすることができる。各レンズには1080pのディスプレイが搭載されており、音声はデュアルスピーカーで提供される。
『Nreal spatial computing box』(Computing Unit)には、Qualcomm Snapdragon 845を搭載し、バッテリーも内蔵されている。コントローラーとのペアリングと充電は、自動的に行われる。
■最先端でパワフルな、MR開発用の複合現実プラットフォーム「nreal SDK」
「nreal SDK」は、MR開発用の複合現実プラットフォームだ。最先端でパワフルな機能が搭載されているだけではなく、手軽に操作できるようになっている。シンプルに使えるようになっているため、最高のパフォーマンスを発揮することができる。
ソフトウェアアーキテクチャーの大きな特徴は、モバイルとMRプラットフォームで使えるため、ウィンドウズとAndroidに対応しているところだ。nrealアプリケーションは、『Nreal spatial computing box』やPCだけではなく、何億ものAndroidデバイスで実行することができる。また、Unityなどにも対応しているほか、今年後半にはUnrealもサポートされる予定だ。
これらの機能により、まったく新しいMRエクスペリエンスを構築するほか、すでに存在するネイティブAndoridアプリをMRフィーチャーで進化させることもできる。
「NRSDK」のロードマップは、今年の7月にSDK 1.0のβバージョンがリリースされており、ダウンロードが可能だ。こちらには、関連資料やチュートリアルも付属している。追加機能などが搭載されたスタンダードバージョンが9月にリリースされる。さらに、2020年にはすべてがアップデートされたSDK V2.0がリリースされる予定だ。
「NRSDK」には5つのコアな要素がある。ひとつは空間コンピューティングだ。nrealグラスは様々なカメラとセンサーを利用して、環境とユーザー本人の両方を認識することができる。これにより、デジタルと現実世界をよりシームレスに統合することができ、没入感の高い体験を提供することができる。
nrealの6DoFトラッキングテクノロジーは、2台のカメラを使用してフィーチャーポイントを識別し、時間経過に伴うそれらのポイントの動向を測定することができる。ポイントの動きとグラスに搭載されているセンサーを組み合わせて、空間を移動したときのグラスの位置と方向を正確に追跡できる。
6DoFトラッキングは、リアルタイムのマッピング構築や3Dポイントクラウドも提供し、アプリケーションが簡単な構造を認識できるようになっている。
「NRSDK」は、水平だけではなく垂直も検出することができる。たとえば、テーブルや壁にバーチャルオブジェを配置することも可能だ。イメージトラッキングは、デベロッパーがユーザーの環境に存在する学習済の形に反応するMRアプリを作ることができる。「NRSDK」は、複数のイメージを同時に検出可能である。
「NRSDK」のレンダリングは、最適化してユーザーエクスペリエンスを向上するのが目的だ。タイムワープは自動的に適用され、別途調整などは不要である。
ワーピングは、通常各フレームの最初にヘッドポーズを入れることがあるが、nrealでは予測されたポーズを最後に入れるようにしている。これによりレイテンシーを最小限にして振動を抑え、めまいや酔いといった現象を軽減することができるのだ。
nrealは多くのインタラクションを提供しているが、付属のコントローラーや手持ちのAndroid端末をコントローラーとして利用できる。コントローラーは、タッチパッドやボタン、加速度センサー、ジャイロスコープなどは、すべて利用可能である。デベロッパーは、Unityのプレハブである「NRInput」を通して、これらにアクセスすることができる。
デベロッパーツールの「Observer Viwe」は、デベロッパーが持つコンテンツを様々なユーザーとシェアすることができるリアルタイムなキャスティングシステムだ。ユーザーはスマホやタブレットを手に持ち、グラスを使用している人が何を見ているかを確認できる。
また、次のバージョンではエミュレーターも公開される。こちらは、デベロッパーがnrealの実物のデバイスがないときに、シミュレーションが行えるキャスティングツールとなっている。PCのマウスとキーボードを使い、nrealグラスのセンサーのインプットをシミュレーションすることができる。
「NRSDK」は、サードパーティサービスのSDKも対応可能となっている。オープンなプラットフォームになっており、RGBカメラのRAWデータで顔認証を実行したり、グラスのマイクから収集したリアルタイムオーディオデータで、音声認識とインタラクションをサポートしたりといったことができる。
この『Nreal Light Developer Kit』は、1199ドルで提供されており今年の9月に配送が開始される予定だ。
Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。