2019
08.21

【World MR News】ARスタートアップの開発者たちが興味を持った2019年のARデバイスや技術は?【ARISE#1】

World MR News

MESONは、8月3日にARコミュニティイベント「ARISE: Spatial Experience Summit #1」を東京・渋谷のAbema Towersで開催した。本稿ではその中から、MESONの比留間和也氏、サイバーエージェントの服部智氏、Psychic VR Labの佐藤豪氏によるセッション「Developer Session」の模様をレポートする。

▲写真左から比留間和也氏、服部智氏、佐藤豪氏。

■開発者視点で2019年に最もインパクトのあったAR関連のニュースは?

こちらのセッションでは、ARスタートアップで開発しているデベロッパーたちが、2019年のARデバイスや技術進化で新たに開発可能になったものなどについてトークが行われた。最初のテーマは「開発者視点で2019年に最もインパクトのあったAR関連のニュースや出来事」についてだ。

比留間氏:ARKit 3ですね。オクルージョンや空間のシェアなど、今までARで足りなかったと思っていたところが実現できるようになります。WWCで『マインクラフト』を使ったデモが記憶に残っていますが、我々が目指しているARの世界により一歩近づいた表現だと思います。

服部氏:ARKit 3が私にとっても、一番インパクトが大きいものでした。アップルの人に、「オクルージョン無いと厳しいですよね」といってたら、「アップルにリクエストを送ってください。みんな見てますから」といわれたのが本当だったんだと知りました(笑)。出来る幅が広がり機能も上がって、どんどん使い倒していきたいと思っています。

佐藤氏:僕はnrealです。今年の2月にスペインのバルセロナで行われた「MWC」で、『HoloLens 2』が発表されるといわれていたので、それを見に行きました。『HoloLens 2』はハンドトラッキングが使えるようになるなど良かったのは良かったのですが・・・・・・昔『HoloLens』が無かったときに、ゼロから1になったときの衝撃に比べて1から2になったときの衝撃は少なかったんです。

2日目に自由時間があったので、そのときにnrealのブースに行きました。特に前情報もなく掛けたら、発色も良く視野角も横にちゃんと幅がありました。『HoloLens 2』は縦の幅が向上していますが、個人的に体感して感じたのは横の幅の方が大事だということです。横の幅があるだけで、これまでの小窓越しに見ている感覚が無くなったような気がします。

nrealのデバイスは解像度もきめ細やかで、IMAXで観る映像で一部飛び出してくるシーンが、あの綺麗さのままパーソナルなデバイスで観ることができます。今後、自宅で部屋を暗くして、ゴーグルを掛けて最新の映画を観ることで、映画館と同じ体験をすることができるようになります。しかもそれを、高価なPCなどは不要でモバイル端末に接続するだけでできて、普段はサングラスとしても使えるという用途がイメージできました。毎年元年と言われていますが、今年も元年です(笑)。

■AR開発で難しいと感じるところは?

続いて「今のAR開発において難しいと感じる点は?」というお題でトークが行われた。

服部氏:どうしても、まとまった時間を取ってそれだけをやるということができず、何かしら成果を出すのが難しく感じている点です。開発ツールはUnityでもiOSネイティブでもいいのですが、それでどうなるのかということをしっかり握っていかなくてはいけないし、それを専業でできないところが難しいところです。

比留間氏:今までのディスプレイで完結しているコンテンツの作り方からすると、ガラッと考え方を変えなければいけないと痛感しています。スマホベースであれば画面を通して見ているので、その文脈で作ることができます。しかし、これがグラス型ARになると「右端にボタンを置きたい」とデザイナーに言われたときに、「端ってどこですか?」という会話になってしまいます。

端はないので、空間を空間と捉える違う脳の場所を使ってコンテンツを作っていく必要があると感じています。

佐藤氏:ARに関していうと、コンテンツ作りやサービス開発が画面の中に収まりきらないというところが難しいですね。ARは必ず現実との接点があり、現実の上にホログラムなどデジタルの情報を乗せます。そのため、現実もちゃんと設計しないといけないところが、大変だと思っています。

UIひとつとってもどこに置くのか。現実もちゃんと設計したほうがいいならば、棚のレイアウトはどうすればいいのか。プログラミングで脳みそを使うことが多いのですが、そことはちょっと違う空間設計のデザイナーも、大切になってくると言われています。そうしたデザイナーと相談するなど、常にコミュニケーションを取ってひとつのコンテンツを作っていかなくてはならないというところが、個人的には大変だと思っています。

比留間氏:実際に作っていて感じるのが、場所もそうですが使う人の視点もないと手が疲れるということが出てきます。

佐藤氏:慣れってありますよね。開発者の、慣れてしまったゆえに取り戻せないものが(笑)。

比留間氏:その人になりきって、かつこういう風に使うだろうということもちゃんと設計してあげないといけないところが、ARの難しいところですね。

■AR開発者になるために意識するところは?

本セッション最後のお題は、「AR開発者になるために意識すべきことはなにか?」だ。

比留間氏:AR開発者になるためにという意味では、新しい技術にいち早く触ってるほか、どういう仕組みで動いているのか把握した上で作っていくのは大事だと思っています。ディスプレイとAR空間は違うという話がありましたが、じゃ何が違うのか? というところを意識してみています。ハンドジェスチャーでは難しいと思ったときに、何で難しく感じたのかとか、逆にそれをARならではのものに置き換えるにはどうすればいいのかといった、脳のトレーニングのようなことを意識しています。

佐藤氏:ARやVR開発者になりたいという意識は、今も昔もなくて・・・・・・それは手段のひとつで目的ではないからです。何かやりたいことがあったときに、昔だった夢物語だったのがARやVRの技術を使ってコンテンツとして作ることが出来るようになりました。幅広い知識が、昔よりは必要になってきているのかなとは思います。

ARクリエイターのほうが近いですかね。Unityなどツールがある今の世界ではそこまで難しくないですが、それを作ったことで誰かを感動させることができるかどうかのほうが、大変な気がします。

比留間氏:開発者じゃない、ARクリエイターになるためにはということでは、自分ではない別の人の視点をどれだけ持てるかというのが、ひとつ大きなポイントだと感じました。

服部氏:まだAR開発者ではなく、これからなりたいという人がいると仮定して、その人にアドバイスを送るとすると・・・・・・スパルタコースと普通コースがあります(笑)。スパルタコースは、ひとりアドベントカレンダーをやりましょうということになります。このアドベントカレンダーは、20数日間、記事を書いて繋いでいくというものですが、ひとりで走りきる頃にはAR開発者になっています。

普通コースは、ARやってみた系の映像がTwitterで反応されやすいので、短いのを作ってTwitterに投稿して、それをリツイートしてもらいます。それで数字を稼いで、自己承認と知識を貯めます。そのサイクルを、週1~2で繰り返していくと、2~3ヵ月後には自分の心も周りもAR開発者になっていると思います。

比留間氏:今の文脈でいくと、一番手っ取り早いのは「AR開発者です」と名乗ってしまうことだと思います。これは半分冗談、半分本気なのですが、どなたかが言っていた話ですが、既存のゲームなどディスプレイ向けのものを作っていた人の方が、概念に捕らわれてしまって新しいアイデアが出てこないことがあります。

そのため、名乗ってしまって新しいものを作って、どんどん発信していってアウトプットを出していけば、気が付いたら本当の意味でのAR開発者になっているし、今日からでもなることができます。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。