2019
08.21

【World MR News】豊田啓介氏×水口哲也氏による対談セッション! ARが我々の生活に与えるインパクトは?【ARISE#1】

World MR News

MESONは、8月3日にARコミュニティイベント「ARISE: Spatial Experience Summit #1」を東京・渋谷のAbema Towersで開催した。本稿ではその中から、建築家でnoizパートナーとgluonパートナーの豊田啓介氏と、ゲームクリエイターでエンハンスCEOとシナスタジアラボの主宰を務めている水口哲也氏による対話セッションの模様を一部抜粋してお届けする。

▲写真左から水口哲也氏と豊田啓介氏。

▲ファシリテーターは、“ARおじさん”こと、MESON COOの小林佑樹氏。

■2Dの時代がようやく終わり600年ぶりの大イノベーションが起ころうとしている

小林氏:水口さんの共感覚体験装置『シナスタジア』を体験しましたが、視覚とは違う体験ができました。

水口氏:普段ない感覚の組み合わせが起きる部分と、すーっとなる部分の両方があります。

小林氏:「音を聴く」ということの再現かな? と思いました。僕たちが聴いてた歌詞などはないのに、目をつむると像が浮かぶ上がってくるという体験が面白かったです。

水口氏:人は音を耳で聞くものだという先入観がありますが、実は全然そんなことはありません。僕らの感覚は五感どころではなく、何十という感覚が複合的に絡み合って生きています。それを五感と抽出してしまうのは乱暴な話です。

ここから先の解像度が上がっていく世界で、何か新しい体験をクリエイションすると考えたときに、五感というのが壁を作っている気がします。ARは視覚みたいな(笑)。視覚は大事ですが、それだけではありません。その体験設計をどうするかということが求められてきます。

本当のパラダイムシフトは、ここから起きると思っています。メディア的な歴史の視点でいうと、今の状態は500~600年続いてきたものです。2Dの時代がようやく終わり、四角いフレームの本や絵、映画など2Dで切り取ったものが。しかし、人間からするとそれがもっとも不自然なものでした。

僕たちは3Dの中で生きていて、すべてを3Dで感じているのに、抽出して記録するために。それがようやく統合でき、それがVRでわかり、ARで僕らの生活している現実の世界にシンセサイズできるようになるというのが、600年ぶりの大イノベーションが起こるということを感じて、みんな集まっているんだと思います。

▲こちらが共感覚体験装置の『シナスタジアX1 – 2.44』。

小林氏:建築でも今おっしゃられているようなことがあると思いますが、豊田さん自身は何をきっかけに考えられましたか?

豊田氏:どうなんですかね。僕は「コンピュテーショナル」といいながら、出身は安藤忠雄建築研究所で、コンクリートの塊の中で旧世代の建築教育を受けていたので(笑)。建築は図面で、社会的な洗練の度合いをどう上げていくかということを数百年続けてきた世界です。それはそれで、すごい解像度と知己の体系があります。

安藤事務所は、2000年代でもT定規と勾配定規で書いていました。ものすごいパースがある図面を書いていたときに、コンマ何度の角度を正確に書かないと、絶対に同じ平行になりません。そのときに、「絶対これコンピューターで書けるじゃん!」って思いました(笑)。その頃から、なんかおかしいと感じていたのかもしれません。

小林氏:2Dの中で作業をする違和感が出てくるのかなと。

豊田氏:埋め立て地は土地からすべて人工ですが、漁師町には地形に沿って道があり、昔からの家も建っていて雰囲気があります。それらは図面で書くことができません。その集合知のメタなデザインみたいなのができるとすると、デジタルデザインのほうが近いのではないかという思いが昔からあり、こっちにきたというのもあります。

水口氏:最初のイメージは3Dからするわけですよね?

豊田氏:どうなんですかね~。複数のメタモデルもあって、形のイメージもあって・・・・・・『Rez』ではないですが、形にならないもわっとした雰囲気を作りたいために工程にはいるときもあるし、テクノロジーに行くときもあるし、形のイメージをするときもあるし。もっとメタなものからスタートしている気がします。

水口氏:その段階で2次元の図面の起こすのはどうなんですか?

豊田氏:不自然なんだろうなと思いますね。これまでは紙しかなかったので、それが正解だという固定概念に縛られすぎていました。紙以外に、高次元のものをそのまま伝える手段があるのであれば、ミケランジェロなら当然そちらを使っていたハズです。

■建築や都市設計のAR/MR活用はまだまだベタなところ

水口氏:建築や都市設計の世界で、ARやMRの使用事例はどれぐらいありますか?

豊田氏:実務的には、まだベタなところで家具を置いて入るかやってみたり、普通の人がわかりやすい建売住宅で完成したときの壁の色を変更してみたりといった感じです。僕らも慣れるつもりで、Unrealだけを使って全住宅の設計をするということをやってみました。

BIMやCADを使わずに・・・・・・実際は使っていますが、ほぼ出来るという前提で、VRゴーグルだけで作りました。それはそれで面白かったです。光のシミュレーションなどライブラリーもすごくて。建築をやっていると、図面と3Dを起動してから、光シミュレーション用のものにわざわざ移して固定的にやっています。それがUnrealのシミュレーターだけで十分なものになります。

むしろ、こちらでやっていたときの光りの入り方など素材のシミュレーションがリアルすぎて。僕らが完成したときの喜びを感じるのは、施主にお渡しして「うわ~、やっぱり出来るとすごいですね~」と褒め言葉を言われるときです。それが、「まったく同じっすね」と言われてしまうのが微妙なところで(笑)。

水口氏:図面から作る前にシミュレーションするなど、その先に「都市や建築ってなんだ?」という話になってきます。『ワイアード』のミラーワールド特集で、豊田さんが2025年に開催される大阪万博のことにも触れられていました。これからの都市は、コモングラウンド(共通化)にしていく必要があると語られていました。この共通化は、情報やデータなども建築として取り込むということですよね?

豊田氏:僕はそう思っています。

水口氏:これまでの建築家は、誰も発想しなかったというか、できなかったことですね。そうしたものがなかったという前提で都市が作られてきたので。デジタルとアナログや、触れるタンジブルなものと触れない情報も含めて、全体的にそれが都市や建築であるといってるところが、すごくかっこいいです(笑)。

豊田氏:デザイナーとしては微妙なところでもあって。新しいビジネスの世界があり、それに応じた都市や環境をデザインする必要があります。今のビジネスの最先端だと、情報プラットフォーマーが出来てきてといった話の先に、UBERやAirbnbみたいな企業が登場しました。

UBERは、タクシーという固定されたパイを乗用車でもタクシーでも定義次第でいくらでも変えることができるようにしています。あれが最先端のデザインで、Airbnbはホテルというパイを流動化して離散化しています。最先端の人たちは、空間次元ではなくなってきているのです

UBERはタクシーのデザインは変えず、Airbnbもホテルのデザインは変えません。そのため、そっち側に行けば行くほど、形のデザインをする領域がどんどんなくなっていきます。旧来のデザイナーの立場としては、微妙な感じになってきますね。

今のデザインの価値を扱おうとすると高次元化していくので、XYZの3つの選択肢以外のところに、ものすごい価値がある次元が出来できます。こっちをねじった方が社会的なデザイン価値が出るとなると、むしろここを扱わない方が正解というデザインも出来てきます。

小林氏:僕らはよくARクラウドの話をしています。あれは人間から見た空間みたいなものを考えています。コモングラウンドはそれにプラスして、機械から見たリアル概念になっています。コモングラウンドを掘り下げてみたときに、デジタル情報がいわゆるマテリアルのようなものになっていくのでしょうか?

20世紀はコンクリートが多く使われていましたが、それが21世紀後半や22世紀になったときに、実はデジタルな壁が出来るといった話やデジタル情報による建築が出来てきますか?

豊田氏:たぶん双方向ですが、たとえば自律走行が前提の街では電子的に航路が定義できます。ラッシュアワー時だけ道が広がったり、特定の時のみ道が分岐したりということも可能です。そのため、むしろ物理的な境界はないほうが良くなります。できるだけフラットでフレキシブルである方が、電子制御がしやすくなります。

土地の所有も一ゼロで固定されていない方が、みんなのレベルが上がるという話になってきます。同時に、コンピューティングの能力は、どんなに上がってもすべてを網羅することは原理的に無理です。ある程度の領域内では、すべての因果関係を計算せずにマクロに計算するようにしないと、制御できません。

というようなことが都市領域には沢山あり、モノの挙動的な統計がある前提でそれに計算させるようになると思っています。

水口氏:端から見ているとレアポケモンを求めて集まっている人たちの様子は、ぜんぜんわかりません。しかし、それぞれの中では完全に融合しています。こうした領域が、もっと増えていきますね。

みんなが何を求めているのかところで、ユートピアとはなんだという議論があります。ケイイチ・マツダ君の『HYPER-REALITY』は、そのいい例です。彼は映像作家でもあるので、シニカルにディストピアの感じを描いています。

これは、ある意味広告やマーケティングが都市の中に溶け合ったときにどれだけ人が翻弄されるのかということを映像にしたものです。

豊田氏:どこかネオ東京的な面白さも入れているじゃないですか。テクニカルなモノは、表現する難しさがあります。説明だけではダメで、セクシーさとある雰囲気が織り込まれている。そうはいってもシニカルな部分も盛り込まれている。その表現はすごいなと思いました。nrealを体験したときに、「あ、本当にこの世界が体験出来るんだ」と思いましたね。

水口氏:出来ちゃいます。出来ちゃいますけど、この世界は(笑)。

小林氏:渋谷などを見ていると、近いものがありますよね。広告が多くなってきて。

豊田氏:ディスプレイ広告もどんどんOOH(Out of Home)になっていくので、歩いている人の属性に応じてどんどん変わっていくようになるし、ホワイトボードでゴーグルを掛けている人によって違うものが見えるように段階的になっていきます。

水口氏:そう考えると、街中の看板や広告はリアルでは真っ白になりますよね。建物でもいろんな影響がありそうです。

豊田氏:まだ物理的なモノをスキャンして、そのデータを取り込んで、それに対してオクルージョンがみたいなことは、まだしばらく出来ません。それを実現するために、どうデータを取っておけばよいかといったことに興味があります。それが実現すると、歩いている人は渋谷なんだけどジャングルだったり、ゲームの世界だったりというのも選べるようになります。

まずは試験的に2025年の大阪万博では、会場に行くとそういうのが複数選べて個別に体験できるということを、何かしらせざるを得ないのではないかと思っています。

水口氏:万博ってある意味、壮大な実験が出来る場所です。今回のオリンピックでもそうした兆候をすごく感じます。大きい試みができずに過ぎ去っていくという感じが、ちょっとするので(笑)。万博はタイミング的にも最高です。あと6年もあるし、ARの世界も相当面白いことになっています。

豊田氏:いろんなXRも、ちょうど部分的に実装できそうなタイミングですね。

水口氏:その会場に行けば、そこにあるものと合成された世界という新しい体験がいろいろと出来るという実験をするには、最高ですよね。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。