08.21
【World MR News】メディア側から見た2019年のARのトレンドは?【ARISE#1】
MESONは、8月3日にARコミュニティイベント「ARISE: Spatial Experience Summit #1」を東京・渋谷のAbema Towersで開催した。本イベントは、同社が日本発のグローバルARコミュニティを創ることと、業界業種を超えてより多くの人々がAR技術で価値を創造することを目的に発足したものだ。
本稿ではその中から、「XR Media Session」としてMogura VRのファウンダー久保田瞬氏によるセッション「2019年 メディアから見たARのトレンド」の模様をお届けする。
■VRとARの広がりの違い
ARとVRは似ている部分もあるが、普及という点では異なると久保田氏はいう。どちらも共通していえるのは、脳をだます技術だ。しかし、どこを見せるかという点は異なり、ARは現実には存在しないものを重ねて、VRは現実ではない世界に没入することができる。
先ほど話題に出た普及という点では、ARはすでに10億人以上が体験済だ。それに比べて、VRは数千万人程度とようやく普及し始めたという段階である。その差は、体験出来るデバイスの数だ。ARならば特別なグラスなどがなくても、スマートフォンさえあれば誰でも体験することができる。VRデバイスも安くなってきたとはいえ、購入するまでの人はまだまだ少ない。
VR元年といわれる2016年あたりから、様々なデバイスが登場してきたVR。この3年間で性能が向上したほか、価格も下がる傾向にありお手頃になってきた。また、黎明期でもあることから、デバイスの進化が早いのが特徴だ。3年前とは解像度も2倍以上異なり、設定から体験までの時間も短くなってきている。
最近はPCやスマホが不要なスタンドアロンタイプのものが登場してきており、それが広がっていくと予想される。
ARは10億人が体験していると言われているが、その多くがスマホやタブレットをしようしたものだ。ARデバイスの中でも日常型に近いのが、スマートグラス(ARグラス)だ。こちらはスカウターのように、視界の一部に情報を表示してみることができるというものである。
さらにその上のレイヤーには、『HoloLens 2』や『Magic Leap One』『Nreal light』といったデバイスがあり、こちらは空間を認識してその場所にCGなどのオブジェクトを表示することができる。価格もまだまだ高価で、一般の人が購入するというものにはなっていない。
現状はARよりVRのマーケットが大きいが、年々ARのシェアが伸びていき2025年にはARが45パーセント、VRが55パーセントという割合になると予測されている。Gartnerが発表しているハイプサイクルでは、ARは幻滅期に入ったあたりだがVRはすでに安定期に入っている。
■2019年のARのトレンドは?
2019年のARのトレンドは4つある。ひとつはなじむだ。これはスマホアプリの『Snapchat』でフィルターを使って性転換をしたり、Googleマップのアプリで道案内のCG表示をさせたりすることができるようになった。これは、画像認識で自己位置の推定と環境地図作成を同時に同時に行う技術が向上したことから実現したものだ。
ふたつ目は、10億人の体験者のほとんどを占めるモバイルARの急激な盛り上がりだ。2017年のアップルよりARkitがリリースされたことがきっかけで、徐々にサポートされるアプリが増えてきたのが理由だ。また、GoogleもAndroid向けにARCoreなどもリリースし、対応機種も増えてきている。そしてこれらは毎年アップデートされ、その制度も向上してきている。
現実世界にCGを重ねるARでは、CGとリアルなオブジェクトの前後関係を表すオクルージョンが問題になることがある。たとえば、リアルな椅子の後ろにCGが回り込んだときは、その部分が見えなくなるようにする必要があるといった感じだ。新しいARKitでは、そのオクルージョン処理もサポートされるようになる。
3つ目は、ウェアラブルのARデバイスだ。まだまだ高価ではあるが、開発は数多く行われている。中でも注目を集めているのが、年末に発売される『HoloLens 2』や来春発売の『Nreal light』、そしてMagic Leapなどだ。
まだ公式発表はされておらず、噂レベルだがアップルもARグラスを開発していると言われている。そうしたこともあってか、これから期待しているデバイスの3位にもアップルがランクインしている。
4つ目は、B2Bでの利用進展だ。すでにエアバスでは、航空会社向けに『HoloLens』のソフトウェアを提供しており、JALではトレーニングプラグラムを採用している。作業効率も80パーセント向上したという結果が出ている。
また、トヨタでは、自動車整備で『HoloLens』を活用することで、マニュアルを削減している。こうしたものにより作業時間を短縮し、工数カットに繋げているのだ。さらに米陸軍は、『HoloLens 2』を10万台導入することを決定している。
産業用ARの開発会社であるScopeARは、様々な形態に対応したツール『WorkLink』をリリースしている。こちらは利用者の環境に合わせて、同じように現場の遠隔サポートが行えるような仕組みを作っている。
■具体的になり始めた未来
VRやARは、アプリやツールといった印象を持っている人もいるかもしれない。しかし、ウェアラブルのデバイスが登場してくると、日常的に使うものに変わってくる。現在は何かをするめに利用するのが、日頃使用しているものからどのようにアプローチするかになっていくのだ。
現在のUIは、ディスプレイを中心にした2次元のものが主流になっている。それが、VRやARでは空間にインターフェイスも変わっていく。こうした未来についての話題を、複数の企業が語っているというのが現在だ。
こうしたVRやARの未来を語る言葉も、いくつか生まれてきている。「Mixed Reality(MR)」や「Spatial Computing」、「ミラーワールド」などだ。雑紙の特集や本なども出てきているため、そちらをチェックしてみるといいだろう。
MR(複合現実)は、現実とバーチャルを混ぜ合わせたものだが、まだ現実世界にはなく誰も体験したことがない世界があると久保田氏はいう。それが、「拡張VR(AV)」だ。現在のMRは、すべて現実世界になにかを融合させている。この「拡張VR」は現実世界の人や環境などをモデル化してVR環境に統合することで、インタラクション可能にするといった技術である。
現実世界とバーチャルの区別がつかないレベルで描画が可能なVRデバイス『Varjo XR-1』が年末以降に発売されるほか、Facebookも部屋をヘッドセットでスキャンして現実空間を再現するといった技術を開発している。現実がスキャンできるということは、テクスチャーを変更することもできるようになるのが、この技術の特徴のひとつでもある。
この4月には、ドコモがMagic Leapに2.8億ドルの投資を発表するなど、大きなお金が動くことがある。それは、目の前にあるアプリやプラットフォームを作りたいということではなく、空間に様々なインターフェイスが出るようになってきたときに、その部分を誰が握るのかということを争っているのだ。当然のことながら、次世代通信の5Gにも係わってくる部分であるため、AT&TもMagic Leapと、KDDIはnrealとタッグを組んでいる。
Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。