2019
07.17

【World MR News】住めるVR世界を実現するための共通フォーマットを提案――「WFLE VTuber Hackers Meetup Vol.02」レポート②

World MR News

Wright Flyer Live Entertainment(以下WFLE)は、7月2日にVTuberやライブエンタメに特化した勉強会「WFLE VTuber Hackers Meetup Vol.02」を開催した。本稿ではその中から、バーチャルキャストのMIRO氏、WFLEの千田誠氏氏と高桑宗一郎氏のセッションの模様をレポートする。

■「VRM / VCIが広げるVR世界間ポータビリティ」バーチャルキャスト MIRO氏

MIRO氏ことバーチャルキャスト 取締役CTOの岩城進之介氏からは、「VRM / VCIが広げるVR世界間ポータビリティ」としてセッションが行われた。冒頭、「突然ですがVR世界に住みたいと思いませんか?」と、会場に問いかけたMIRO氏。この住める「VR世界」とは、ライブ会場、ゲーム、イベントに加えて買い物や自宅、仕事などができる幅広い世界の実装が必要だ。

▲バーチャルキャスト 取締役CTOの岩城進之介(MIRO)氏。

よくフィクションの世界では、単一の企業体による巨大なVR空間として描かれることが多い。しかし、本当に広大なVR空間を単一の事業者が作りきれるのかについては疑問がある。仮にそれが作れたとしても、本当に求めている新世界になるとは限らない。

VR空間における自分という存在を考えたときに、サービス終了と共に消える運命でいいのかという問題が出てくる。そこで作られたのは、「VRM」という共通フォーマットだ。この「VRM」は、自分の体を自由にしてプラットフォーム間ポータビリティを確保するというのが前提にある。

人型キャラクターのアバターにおいて、細かいモデルデータの差異を吸収・統一して、アプリケーション側の取り扱いを簡単にするためのプラットフォーム非依存・横断型3Dアバターファイルフォーマットなのだ。

つまり、1度作成したアバターを様々なアプリケーションに持って行くことができるのである。そのため、特定のプラットフォームのサービスが終了したとしても、他のプラットフォームで活動を続けることができるようになるのだ。

▲「VRM」はオープンソースでライブラリーが公開されている。

「VRM」の存在を知っていても、「VCI」のほうはわからないという人もいるかもしれない。こちらは、VR空間における自分の持ち物を自由にして、プラットフォーム間ポータビリティを確保するためのプラットフォーム横断型を目指している3Dアイテムファイルフォーマットである。

「VCI」では、人型のキャラクターやアバターではないVRヘッドマウントディスプレイ向けのアイテムや背景、ギミックなど、インタラクティブな要素を含む3Dモデル・コードなどを取り扱う。

現状は『バーチャルキャスト』専用になっているが、仕様と実装が落ち着いてきたら読み込んで遊べるライブラリーも将来提供していく予定である。同社ではVR空間に持ち込むための流通基盤である「THE SEED ONLINE」というプラットフォームを作っている。

THE SEED ONLINE

https://seed.online/

こちらは、データの置き場というだけではなく、プラットフォーム別にVRMのモデルを作るというときに、サーバ側で自動ポリゴンリダクションなども行えるようになっている。

▲こちらは、「VCI」の仕組みで作られた背景だ。ペンライトのオン・オフなどの仕掛けも使える。

■「ゲーム開発者がVTuberスタジオで働いてみてわかったこと(ゲーム開発との相違点)」WFLE 千田誠氏

WFLEの千田誠氏からは、「ゲーム開発者がVTuberスタジオで働いてみてわかったこと(ゲーム開発との相違点)」というテーマでセッションが行われた。四半世紀ほどゲームを作り続けてきたという千田氏だが、いきなり会社がVTuberを始めたことから、そちらに参加することになったそうだ。現在は、『REALITY』の生配信を担当している。

▲WFLEの千田誠氏。

90年代にタイトーに入社し、いきなりVRゲームの現場に入り、その家庭用ゲーム機からスマホになり、2016年よりGREE VR StudioでVRゲームのディレクションとゲームデザインを担当してきた千田氏。実際のVTuber業界に入ってみたら、イメージとはなりかなり体を動かす仕事だったという。

技術面の知識はゲーム開発の知見からある程度は役にたったそうだが、コンテンツ作りという点では「尊いとはなんだろうか?」「1時間で消えてしまうギフトを上げる心理はなんだろうか」など、視聴者の嗜好や心理などがわからなかったそうだ。

2018年8月の『REALITY』第1回目の配信では、現場の写真を撮るのが仕事だった。そこからのスタートだったが、ゲーム開発との違う部分は出演者が意図せず勝手に動いたり、あるいはリアルタイムで手や顔、体をキャプチャーしたりするということはゲーム開発の世界ではなかったという。

コンテンツ作りでは、ゲームでは作り込んで出していたが、VTuberの場合は世界がユーザーと一緒に同時進行していく。そのため、出演者のアドリブ力に依存する部分も多い。また、コメントなどでユーザーの反応がリアルタイムで届き、それに対して反応するなど即興の世界でもある。

配信までのプロセスは、企画・構成から技術検証を行い、実現しそうな場合は進めていく。当日に機材準備などを行い、ギフト確認なども行う。その後リハーサルを行ってオンエアという流れになっている。

配信中は出演者ファーストだ。スムーズな段取りと、出演者の疑問や不安を解消することで、それが番組の面白さに直結していく。生配信と収録との違いは、まさに、昨年大ヒットした某ゾンビ系ワンカット映画のような世界だという。

モーションキャプチャ系のトラブルで、トーク中に世界がだんだん動いてしまったり、ヒューマンエラーや機材トラブルなどが起ったりする。こうした問題は、システムの日々のアップデートやワークフローの見直し、反省点の共有などで解消している。

映像配信システムや映像機材・配信、音響機材、番組企画など、ゲーム業界での経験が通用しなかったことがいろいろあった。それをどう乗り越えたかというと、空いている時間に勉強会を開いたたり、マニュアルを書いて共有したそうだ。

当初は「尊いって何?」という状況だったのが、最近は「てぇてぇ、てぇてぇ」とまでいうようになり、これはゲーム業界でいうところに感情移入だと千田氏はいう。ゲームは敵からどこからどのタイミングで出すと面白いかというようなことを考えるが、配信番組ではどんなネタをいつどのタイミングで出すとユーザーは面白いと感じるのかを考える。つまりこれは、レベルデザインがあるということになり、ゲームと目指すところは同じだったことに気が付いたそうだ。

■「ライブ配信サービスの巡回性向上施策」WFLE 高桑宗一郎氏

WFLE 高桑宗一郎氏からは、プロダクトマネージャーという立場から「ライブ配信サービスの巡回性向上施策」というテーマでセッションが行われた。

▲WFLE 高桑宗一郎氏。

始めに紹介されたのは、『REALITY』の各配信者のPV均一化を狙った話だ。その理由は、サービスのコンテンツ力が人気配信者の人数とその人気度に依存すると考えているからである。

『REALITY』のコンテンツ表示ロジックは、同時接続数が多いトップ1、2が一番上に来て、2~3行目は、初級配信者、それ以降は、残りのメンバーで同時接続数が少ない順と同時接続数が多い順を繰り返し表示している。初級配信者を優遇している理由は、自力でPVを稼ぐ力がないからだ。その結果、PVの均一化を実現することができたそうだ。

初配信者で同時接続1、2位を獲得するのはビギナーズラックかもしれないが、初級配信者上位表示ゾーンから純粋な同時接続数で2位にまで昇格するケースもあり、これはサポートが効いた結果だと高桑氏は考えている。

上から2~3行目に表示されていたから最上位に昇格したのはあくまでもきっかけでしかなく、「初配信」という単語が配信名に含まれていることがソートロジックと同等の影響力を持つ可能性があるという逆転の発想で仮説を立てている。

「初心者」に関心が集まる理由としては、トーク力や視聴者とのインタラクティブによる配信内での盛り上がりなどはあまり期待できないと思われるにもかかわらず、人が集まっていた。その理由のひとつとして、動画プラットフォームで目立つ「本質的な人間性」に関心があるため、人格コンテンツの新規性を求めているという解釈をしている。

YouTubeでは、各チャンネルにおける最多視聴回数では自己紹介が圧倒的に多い。歌ってみたやゲーム実況は企画側寄りのコンテンツだが、自己紹介動画は人格側のコンテンツがだ。つまり、人格コンテンツの新規性に対する需要があり、視聴者は初見配信者に感心が高いのである。

PVの均一化を実現して、初配信者が集客に強いこともわかった。そこで次のステップとして、コメントやギフティング、最終的に『REALITY』内でのフォローを行い、リピーターとして配信にくる本質的案繋がりが今後の課題になってくると考えた。そこで、初級配信者というラベル以外にも、新規性を表現できるラベルを追加導入する方向性が見えたそうだ。

今後は、需要の大きい人格コンテンツを変数として含むロジックを追求していくとのこと。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。