2019
07.17

【World MR News】VTuberプロデューサーは価値を創るのが仕事――「WFLE VTuber Hackers Meetup Vol.02」レポート③

World MR News

Wright Flyer Live Entertainment(以下WFLE)は、7月2日にVTuberやライブエンタメに特化した勉強会「WFLE VTuber Hackers Meetup Vol.02」を開催した。本稿ではその中から、GREE VR Studio Lab 白井暁彦氏、WFLEの坂田悠人氏と栗田健悟氏のセッションの模様をレポートする。

■「基盤研究をVTuberサービスに展開するために必要な”R2D” Tips」GREE VR Studio Lab 白井暁彦氏

GREE VR Studio Labの白井暁彦氏からは、R&Dに置ける課題をテーマに語られた。GREE VR Studio Labは、VTuber事業を推進するWFLEの技術支援、国内/海外他社とのR&D連携推進、成果発信・採用支援・インターシップ受け入れなどを行っている部署だ。

▲GREE VR Studio Labの白井暁彦氏。

アバター社会の教育利用として、博士インターンのRex HSIEH氏がパリの学会で「アバターとボイチェンのプログラミング系e-Learning講義への利用と評価方法」を発表している。これは、動画を見る宿題が出たときの先生の姿を、青年風や女子風アバターに変更し、186人15グループで半年にわたり興味と習熟の変化を評価している。女子風アバターが良い結果が出たと思われたが、ジェンダーバイアスがあった。また、ボイスチェンジャーと映像を組み合わせなかった方が良かったという。

VTuberと触覚エンタテインメントでは、『Hapbeat』という触覚デバイスを使った研究も行われている。こちらは距離や方向を見ていないのに、表現するアルゴリズムの研究だ。

▲『Hapbeat』を使うことで、完全に目隠した状態でもナビゲートすることができる。

PKSHA Technologyとの共同研究では、機械学習を使ったフェイシャルキャプチャで、特殊表情のコントローラーとして使えないか研究を行っている。この特殊表情は、ゲームのコントローラーのようなもの使用することがあるが、それをiPhoneだけで駆動できないか検討をしている。

出演者の顔の表情を学習して、15種類の特殊表情を分類。それを評価検討と成果発信するのだが、必ずしも使われるわけではなくお蔵入りになることもある。

同社のユニークな点は、出来ないことが出来るようになるのは素晴らしいことだが、求められているのでは「機能」だけではないというところだと白井氏はいう。どうやってユーザーが遊んでもらえるかという設計が重要なのだ。

そもそも開発者が使ってくれない研究成果ではR&Dとは呼べず、過去を見てきたからこそ見える未来もある。Research&Developmentの罠を見極めて、無駄なことや誰もやらないことをやって、根本的にDではやれないことを長期視点で植えていこうとしている。「VR4.0」と言われる、バーチャルな存在がハードウェアを牽引する時代では、ヘタなコードを書くよりも人々の理解を開発することの方が重要となってくるのだ。

R2Dの道筋を作るという例で、「転声こえうらない」(β)というエンジンを開発している。こちらは13タイプのキャラクターから選択し、なりたい声になってツイッターなどでシェアすることができるというものだ。GREE VR Studio Lab初のプロダクトで、ウェブブラウザ上で利用できる無料サービスとなっている。

■「VTuberプロデューサーという仕事」WFLE 坂田悠人氏

WFLEの坂田悠人氏からは、プロダクション事業チームの話として「VTuberプロデューサーという仕事」というテーマでセッションが行われた。

▲WFLE 坂田悠人氏。

VTuberプロデューサーのプロデューサーの仕事にはいろいろあるが、大きく分けるとデビューするまでの開発とデビュー後の運用のふたつにわけることができる。そもそも論だが、これらはビジネスとして成立させないとやる意味がない。そのため、ビジネスとして成立させるための要素が入ってくるのだ。

通常は開発と運用はディレクターが担当し、ビジネス面ではプロデューサーが担うことが多い。しかしVTuberプロデューサーの場合は、市場が立ち上がって間もないということもあり、これらをすべてひとりで行う必要があるのだ。

ビジネスとして成り立たせるためには、お金に繋がるプロデュース方針が重要となってくる。運用のどの工程で収益を生むか初めて決めておく必要がある。また、効率的に運用していくために仲間を集め、ユーザーを飽きさせないために未知の何かを仕掛け続けていく必要がある。

そのため、VTuberプロデューサーの仕事をひと言で言い表すと「価値を創る仕事」だと坂田氏はいう。

VTuberをプロデュースしていく上で大切なことは、お金になるのはビジネス的に正しいことだ。また、ユーザーを飽きさせない仕掛けは、コンテンツ的に面白いということでもある。しかし、正しくて面白いものを創るのはなかなか難しい。この面白いのか? 正しいのか? を反復横跳びで日々考え続けるのが、重要なのだ。

VTuberとMステを掛け合わせて考えてみたり、VTuberとアパレル展開を掛け合わせたりという感じで、かけ算をしながら未知を産んでいる。しかし、飛躍しすぎてしまうと理解されないため、モノを出しても売れずにお金にもなりにくい。つまり、VTuberプロデューサーとしては価値を創るうえで理解されないことは死を意味するのだ。

■「スマホだけでもVTuberに“会う“を実現するための技術」WFLE 栗田健悟氏

WFLEの栗田健悟氏からは、「スマホだけでもVTuberに“会う“を実現するための技術」というテーマでセッションが行われた。

▲WFLEの栗田健悟氏。

『REALITY』の基本方針は、アバター人口の増加と活動できる場を増やすということだった。公式番組を配信するとVTuberが好きな人たちは集まるものの、アバターになりたいという人はなかなか増えなかった。そのため、VTuberが好きな人たちとアバターになりたい人たちとの間には、かなりの距離があったという。

しかし、サービス提供者としてはどちらも楽しんでもらいたいという思いがあったそうだ。

これがリアルなアイドルの場合、握手会などで交流することができる。そこで、バーチャルな体があれば、VTuberともリアルなアイドルと同等の交流ができるし嬉しく感じるという仮説を立てている。

そこで、体験を音楽番組の中でVTuberの生ライブが開かれて、そこに観客として自分のアバターを送り込み、抽選でVTuberとのツーショットが撮れるというものに絞り込み、実現に向けたプロジェクトを計画。それをFESに導入している。

このFESは、一週間毎日凝った企画の番組を、3枠ずつ配信するという祭典だ。その第2弾に先ほどのプロジェクトを盛り込んだのである。 

こうしてFES2 Projectが始動した。しかし、課題は山積みになっており、ひとつめは3Dアバター自体がスタジオとは全然異なるというものだ。ふたつ目の課題としては、ライブの演出や客をバーチャルで表現する方法がわからなかったところである。そのほかラグやアプリが別々で使いにくいという問題もあった。そして何よりも、概念が新しすぎて誰にも理解されなかったところだ。

そこで、解決する課題を絞り込んでいる。

3Dモデルの根本的差異に関しては、REALITY Avatarは顔中心で上半身しか動かす想定をしていなかったため、ボーンなどの仕組みが適さない。そこで、REALITY Avatarから共通フォーマットのVRMにエクスポートして、それをインポートする機能が必要なことがわかった。

しかし、このVRMはUnityとは親和性は高いのだが、UE4はアップデートの頻度が高いため親和性が低い。また、常にスタジオはどうしているため、適応するのが難しかったそうだ。

観客をバーチャルに入れてライブの熱気を作るという方法が、当初はわからなかった。そこでなんどもモックアップを作り、ブラッシュアップをしている。そのときに、どんどん機能も膨れ上がっていき、演出の一部として溶け込ませるためにかなりの機能開発が行われることになった。

こうして様々な課題はあったものの、本番は盛り上がり視聴者22万人以上を記録している。また、副産物で「Avatar配信者の公式番組出演」も可能になったそうだ。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。