2019
06.26

【World MR News】国内外の成功事例を紹介しながらVRの可能性をさぐるイベント「VR スタートアップ・トレンド」が開催

World MR News

ビジネスバンクグループVLEAP.事業部とRouteXによるイベント「VR スタートアップ・トレンド」が、6月20日に南青山のビジネスバンクグループで開催された。こちらは、国内外のVRを活用した成功事例を取り上げながら、これから広がっていく新たなビジネスモデルや最先端テクノロジーの可能性について紹介が行われるといった内容のイベントとなっていた。

始めに登壇したのは、海外のスタートアップに特化したリサーチ会社RouteXを運営する大森貴之氏だ。同氏は、Facebookオフィシャルのエンジニアコミュニティ「Facebook Developer Circle」の日本統括代表も務めている。

大森氏がこうした仕事を始めることになったきっかけは、大学生の頃だったという。その当時スタートアップに興味がありシリコンバレーに行ってみたところ、「今頃来ても遅いから一緒にやりたくない」と言われ、ぞんざいな扱いを受けてしまった。

大森氏は後輩たちにそうした思いをして欲しくないと考え、世界と日本の情報の非対称性を正すことで日本人が次のステップにいけるようにと考え、会社を運営しているそうだ。

▲大森貴之氏。

続いて、ビジネスバンクグループVLEAP.事業部 共同代表/CEOの松広航氏が登壇。同チームの目指しているものについての紹介が行われた。

▲松広航氏。

VLEAP.は、「仮想空間で想像し現実空間を創造する」という理念を掲げている。我々は空間や時間で制限されているが、当たり前ではあるが息苦しさがある。それを、VR技術を使うことで想像力や可能性が最大限になると考えているのだ。

▲VRを活用したアイディア創出システム『VLEAP.』のデモ。

文部科学省が行っている「次世代アントレプレナー育成事業」(EDGE-NEXT)の一環であり、早稲田大学と株式会社ビジネスバンクグループが共同で行っている実践起業インターンREALとよばれる学生が起業家を目指すプロジェクトがあり、その一環としてスタートしているのが理由だ。

▲ビジネスバンクグループVLEAP.事業部 共同代表/CTOの新保正悟氏。今回は入門者向けに、VRやARの概念の説明も同氏から行われていた。

■海外スタートアップのビジネスモデルとイベント

大森氏からは、「海外スタートアップのビジネスモデルとイベントについて」というテーマで紹介が行われた。そもそもスタートアップとは、ビジネスモデルや技術、革新性があり、社会にインパクトのある価値と収益が創造できる企業のことをさしている。また、急成長の実現がスモールビジネスと区別されるところだ。

こうしたスタートアップが成長していくのに必要なのが、エコシステムである。ビジネスの可能性を感じたときに、エコシステムがあるかどうか重要だ。このエコスシテムは、大企業や大学、投資家、アクセラレータ・インキュベータなど、回りでサポートしてくれるものが集まっていることをこう呼んでいる。

今回のイベントでも体験会が行われていたOculusも、元々はスタートアップだ。その後Facebookに買収されている。ちなみに「インスタ映え」でおなじみのSNS『Instagram』もFacebookのサービスで、Facebookという大きな企業に様々なサービスが付随している形だ。

Facebookでは、毎年シリコンバレーで新プロダクトや今後の方向性を発表する「F8」というイベントを開催している。最初に創業者のマーク・ザッカーバーグが登壇し発表されるのだが、このときは5月に発売された『Oculus Quest』が来場者に無料でプレゼントされたため、かなりの盛り上がりだったようだ。

▲会場の反応に驚くマーク。ちなみに昨年は『Oculus Go』がプレゼントされたそうだ。

「F8」のOculusに特化したイベントとも言えるのが、「oculus connect」だ。こちらでは、Oculusに関する新たなツールやサービスなどが、次々発表されるといったものになっている。

続いて海外のVR活用事例の紹介が行われた。まずは「ネクストVR」だ。スポーツ観戦は、できる限り没入感があるなどリアルなほうが楽しい。そこで、実際に特別なカメラを会場に設置し、VRで見られるサービスを提供しているのが、同チームだ。

サービスも充実してきており、例えば一緒に観戦している友人もVRの中で見られるようになっている。リアルに一緒にスポーツを観に行くのが難しい状況でも、これなら気軽に楽しめるというわけだ。

英国ロンドンの「FundamentalVR」では、外科出術をVRで疑似体験できるシミュレーションソフトを開発している。このように、トレーニング向けでもVRが活用される場面が増えてきている。通常のVRコンテンツは専用コントローラーを使って操作することが多いが、こちらは手術用の器具と連動したようなものになっている。 

世界的にも注目を集めている企業が、米国ニューヨークの「IrisVR」だ。家の設計図をVR上で表示して回転したり、様々な角度から確認したりできる。また、共同で編集も行え、同一空間で同じ設計図が見られるようになっている。

■国内の建築/音楽業界でのXRの導入事例とTips

ビジネスバンクグループVLEAP.事業部 VRエンジニアの信濃貴也氏からは、国内のVR活用事例紹介が行われた。

信濃貴也氏。

まず「音楽×VR」として、紹介されたのが360度VRライブストリーミングサービスだ。大手では「360Channel」や「dTV」、「YouTube」などがある。こうしたサービスの価値は、人数に制限がないところである。また、遠隔地にいても熱狂感を味わうことができる。リアルなイベントでは会場の大きさなどもあり人数に制限があるが、VRならばそうした問題は不要だ。たとえば海外アーティストが好きな人もいると思うが、なかなか現地でライブを見るのは難しい。そうした問題もVRならばリアルな臨場感を、自宅に居ながらにして体験することが可能だ。

その中の「360Channel」の例では、360度の動画を無料で配信している。動画を売るサービスのように思われるが、サービス開始から貯めた動画サービスにノウハウを他社に販売するビジネスモデルとなっている。しかし、この3年間はすべて赤字で、累計6億円にもなる。2018年4月より、有料チャンネルの販売も開始しており、次回の決算発表にも注目が集まっている。

ふたつ目の国内事例として紹介されたのが、「バーチャルライブ」だ。先ほど紹介されたサービスが、現実空間でも仮想空間でも関係なかったが、こちらはVTuberなどが行うライブで完全に仮想空間でのみとなっている。ライブの参加者は、アバターになって身振り手振りを加えて観戦することができるのが特徴だ。

その最大手は「Cluster」で、バーチャルイベントプラットフォームを運営している。VTuberとも専属契約を結んでおり、VTuberの輝夜月が2016年7月に初めてのイベントを開催している。その時に、1枚5000円のチケット300枚が、わずか10分で売り切れてしまった。

続いて紹介されたのが、「クロスモーダル」だ。あまり聞きなじみのない言葉かもしれないが、こちらはふたつ以上の五感を掛け合わせることでそこに存在しない物体の刺激を感じさせるというものだ。

VRでは、ヘッドマウントディスプレイに加えてコントローラーがあるため、視覚や聴覚に加えて、触覚でも「クロスモーダル」を体験することができる。「クロスモーダル」の事例では、『BEAT SABER』や『Drumkit VR』などがある。

松広氏からは、「国内の不動産と建築×VR」の事例紹介が行われた。VRはマネタイズが難しく、VR元年といわれた2016年から投資が盛んだったが、赤字が続いているところが多い。そんな中で、不動産や建築は実用化やマネタイズが比較的出来ている業界だ。

「VR内見」というサービスでは、VRで様々な物件を内見することができる。実際に様々な物件を見て回るのは、時間も掛かるし大変だ。同サービスを提供しているNUR*VEは、13億円の資金調達をしており3000店舗に導入実績を持っている。

360度で内見するところを撮るという部分に関しても簡易化しており、業者が顧客に見せるという部分に関してもシンプルになっている。

入居希望者が仲介業者で物件を探しに来る。仲介業者は物件の管理会社と繋がっており、その3者ともにVR内見のメリットがあるのだ。入居希望者は、内見時間を削減することで多くの物件を検討することができる。

仲介業者は、1対1での対応時間の削減やVR内見ができるということで、アクセスが増えるというメリットがある。物件の管理会社では、リーチ数が増えることで空室期間の削減ができるのだ。

▲VR内見により、顧客ひと組あたりの平均対応時間が8時間から2.4時間に、来店条約率も1.5倍に向上しているという。

次に紹介されたのは、「建築予想図VR」だ。こちらは建物を作る側のためのサービスである。「SYMMETRY」では、建築設計や土木設計という分野でVRサービスを提供している。元々建築モデルを3Dモデルで立体的に見えるプラグインと同期し、クラウドでそれを見られるようなサービスを提供していた。

建物の建築を依頼する側のメリットとしては、実寸大スケールの設計が初期段階からできるため、完成イメージが掴みやすいというところだ。また、図面ベースではなく部屋単位で確認して検討できるというのもポイントである。大きな買い物であるため、どういうライフスタイルがあるのかといったコミュニケーションの材料にもなるところもメリットである。

設計者側のメリットとしては、施主の意見が設計の初期段階から具体的となるので、無駄な設計が減り効率的になる。また、展示場やモックアップが無い状態でも、施主の信頼を得ることができる。特に新人の場合はどんどん経験を積んでいく必要があるが、そのサイクルも早くできるのが特徴だ。

導入事例としては、「ユニオン設計」が導入しており、案を出す段階でイメージを伝えるパース作成のレンダリング処理などの膨大な時間を解消することができたそうだ。また、クライアントと設計側のイメージの相違も減らすことができるという。

今回のイベントでは、このほかVR導入のためのデバイスの知識や配信方法、開発などについてもわかりやすく紹介が行われていたほか、後半では実際にOculusが体験できるようになっていた。 

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。