2019
06.25

【World MR News】君は“ミラーワールド”を体感したか? 川田十夢氏×『WIRED』編集長 松島倫明氏によるトークイベントをレポート

World MR News

『WIRED』日本版VOL.33の発売を記念して、AR三兄弟の長男である川田十夢氏と『WIRED』日本版編集長の松島倫明氏によるトークイベント「君は“ミラーワールド”を体感したか?」が、6月18日に代官山 蔦屋書店1号館2階  イベントスペースで開催された。本稿では、その模様をレポートする。

写真左から『WIRED』日本版編集長 松島倫明氏と川田十夢氏。

■「ミラーワールド」は「Hello World!」のようなもの

今回のトークのテーマとなったのは、『WIRED』本誌の中でも特集されていた「ミラーワールド」だ。あまり耳にしたことがないという人も多いだろうが、これはARが創り出す新しい巨大プラットフォームのことをさしている。

「ミラーワールド」という言葉自体は、インターネットが一般家庭にも普及し始めた1990年代から存在している。US版『WIRED』で、創刊当時からエグゼクティブエディターを担当しているケヴィン・ケリー氏が「ミラーワールド」をテーマに記事を書いた。そこからインスピレーションを受けて、総力特集したのが、今回発売された『WIRED』日本版VOL.33だ。

以前は、ミシンの技術者だったという川田十夢氏。「ミラーワールドという言葉は知っていたが、当時と今では使われ方が違う」という。15年程前に、ミシンを上手に縫った人の経験をコピー&ペーストするという概念で特許を開発していた。これは経験のミラーリングだ。ミラーの経験としてミシンを、ミシンに経験を宿して、他の人が最初から上手に縫えるようにしたのである。

そこがスタートだったため、川田氏にとって「ミラーワールド」は定義文で言うと「Hello World!」(プログラムの例文などで最初に出てくることが多いミーム)的なものだという。そして、これは始まりでもある。

川田氏が今回の『WIRED』特集で書いた記事は、「人間以外のものがミラーワールドとして世界を把握した次に何ができるか?」というものだ。ちなみに挿絵のイラストは、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』をオマージュしている。

原作のアリスは、ウサギを追いかけて小さな穴に入り、縮尺も代わり元に済んでいたところとは重力や価値観が異なる世界だ。これを把握するには、当たり前だが現実を把握している必要がある。現実のスケールや重力、高度などを把握した上で、起こりうる不思議な出来事なのだ。そのため、「ミラーワールド」も、まずは現実をしっかりと把握できるものにしなくてはいけないのだ。

ケヴィン・ケリー氏は、「インターネットが生まれたことですべての情報はデジタルになり、シェアが可能になった。次にSNSが生まれたことで、世界中の人間関係がすべてデジタル化された。ミラーワールドは、それ以外のすべてをデジタル化される」と述べている。だからこそ、第3の巨大デジタルプラットフォームとなるのだ。

物理的なものは取り残されたが、スキャンすることでデジタル化される。それを「デジタルツイン」と読んでいる。すべてのものがデジタル情報可されたときに、リアルな世界とまったくウリふたつの世界が、もうひとつあるのが「ミラーワールド」だ。

「ミラーワールド」の中では、すべてがデジタル情報である。そのため、デジタルな操作が可能になり、ARなどの技術で見られるようになるのである。

■「ミラーワールド」は高低差で経済が生まれる

川田氏は「ミラーワールド」は、土地開発に近いと考えているという。何もない土地には何の価値もない。そこでお互い関係がなかった点と点を繋ぎ、高低差が生まれ、価値観の流れが出来てくる。そこで初めて、「ミラーワールド」の中にも経済が生まれるのだ。しかし、現在はまったくフラットな状態である。

松島氏がニューヨークの企業を取材したときに印象的だったのが、「ミラーワールドでは土地がコモデティになる」という言葉だったという。その“土地”は限定的で、今いる場所はそこにしかない。それがコモデティになるということは、誰もが持っていけるものになるということなのだ。

誰もがシェアできるが、シェアできるからこそ価値が上がっていくのである。しかし、このままではその土地の権利を持っている人が、「ミラーワールド」では権利を持っていないということもありうる。

川田氏は、そうした問題を解決するには法整備もそうだが、教育に組み込んだいいという。学校では、課外授業などがあるがスマートフォンなどで街をスケッチしていくことで、地域のものにすることができるのだ。

■50パーセントでは生活スケールがミラーリングされる

川田氏が書いた特集記事では、この「ミラーワールド化」への段階を、4つのスケールで表している。50パーセントのミラーリングでは、生活スケールの「ミラーワールド」が確立する。いきなり100パーセントにするのは難しいため、家の中などの細かなものからミラーリングを行っていく必要がある。

自動運転技術により、立体的なセンサーの価格が安くなってくる。現在の自動掃除機はいろいろと不便な点もあるが、それが快適に動くようにするためにもこうした技術の活用は必要となってくるのだ。

今回の特集は、「モビリティの先を考える」というところからスタートしていると松島氏はいう。自律走行車やスマートシティが出てくる。自律走行車は自動で動くものだが、それはつまり多くのカメラを積んでリアルタイムに街中をセンシングしているということでもある。これは、リアルな社会をデータにミラーリングしている行為とも考えられる。

モビリティ社会は、「人類が全世界をセンシングする行為なのではないか?」というところから、一気に接続して今回の特集が生まれているのだ。

■100パーセントではミラーリングが観光スケールに

ミラーリングが進み100パーセントになると、観光スケールになる。地域ごとにミラーリングしたデータを使い、それぞれが潤う仕組みを作っていくことになる。そこで活用できるのがゲームだ。

それは城を攻め落とすゲームかもしれないし、忍者になって忍び込むゲームかもしれない。アミューズメント施設のように「ミラーワールド」をイキイキさせるには、街の見せ方として重要な要素だ。

ミラーリングが1000パーセントになると、文化スケールになる。2020年には東京オリンピックが開催されるが、2次元の映像だけではなく3Dで取り込みモーションデータを記録しておくことで、未来に残していくことができるものとなる。

ちなみに、大ヒットした市川崑監督のドキュメンタリー映画『オリンピック東京大会 世紀の感動』は、当時の最先端カメラを全国から集めて撮影が行われた。来年のオリンピックでも、同様の試みをする必要があるのだ。

▲イベントでは本誌に沿った内容が語られていたため、記事を見ながら公演を聞いている人も多く見かけることができた。

『WIRED』日本版VOL.33では、川田氏の特集以外にも「ミラーワールド」に関する記事が多数掲載されている。少しでも興味を持ったら、近くの書店等で本誌をチェックしよう。

■『WIRED』日本版VOL.33

MIRROR WORLD

#デジタルツインへようこそ

定価:1200円

https://wired.jp/magazine/vol_33/

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。