2019
06.27

【World MR News】元ゲーム&ロボットアプリ開発者が医療現場でのXR活用事例を紹介! 「Tokyo HoloLens ミートアップ vol.15」レポート

World MR News

6月15日に、MRデバイス『HoloLens』のアプリ開発者がアプリ開発の秘話などを紹介する恒例のイベント「Tokyo HoloLens ミートアップ vol.15」が、東京・品川の日本マイクロソフト セミナールームで開催された。

本稿ではその中から、Holoeyes 代表取締役CEO兼CTOの谷口直嗣氏によるセッション「元ゲーム、ロボットアプリ開発者が医療XRやってまーす」の模様をお届けする。

医療現場でも活用される『HoloLens』

医療現場では『HoloLens』が様々な場面で活用されているが、まず谷口氏から紹介されたのは「骨」に関してだ。

▲谷口直嗣氏。

「腰椎すべり症」という骨がずれた病気では、スクリューをインプラントして治療を行う。通常の手術では骨の位置などは見えないが、それを『HoloLens』ごしに見えるようにして、スクリューの角度なども緑のラインでわかりやすく表示させている。このスクリューの角度はVRで決めていき、それを『HoloLens』に持っていっている。

▲CTスキャンのデータから3Dモデル化し『HoloLens』などで表示させる。

続いては「脳」について事例が紹介された。「脳動脈瘤」ではカテーテル治療という治療方法がある。これは、血管の中にカテーテルと呼ばれる細い管を挿入し、動脈瘤に到達させてコイルを詰めるという治療だ。

この治療をするときに、カテーテルを通すためのガイドワイヤーを先に通しておくのだが、このガイドワイヤーを血管の形に合わせて手で形作っていく。以前は3Dプリンターが使われていたが、『HoloLens』を使うことで目の前に血管の形を表示させて作れるようになった。

カテーテルが使えないところでは、開頭してクリッピングが行われる。その時に脳の血管の位置をX線でリアルタイムに確認するのだが、元は平面な画像となっている。それでは前後などの関係がわかりにくいため『HoloLens』などで3次元の映像を見られるようにしている。

「トラクトグラフィー」と呼ばれる、脳の神経を3次元で描画するMRIの手法がある。こちらは、拡散テンソル画像法(diffusion tensor imaging)で投影されたMRIデータの中から神経繊維を画像化するという手法だ。これにより、病変で偏位した神経繊維の走行を把握するために使われる。こちらも、どうせなら3次元で見たいということで、『HoloLens』で見られるようにしている。

次は「肝臓」の話だ。見た目は茶色だが、中には血管が沢山走っており、その血管の走り具合で8つの領域に分類される。肝臓の中には胆管が通っており、術中にCTスキャンで取り込んだ画像からSTL出力をして『HoloLens』でその形を共有できるようにしている。

続いては「腎臓」の話だ。腎臓は血液をろ過して尿を作っている。そこに結石が溜まることがある。これが大きくなったときに、腎臓に管を通して超音波などで砕くのだが、VRでアクセスを検討している。 

腎臓の機能がダメになると尿が作れなくなる。そのときに、外部で血液をろ過する必要がある。そのときに、腕の血管の動脈と静脈を繋ぐ。そこから針を刺しダイアライザーと呼ばれるフィルターで透析を行う。血管も3次元構造になっており見づらい。そこで、3D見られるようにしている。

続いて紹介されたのが、「Mixed Reality Baby」だ。一体何のことかわからないが、こちらは、妊婦のお腹にいる赤ちゃんをMRIで撮影し可視化するというものだ。生まれてきた子供に対して可愛いと思えない愛着障害の人に対して、テクノロジーを使って子供がたしかに自分のお腹の中にいたことを実感させるというプロジェクトを、順天堂大学と共同で行っている。

「歯科」の例では、埋伏過剰歯の手術例が紹介された。この埋伏過剰歯のとは、通常の歯とは別に余分な歯が生えている状態のことをさしている。それを抜くときに、過剰歯の部分を緑色でわかりやすく表示して、臨在歯との位置関係を把握しながら手術を行えるようにしている。

健康診断などでも行われる「超音波エコー」だが、実際の解剖がわかった上で見ると把握できるのだが、初めて見る学生ではざらざらな絵になっているためわかりにくい。そこで、研修用にお腹の上に『HoloLens』で血管や内臓を表示するようにした。視覚的に臓器の位置などもわかるため、学習効果が上がることも期待できる。

国立看護大学校では『Mirage Solo』を活用した授業が行われている。解剖図は2次元ではわかりにくいところがあるが、このようなVRを使うことで立体的に把握することができるのである。ちなみに、女子は男子学生に比べてあらゆる角度からぐいぐい見る傾向があるそうだ。

VRでは、リアルタイムで動きを記録することができる。こうして記録したデータをスマートフォンに持っていき、3次元のデータとして誰でも見ることができる。谷口氏は、「外科手術の体験をデジタル化する」というのをコンセプトにしているという。

こうしてプランニングと記録という前後をデジタル化していくことで、トレーニングの効率が上がったり、外科医の数が減少しているという問題を救うソリューションになったりするのではないかと考えているそうだ。

続いて紹介されたのが遠隔カンファレンスのシステムだ。VR空間で遠隔にいる医師が、同じ映像を見ながら手術の検討を行うことができる。こうしたものを活用することで、移動時間や旅費なども節約することが可能となる。

谷口氏は、『Oculus Go』にはジャギーがひどかったりポジトラがなかったりと、いろいろがっかりだったそうが、最近発売されたばかりの『Oculus Quest』は、低価格でそれなりの体験ができるためいい感じだと述べている。『Oculus Quest』を使って、肺がん開胸肺部分切除での実践導入も行われている。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。