2019
04.30

黒川文雄のEyes Wide Open VOL.36「春は展示会の季節 コンテンツ東京2019」

EyesWideOpen

未来はいつも美しく、すぐそこにあるものだ

今を生きるクリエーターやプランナーが未来を描いて創造ものは美しく先鋭的で、それらを具現化してくれる好例は小説や映画です。

ウィリアム;・ギブゾンが小説のなかで描いた脳内メモリや体内チップはすでに空想上のものではなく、「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」でマイケル・Jフォックス扮するマーティが履いていた履いた瞬間に自動でシューレースが締まるナイキスニーカー「Nike Mag」も「ハイパーアダプト1.0」という商品名で販売に至っています。

また、モーターショーなどの自動車のコンセプトモデルも同じでしょう。

実際の量産車になったとたんにダサいデザインに成り下がることもありますが、大抵の場合はコンセプトモデルから大きく逸脱することはありません。

それらはある意味で未来を提示してくれます。そんな最先端のプロダクツやコンセプトを見せてくれるのが展示会です。

コンテンツ東京2019とは

例年、春先には「発信元 リード・エグジビション・ジャパン」からのメールが皆さんのところにも多く着信していませんでしょうか。

リード・エグジビション・ジャパンは、例年、■□展という展示会を企画運営する会社で、コンテンツ開発やクリエイティブを生業にしている方はご存じの法人です。

このリード社が手掛ける展示会は多くあり、流行りのテーマにはすぐに反応し、すぐに展示会に仕立てあげることで有名です。アクションが早いのはいいことですね。(嫌味ではありません)

バーチャルリアリティ(以下:VR)がトレンドになれば、VR展示会、人工知能(以下:AI)も言わずもがな…です。そして恐るべき営業力で個人から大企業までも巻き込んで大きな展示会を仕立てます。その成功手法のひとつは無料で配布される「招待券」にあると思います。

この招待券は無料で手に入れることができるのですが、入場時にアンケート回答や氏名、所属、メアドなどが必須で求められるのです。そして、このアンケートに回答するとメールで展示会への出展要請や見学募集がひっきりなしに送られてきます。そのアグレッシブさは社会人としても見習わなければいけないところがあるのかもしれません。

前置きが長くなりましたが、そのリード社による「コンテンツ東京2019」が去る4月3日から5日まで東京ビッグサイトで開催されました。

VRはどこに行った…

拡現人でも、すでにニュースとして記事がアップされていますので、当コラムでは私自身が気になった展示物、そして全体的な所感について御案内します。

個人的に注目していたのはVRの未来です。

3月末日で惜しまれながら幕を閉じたバンダイナムコアミューズメントの施設、VR ZONE SHINJUKUの閉館以降、日本でのVRはどのように変わってゆくのかという点に注目しました。

会場内でVRテーマのブースを探しましたが、残念ながら、期待していたほどの目新しい展示には巡り会えませんでした。もちろん、そう簡単に、今までの概念を覆すようなものがあったら誰も苦労しませんし、そう簡単に開発できるものはありません。

VR展示で多かったものは、VRを使った;アスレチック要素のもの、純粋に省スペースで体験できるVRアトラクション系、そして、野球、サッカーなどの中継にVR的な臨場感と選手データ、ボールの軌跡などのリアルなデータをその場で反映するものなどがありました。

それらはいわば、洋画の副音声のオーディオ・コメンタリーをVRにリプレイスしたようなものでした。これらの機能は一般的なテレビやビデオオンデマンドに実装されてしまうのは時間の問題でしょうし、実装されれば、それらはあって当たり前の機能になるからです。VRはすでにもの珍しいコンテンツやテクニックではなくなっています。さらなる普及に必要なものは、ヘッドマウントディスプレイなどのデバイスがどれだけ進化するのかという点とのトレードオフに近いと思います。

それ以外で、注目したものはVTuberを簡単に創る、動かす、運営するというものでした。

しかし、このジャンルもすでに寡占化が始まっていると思われます。おそらく残るのはすでに今の時点である程度のファンを獲得しているキャラクターではないでしょうか。2019年内にはそれらの優劣がきっちりと着いてしまうことでしょうし、人気のない、キャラクターが飽きられるのも早いと思います。それは応援してくれる支持層を常に煽り続けることが宿命となっています。トップユーチューバーの憂鬱な日々と同じく、更新を止めない、日々の影響力を絶やさないようにすることが課題でしょう。

会場の展示ではデバイスを使用しない立体視に関してはかなり高度なものが再現できるレベルになっています。

そのようなものを見たあとで、海外の大手飲料メーカーが人工衛星を使用して空中に広告を出すという発表がありましたが、もはや現実的なレベルにまで落とし込まれていることを見ると宇宙さえも、どこでだれが使用するかという時代になりました。

MRは「もはや、リアル」

VRとは変わって会場で目立ったのはむしろMRでした。「もはやリアル」=“MR”な感じです。

このMR技術自体は以前にこのコラムで紹介した戦闘機の操縦やそのヘルメット内部で認識システムを高度化したような軍事技術からのスピンオフと思われますが、自分の視線や視界を大きく動かすことなく、その範囲のなかで直接スクリーンを通して様々な対象をコントロールすることができることが大きなメリットです。

リアルな環境でどれだけ使う立場にとって役にたつツールかという点では、MRはすでに未来の技術だと言えるでしょう。

こちらもVRと同様にデバイスをどれだけ簡素化、簡易化するかという課題はあれども、解決にさほど時間は掛からないと思います。それよりもむしろコストの軽減が急がれる課題でしょう。

筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)

1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。