2019
04.01

【World MR News】VRは医学分野でどのように応用していくのか? 「第1回医用VRセミナー」が開催

World MR News

3月23日に東京大学医学部2号館で、「第1回医用VRセミナー」が開催された。現在様々な分野に広がってきたVRが、医学の分野においてどのように応用すればよいのかというところで、本セミナーが開催された。本稿では、その中から一部を抜粋してご紹介していく。

VR/AR市場は、2018年には約2兆円、2021年には約18兆円規模になるといわれている。そのうち医療は5610億円と、現在の医療画像・医療機器の輸出額とほぼ同じである。医療機器は輸入超過であるため、医療画像だけ輸出されている。そのため、この分野を医療に取り入れるのは、大きなタスクであると東京大学大学院医学系研究科の小山博史教授はいう。

東京大学大学院医学系研究科 小山博史教授。

この医用VRセミナーの位置づけは、医学のすべてを網羅しているわけではない。タイトルに「Just VR Technology for Medicine and Healthcare」と名付けられていたが、「臨床現場ニーズ」と「VR・AR技術適用領域の分析」について取り扱っている。第1回目となる今回は、そこから「教育・訓練」「手術支援」「人体への影響」の三部構成でセミナーが行われた。

■VRやAR技術が最も有効な医学・看護教育の領域とは

セミナー出席者の意見や要望を聞いた後、企業の事例を紹介。その後質疑応答という、ユニークな流れで進められていった今回のセミナー。まずは「VRやAR技術が最も有効な医学・看護教育の領域とは」をテーマに、出席者の意見が紹介された。

がんセンターでは手術が多いが、「手術前に3Dデータなどを作ってシミュレーションをするのはどうですか?」と先生に聞くと、「手術をすれば結果も見えるし、そんなものは必要ない」という意見が出た。これは手術の達人が多いがんセンターならではかもしれないが、それをいわれてしまうと身もふたもなくなってしまう。

ある意味ガラパゴス化してしまい、最新技術の恩恵が受けにくいという。教育には役に立つが無いと困るというわけではない。そのため、血管など見えないところにうまく活用できると嬉しいと外科医の先生から意見が出た。

また、泌尿器科の先生からは、教育分野であると役に立つのはトラブルシューティングだという意見が出た。基本的な術式を覚えるのは、キレイに作られているビデオを見るだけでも十分である。その一方で、出血がすごい例では実際の患者で練習するわけにはいかない。

人間だけでは到達できない手術の安全性やクォリティが高められたり、人間の目では見えない部分をサポートすることで達人がさらに上の領域に行けたりするなど、そうしたものがあれば役に立つという。

■手術シミュレータの事例紹介(三菱プレシジョン)

三菱プレシジョン 営業本部シミュレーションシステム事業部長の練尾正美氏からは、同社の「患者固有型腹腔鏡下手術シミュレータ Lap-PASS」の開発事例が紹介された。

三菱プレシジョン 営業本部シミュレーションシステム事業部長の練尾正美氏。

腹腔鏡下手術には、術前の計画や術中手技などいろいろ難しいところがある。これらのトレーニングには、解剖・手術ビデオを使ったものや動物・献体を使ったもの、手術見学やOJTなどがある。こうしたものには、実践に近い訓練ができるというメリットがあるものの、訓練機会が少なかったり高額な費用が掛かってしまったりといったデメリットもある。そこで、シミュレータをしようしたトレーニングの重要性が増加してきた。

柔軟な難易度のチーム訓練を高頻度・低コストで実現するために、腹腔鏡下手術シミュレータに求められているものは、機能面では多様な診療科への対応や、基礎から応用までの訓練の対応、緊急対応などがある。

性能面では、ビジュアルや触覚などの高い現実感と操作感。サービス面では、安心して使えるようにここの医療機関への柔軟な対応が要求される。こうした要望に応えるために開発されたのが、「患者固有型手術シミュレータ Lap-PASS」である。

システム構成は、本体と生体モデルデータ生成システム『PASS-GEN』があり、単体のワークステーションで生体モデルを作成し、ネットワーク経由で転送を行う。通常のVRでは映像のみの場合が多いが、こちらは手術の触覚を再現するためにモータエンコーダーを搭載したパラレルリンク機構が採用されている。

いくつか穴が開いているが、症例に合わせてトロッカポートの位置が検討できるようになっている。また、日本で開発されているため、国内の病院で使用されている術具を模擬している。

トロッカシミュレーションは、CTデータから生体モデルを作ることができる。シミュレーション訓練に先駆けて、トロッカーの位置も調整することも可能だ。訓練装置であるため、使い勝手を良くするために開始時の位置調整も自動で行ってくれる。

また、長期の使用に耐える構造になっているため、メンテナンスフリーで継続使用することができるのも特徴である。訓練後の採点や評価機能、振り替え機能も搭載されているため、訓練結果の定量的な評価と改善にも役立たせることができる。

現在提供されている手術訓練シナリオは、「泌尿器科」「消化器外科」「婦人科」だ。また、術野の展開として、膜剥離操作にも対応するために、現在開発が行われている。

将来に向けた構想としては、少しでも教育訓練に役立てていこうと考えており、初心者と熟練者間のスキルの違いを明確化できるような評価技術を開発中である。応用面としては、遠隔教育訓練システムや手術ナビゲーションに発展させることも検討している。

■VRやAR技術の人体への影響

VRを使う上で、問題となってくるのが人体への影響である。その中のひとつが、「VR酔い」だ。人間は70~80パーセントぐらい現実空間の認知し、10~20パーセントほどを聴覚で認知する。それが体の動きと合わないときに「VR酔い」が起こると言われている。これにより、めまいや嘔気嘔吐が発生してしまうのだ。

しかし、「VR酔い」の原因には、眼球運動障害や生理学的機能不全、精神機能障害など、様々な説がある。また、引きこもりやバーチャルとリアルの境界が曖昧になるなど、依存症の問題もある。米国で行われた実験では、48時間VR空間にいると現実に戻ることができない人もいたという。そのため、ある程度のエビデンスを医学的にも出したほうがいいという。

会場に訪れていた参加者は、実際にVR酔いを体験した人も多かったようだが、中には、「患者が体験している感じ方を体験出来て良かった」という、いかにも医師らしい視点からみたユニークな意見も出ていた。

■第2回医用VRセミナーは5月18日に開催

今年で19回目となる「日本VR医学界学術大会」が、8月31日に千葉大学 工学部総合研究棟2 2階カンファレンスルームで開催される。こちらでは、医療とVRに関する話題を幅広く取り扱い議論が行われる予定だ。

また、第2回医用VRセミナーの開催も決定。こちらは、5月18日に横浜メディア・ビジネスセンタービル8Fで開催される。テーマは、「医学及び看護教育へのVR技術応用」で、千葉大学フロンティア医工学センター教授の中口俊哉氏などが講演する予定となっている。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。