03.22
【World MR News】フェイスブックが新型VRヘッドセット「Oculus Rift S」を発表
■「Quest」と「Rift S」の二台体制で市場を拡大
フェイスブックはゲーム開発者会議GDC2019にあわせて2019年3月18日、米サンフランシスコで記者向け発表会を開催し、発売中のVRヘッドセット「Oculus Rift」の上位機種「Oculus Rift S」を発表した。価格は399ドル/49,800円で、2019年春に発売される予定だ(税込か税別かは未定)
会場では2018年9月に発表された新型の一体型VRヘッドセット「Oculus Quest」と共に、対応ゲーム8本による試遊会も開かれた。ちなみに「Quest」も2019年春に399ドル(日本での価格は未定)で発売が予定されている。これによりラインアップはPCを母艦とする「Rift S」と一体型の「Quest」の二台体制になる。
今回発表された「Rift S」のスペックは下記のとおり。
- 価格:399ドル(49,800円)
- 発売日:2019年春
- 重量:Riftより少し重たい程度
- 推奨環境:室内でのプレイを推奨
- 推奨される広さ:立って、または座ってのプレイが可能で、それに必要な程度の広さ
- トラッキング:インサイドアウト方式、6DoF
- 液晶:IPD(瞳孔間距離)調整装置付きLCD液晶パネル
- 解像度:片眼1280×1440 (両眼2560×1440)
- リフレッシュレート:80Hz
- ケーブルの長さ:5m
- PCの推奨スペック
- OS:Windows10以上+インターネット接続環境
- 推奨GPU: NVIDIA GTX 1060 / AMD Radeon RX 480以上
- 最小GPU: NVIDIA GTX 970 / AMD Radeon R9 290以上
- CPU: Intel i5-4590 / AMD Ryzen 5 1500X以上
- メモリ: 8GB以上
- ビデオ出力:DisplayPort 1.2 source, Mini DisplayPort to DisplayPort Adapter (mini Display Port → Display Port 変換アダプタ附属)
- USBポート:USB 3.0端子が1個必要
■総合的なVR体験が向上
使用感だが、「Rift S」では液晶ディスプレイ部分の位置が前後に調整できるようになり、眼鏡を装着していても快適に体験できた。「Rift」では装着すると眼鏡が圧迫され、少々不快な感覚も受けたが、これがなくなった点は大きなポイントだ。重量感も「Rift」に比べて格段重いという印象は受けなかった。PCとの接続ケーブルも1本になり、より取り回しやすくなった。
また、「Rift S」では新たに「パススループラス(=MRモード)」が搭載された。ヘッドセットを装着したまま外界の様子が確認できる機能で、「Quest」に搭載される「パススルー」機能をベースとしたものだ。本体内蔵の深度センサーを活用するもので、ビデオシースルー型のAR(拡張現実)とは異なり、外界の様子が真っ白い世界と黒い輪郭で捉えられるだけだが、現実の物体の形状認識などができており、今後の可能性が感じられた。
一方で解像度には「Rift」の両眼2160×1200ピクセルに比べて、「Rift S」では2560×1440と微増に留まっているためか、そこまで大きな変化は感じられなかった。同社ではレンズ部の向上をはじめ、全体的な映像クオリティを向上させたというが、そこまでの変化は体感できなかった、というのが正直なところだ。一方でリフレッシュレートは90Hzから80Hzと低下しているが、こちらも特段、遊びにくさは感じられなかった
他に「Rift」ではトラッキングに外部の赤外線センサーを使用し、ヘッドセットの位置を読み取るアウトサイドイン方式を採用していたのに対して、「Rift S」ではインサイドアウト方式となり、外部センサーが不要になった。液晶部分に5機のカメラが内蔵され、これを用いてヘッドセットのトラッキングを行う仕組みだ。これによる体験の変化も特に感じられなかった。
■ストレスフリーな「Quest」のゲーム体験
会場では発表済みの「Quest」も体験できた。CPUにクアルコム社製のSnapdragon 835を使用し(本製品はSamsung Galaxy S8など2917年夏~2018年発売のハイエンドスマートフォンで良く採用された)、有機EL(OLED)で片眼1600×1440のディスプレイを搭載するなど、スペック面では「Rift S」を一部凌駕するところもある。トラッキングが6軸となり、「Rift S」と同じく2基の専用コントローラーを使える点もポイントだ。
装着感では頭部への固定もゴムバンドを使用するもので、「Rift S」よりも安定感があり、多少の動きでは外れることはなかった。四方八方から敵が襲ってくるようなシチュエーションでは、ケーブルを気にせずに遊べるため、より適していると言えそうだ。MRモードの「パススルー」機能を用いて、装着したまま外界を確認することもできる。一方でグラフィックスの解像度的には、「Rift S」と比べて大きな変化は感じられなかった。また、バッテリーの持ち時間はあかされなかった。
■大作ゲームからカジュアルゲームまで8作を展示
試遊できたゲーム8タイトルのうち、「Asgard’s Wrath」「Dead and Buried 2」「Shadow Point」「Journey of the Gods」は初プレイアブル。「Shadow Point」「Journey of the Gods」「Beat Saver」「Dead and Buried 2」はローンチタイトルとなる。なお、会見では「Quest」用に50本のローンチタイトルが用意されることと、「Rift S」は「Rift」とソフトの下位互換性を保つことも明らかにされた。
Asgard’s Wrath(Oculus Rift専用)
Beat Saver(Oculus Quest & Oculus Rift)
Dead and Buried 2(Oculus Quest & Oculus Rift)
Journey of the Gods(Oculus Quest & Oculus Rift)
Shadow Point(Oculus Quest & Oculus Rift)
Sports Scramble(Oculus Quest専用)
Stormland(Oculus Rift専用)
Vacation Simulator (Oculus Rift専用)
試遊会ではRift Sで「Stormland」、Questで「Dead and Buried 2」をプレイしてみた。「Stormland」では左右の腕を取りかえられるロボットに扮して、広大なゲーム世界を探索できた。ガンタイプのアームを装着して周囲を攻撃したり、左腕に特別なプログラムをインストールして、水上を高速で移動したりと、SFとファンタジーが混在したかのような世界観やゲーム体験が印象的。左腕にホログラム風のGPUユニットが装着されるなど、VR世界のビリーバビリティを損なわないようなUIも興味深いものだった。
ちなみに「Stormland」の開発はPS4ゲーム「Marvel’s SPIDER-MAN」をはじめ、数々の大作ゲームを手がけてきたインソムニアックゲームズが担当する。シングルプレイとマルチプレイの概念がなく、いつでも自由に友人を招待して、同じ世界でCO-OPプレイが楽しめるようになるとの説明も受けた。これまでのVRゲームの常識を凌駕する大作ゲームになりそうな印象だ。
一方、「Dead and Buried 2」は細かいことを考えずに、頭をからっぽにして撃ち合いを楽しめるシューティングゲームだった。西部劇風の世界観で3対3の対戦が楽しめ、四方八方から敵に襲われる可能性があるというシチュエーションが、「Quest」の一体型VRヘッドセットという特性と良くマッチしていた。従来のVRゲームでは、家庭用ゲームやPCゲームにはない「首を回す」というアクションが可能だったが、本作ではケーブルレスで楽しめるため、「体を動かす」ことも可能になった。
これまで本作のようなゲームはロケーションベースのVRアトラクションでしか体験できず、PC内蔵型のバックパックを背負うなどの必要があった(3軸の「Go」では体験に限界があった)。これが「Quest」で6軸になったことで、VRアトラクションと遜色がないゲーム体験が家庭で可能になりそうだ。逆にVRアトラクションのデバイスが一気に「Quest」の置き換わり、より快適に遊べるようになるという予感も感じさせた。
■マルチプレイやクロスバイにも対応
記者向け発表会でVRプロダクト部門を率いるネイト・ミッチェル氏は、「『Quest」は『Rift S』『Rift』対応ゲームとのクロスプレイ(複数プラットフォーム間でのマルチプレイ)や、クロスバイ(1つのプラットフォームでゲームを購入すれば、他のプラットフォームでもゲームを買い直さずに、同じゲームを遊べる方式)に対応する」と述べた。プラットフォーム全体でユーザーの利便性を高めていく戦略だ。人気ゲームの「Rift」から「Quest」むけの移植も順次、進められていくという。
個人的には「Rift S」のスペックが「Rift」と比べて大きく飛躍せず、装着感などをはじめとした、全体的な体験の向上をめざした点が印象的だった。「NVIDIA GTX 1060」を推奨GPUとした点は好例で、今ならゲーミングノートでも対応可能だ(しかもケーブルが1本で接続できる)。いたずらに最先端をめざすのではなく、より幅広いユーザーに向けて、VRゲームを定着させたいという狙いだろう。国内ではいささか落ち着いた感もあるVRゲーム市場だが、「Rift S」と「Quest」の発売で、再活性化が期待できそうだ。
Photo&Words 小野憲史
「ゲーム批評」編集長などを経て2000年よりフリーランス。
ゲームジャーナリストとして国内外のイベント取材・ゲームレビュー・講演などを手がける。他にNPO法人IGDA日本事務局長、ゲームライターコミュニティ代表、東京ネットウエイブ非常勤講師。