2019
03.25

【World MR News】XRに関するライトニングトークイベント「AR・VR・MR開発、Visionを語るLT会」をレポート

World MR News

未来技術推進協会は、3月13日にワンダープラネット 渋谷オフィスでAR、VR、MR技術のLT会「AR・VR・MR開発、Visionを語るLT会」を開催した。こちらでは、その模様を抜粋してお届けする。

■ARで加速する、現実と二次元の過渡期

トップバッターとして登壇したのは、金春根氏だ。同氏が今回のテーマとして選んだのは「ARで加速する、現実と二次元の過渡期」だ。その理由は、2019年からARグラスやスマートグラスが多数リリースされるからである。

VR IMAGINATORS 代表の金春根氏。

ちなみに「ARグラス」とは、現実世界の空間を認識してその上にグラフィックを重ねて表示させることができるデバイスのことを指している。「スマートグラス」のほうは、空間の認識はせず目の前にディスプレイのようなものを表示するタイプのデバイスだ。

中でも注目なのが、マイクロソフトが先日発表した『HoloLens 2』である。価格は3500ドルからと高めだが、空間をすべてメッシュで認識できるほか、新たにバンドトラッキングが10本の指の動きを認識できるようになった。これにより、手の操作で何かしらのインタラクションができるようになっている。

また、どこを見ているかわかる視線追跡や虹彩認証に対応しているほか、クラウドサービスのAzureとも連携することができる。Azure連携により、ネットワーク経由で同じオブジェクトを見たり触ったりもできるようになった。

これまでの『HoloLens』は、ハード単体で処理していたいが、サーバ側で1億ポリゴンの処理を行い描画することが可能だ。

こうしたARデバイスで何が出来るのだろうか? これは、ひと言でいうならば「見えないものが見えるようになる世界」だと金氏はいう。この「見えないもの」には、物理的に遮蔽された先のものやオブジェクトの内部構造、距離が遠いなど目の前に存在しないもの、または、2次元や3次元などそもそも存在しないものなどが上げられる。

VRやARなどXR系の仕事は、儲かるのか気になる人もいるかもしれない。金氏によると、B2B向けでは一番金額感が高いのは「事故再現・安全」向けであるという。「新人研修教育」は100万円~500万円、「遠隔作業・支援」は100万円~300万円、「家具設置・購入」は300万円~500万円、「エンタメ・娯楽」は500万円~1000万円となっているとのこと。

以前は、こうした依頼が来たときはVRやARで何ができるかわかってない顧客が多かったそうだが、今は何が出来るかは把握していて、その上で具体的な相談がくるそうだ。

■HololensとSegwayDriftで見る未来のお散歩

続いて、GONBEEE-project 代表 ごんびぃー氏によるライトニングトークが行われた。本職は大学生で、現在は休学してテレビ局のVRチームとして働いている。

今回のテーマは「HololensとSegwayDriftで見る未来のお散歩?」となっており、主に先日発売されたばかりの電動アシストスケート『SegwayDrift』をフィーチャーし、その紹介が行われた。

GONBEEE-project 代表 ごんびぃー氏。

ここ1~2ヵ月ほどから一般にも出回るようになってきた、この『SegwayDrift』。XR系の業界とも相性がいいのか、いくつかのイベントでも見かける機会が多くなってきている。

これは、左右独立したパーソナルモビリティで最高時速は約12km/hほど出すことができる。両方合わせて7キログラムほどの重さがあり、100キログラムまでの体重に耐えることができるというスペックだ。

こちらが『SegwayDrift』。楽天では4万円ほどで購入できる。

ごんびぃー氏は、この『SegwayDrift』と、現実世界に様々な物を配置することができる『HoloLens』を被ると、楽しくなるのではないかと考えたという。そこで作ったのが、現実世界にフラグを立てて、『SegwayDrift』でタイムアタックができるアプリだ。

『HoloLens』でスタートフラグを立てて、間に経由するフラグを設置し、ふたたびスタート地点に戻った時点でそのスピードがわかるようになっている。移動系を強化する『SegwayDrift』と現実の情報を強化する『HoloLens』を融合させるのは楽しいとごんびぃー氏はいう。

このようにアイデア次第で様々な利用用途が考えられる『SegwayDrift』ではあるが、いいことばかりではない。そのひとつ目の問題が「道路交通法」だ。『SegwayDrift』は、車両としては原付と同じ扱いになる。そのため、当然のことながら公道(歩道も含む)の走行は禁止されている。つまり、『SegwayDrift』が普及して、一般の人が歩道や車道で乗るには道交法を突破する必要があるのだ。

いくつかの案を考えた中で、「身体障害者用の車いす及び歩行補助車等」は、特例として走行が認められていることがわかった。すでに宮島工業高校が、車いすの補助として直列型モビリティを投入していた。しかし、これにも問題があり、法律の改正が必要だという。

最終的には、『SegwayDrift』は日本にとっては早すぎたが間違いなく面白いデバイスだという結論に至ったという。私有地は道交法の適用範囲外なので、問題なく利用することができる。オフィス内や展示会内の移動には、十分に活用することができるのだ。

『SegwayDrift』は、法律上の問題もあるが、そもそもの性能にもまだまだ課題がある。その中のひとつが、悪路走破性の悪さだ。また、防水性や防塵性もないため、いずれにせよ公道で走るのは難しいのである。また、両方で約7キログラムもあるため、持ち歩くのもかなり大変だ。

悪路走破性を強化すると、ごつくなって室内では乗りにくくなってしまう。逆に軽量化して室内に特化すると、運用が楽になっていく。重量の8割ほどはバッテリーが占めているが、それが軽くなることでイベントや室内移動に特化した物として活用できそうだ。

ごんびぃー氏は最後に「どちらにせよ未来を感じたら、乗る場所を考えずにポチろう」と語り、トークを締めくくった。 

■SGDsや社会課題にXRはどう活かせるか

最後に登壇したのは、TIS 森真吾氏だ。今回は「SGDsや社会課題にXRはどう活かせるか」をテーマに、同社が考えるXRで実現する未来についてのトークが行われた。

TIS 森真吾氏。

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)とは、国連サミットで採択された、2030年までに解決していく目標のことを指している。ここでは、17の目標と169のターゲットがあり、その中でもXRが活かせそうな項目が「生産的な雇用およびディーセント・ワーク」「交通の安全性改善」「持続可能な都市化」「持続可能な人間居住計画」「都市部、都市周辺部及び農村部間の良好なつながり」であると森氏はいう。

一方、日本が抱える課題としては、2030年時点での労働人口不足数は644万人と言われている。そのうち、女性やシニア、外国人が働いたとしても、最終的に298万人の労働力が不足する。その足りない分に関しては、生産性向上をするしかないと言われている。

労働力も、2050年まで生産年齢が下がり高齢化率も上がっていく。つまり、人口が減るだけではなく働ける人間も減っていくのである。これは確定した未来で、前提として考えていく必要があるのだ。

こうした課題を解決するために、XRで解決できそうなところがシニアなど今働いていない人に働いてもらったり、能力を拡張したりといったところだ。すでに働いている人が、テレワークで仕事をしても総労働力は変わらない。そこで、ただのテレワークではなく労働力を底上げするような、能力を拡張するプラットフォームが必要であると森氏は語る。

2009年に東大の檜山敦氏の研究で、博物館の案内を半自動化のロボットで行う遠隔ギャラリートークシステムが発表された。これは学芸員が遠隔地からロボットを操作し、インタラクションしながら説明するというものだ。固定の説明や移動は、ある程度自動で行うようになっている。こうしたことで、作業負荷を下げる研究が行われていた。

檜山氏は、「モザイク型就労」の提唱者でもある。これは、複数の人材が合わさりひとりのバーチャル人材として活動するというものだ。モザイクには、「時間モザイク」「空間モザイク」「スキルモザイク」の3種類がある。

「時間モザイク」はパートタイムで、ひとり2時間ずつでも、4人集まれば1日分の仕事を生み出すことができる。「空間モザイク」は、場所を問わず様々なところから働くことができる。なかでもユニークなのが「スキルモザイク」だ。ひとりの人間が10ヵ国後を話すのは難しいが、アバターはひとりでも中の人が10人というのは可能である。TISでは、この「モザイク型就労」をXRで実現して価値が残せると考えるという。

2018年11月から12月にかけて、オリィ研究所が遠隔操作ロボットを利用したカフェをオープンしていた。こちらでは、様々な理由で外に出られない人が遠隔操作で接客するという試みが行われていた。2020年には、常設店舗のオープンも検討中である。

仮説として、物理的な操作が必要なものはロボットのような存在が必要である。しかし、物理的作用が不要な仕事については、XRのような存在感でも代替できるのではないかと森氏はいう。

そこで、TISが作ったのが『TeleAttend(テレアテンド)』というサービスだ。VR側の人が先ほどのロボットの案内を行い、ARデバイスを持っている人がアバターとやりとりができるという仕組みである。

メリットとしては、中の人がどこにいても対応でき、多言語対応も入れ替えることができる。こちらの詳細については、今後続報が発表される予定だ。

実現したい未来は、「XR技術を活かしてあらゆるディーセント・ワークを実現したい」ということだと森氏は語る。能力をどのように拡張していくかというところに一番注目しており、これらを拡張することで将来的に全員が楽しく働き生産性も上がる社会が目指せると考えている。

XRは、移動を不要にするコミュニケーションの革命でもある。可視化なども重要だが、移動はわかりやすく削減出来る部分でもあるからだ。これは、労働力不足に対して、XRが提供できるソリューションである。

モザイク型就労で、距離や時間を超え、他者のスキルで能力を拡張することができる。また、移動が不要になることで、新たな就労企画も創出することができる。XRは将来都市のインフラの一部になるのだ

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。