2019
02.28

黒川文雄のEyes Wide Open VOL.32「黒川塾66「バーチャルリアリティの展望 2018年-2019年」開催レポート」

EyesWideOpen

去る、1月31日、港区麻布台にある株式会社SHIFTにて黒川塾66を開催しました。今回のテーマは過去に5回取り上げたバーチャルリアリティ(以下:VR)でした。

今回の開催に至っては、当初、家庭用のVRコンテンツやデバイスもテーマのなかに取り入れる予定でしたが、読者の皆様も御存じのように、このところ家庭用としてのVRに関しては大きなトピックを見つけることができませんでした。おそらく、春から夏にかけては新しい動きもあると思いますが、黒川塾66においてはアーケードVRにフォーカスして「バーチャルリアリティの展望 2018年-2019年」(バーチャルリアリティの未来へシリーズは6回目)を行いました。

ゲストはエクシヴィのGOROmanとして良く知られる近藤義仁氏、CAセガジョイポリスの小川明俊氏、バンダイナムコアミューズメントのコヤ所長こと小山順一朗氏と、タミヤ副所長として知られる田宮幸春氏に登壇をいただけました。

今回のEyes Wide Openコラムでは、そこで語られたそれぞれのスタンスと在るべき未来のVRエンタテインメントについて御案内します。

「JOYPOLIS VR SHIBUYA」は好調なのか?!

「JOYPOLIS VR SHIBUYA」は、2018年10月に渋谷のスクランブル交差点前にあるファッションビル「MAGNET by SHIBUYA109」にオープンしたもので、主には観光客(インバウンド)需要やVRとはちょっとターゲットの異なるカップルなどへのデートスポットとしてのアピールを狙ったものです。

コンテンツそれぞれに関しては小川氏が直接コンテンツ開発元に出向き導入の交渉をおこなったものばかりで、中でも映画「ターミネーター」をテーマに開発された「TERMINATOR SALVATION VR」が今一番のウリのコンテンツとなっています。

 ただし、実稼働に関してはビルとVRルーム自体のネットワーク環境の設定に苦労しているとのことで、この部分のナレッジとその活用が今後の発展のポイントになると思われます。そして、これらの問題がクリアになればCAセガジョイポリス株式会社にとっては大きなアドバンテージになると思います。

また、今後のコンテンツ施策に関しては、積極的にコンテンツ導入を図るとともに、すでに導入済みの「TOWER TAG」に、ネットワーク上でのデータ共有や競技的な要素を盛り込むことでeスポーツ競技としての発展させることも視野に入れているとのことです。

 そこにはセガやセガの関連会社だったダーツライブ社で取得したネット上のスコア管理やランキング管理のノウハウも活かされるとのことです。

3月31日に閉館を迎える「VR ZONE SHINJUKU」の次なるステップは

バンダイナムコアミューズメントの小山氏、田宮氏のトークは、VRコンテンツの一般層への訴求の難しさや、営業時間、店舗におけるVRコンテンツの体験スペースを基にしたビジネス的な効率の部分に話が及びました。

左から小山氏、中央 田宮氏 右 小川氏

現状のVRアトラクション施設では、VR装具の装着、アクティビティ説明などに要するスタッフや時間は必然的なものですが、2月25日にハシラス社がアドアーズ渋谷店VR Park Tokyoにて展開するVRアクティビティにおいてヘルプスタッフによるアテンド(導入ヘルプ)無しのものを発表しました。

今後、このような展開が実際に問題なく稼働すれば、今後のアクティビティにおけるコスト削減にも繋がり、さらなる活性化につながる可能性が期待できます。しかし、大掛かりなVRコンテンツであれば、仕掛けも大掛かりなりますが、それらの危険回避のため、それらをどのように省力化していくのかが注目のポイントです。

なお、「VR ZONE SHINJUKU」に関しては当初から期間限定の施設でしたが、今後、4月1日以降の展開に関しては、具体的な施策を準備しているとのことで、より身近なカタチで、省力化、省スペース化されたVRアクティビティの導入が実現するのかもしれません。

個人的に興味をもったものは、小山氏が提唱した8ビットのVRの世界観です。

おそらく今の若者たちに8ビットという表現を説明しても、なかなか理解してもらえないと思いますが、「マインクラフト」の世界観のVRR体験と言えば分ってもらえることでしょう…。ディテールを突き詰めたものではなく、VR体験の再現性を人間の想像力に委ねてゆくものになりますが、人間の想像力をさらに掻き立てる魅力的なVRコンテンツになると思います。

孤高のVRエバンジェリスa.k.a. GOROman

GOROmanこと近藤義仁氏は常にVRに新しい発想と実装を育んでいるひとりです。

近藤氏は現在、自身の注力課題は人型3Dアバターのフォーマット企画の統一化を考えています。それはVRMと呼ばれるもので、このフォーマットが共有化されれば、VR施設などでの転用や流用が可能になります。すでにVTuber同士のライブ共演も、このVRMの共有化により実現しています。

近藤氏は、現在、VRコンテンツの研究とともに、MR(ミックスド・リアリティ)の研究を行っています。

黒川塾66の当日も、ローラースケート・タイプの「セグウェイ」(Segway Drift W1:公道走行は不可)を持参しており、ホロレンズを使用してVR上の障害物を避けるライブアクションを見せてくれました。

今後のVRにおける課題は?

現時点で、家庭用VRがブレイクスルーをしない理由は明白です。

それはハードウェアのセットアップの面倒さであり、もうひとつはどうしても見てみたいというVRコンテンツに欠けていることです。このハードウェアの問題に関しては「OculusGo」のようなワイヤーレスのシステムが今後のスタンダードになることが必須でしょう。

それらが浸透しないと、VRに関してはアーケードや特別な施設で体験するものという認識になるのではないかという懸念を私は感じています。

その要因の背景には思ったよりも早くMRの時代が迫ってきているからです。すでに2月24日18時(日本時間25日午前2時)にマイクロソフト社がバルセロナで開催中のMWC(モバイル・ワールド・カンファレンス)にてホロレンズ2の発表を行いました。

VRに関しては1980年代から常に次に来るトレンドとして浮かんでは消え、消えては浮かんできましたが、果たしてMRがスタンダード化していく中で、VRのあるべきポジションニングはどこにフォーカスすべきなのかを考えさせられるトークセッションになりました。

参加者の皆さんと一緒に記念撮影

(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)

1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。