2019
01.08

【World MR News】VRで月の大きさや重力をリアルに体験! VR体感サイエンスツアー【ありえなLAB】がはまぎん こども宇宙科学館で開催

World MR News

グリーは、神奈川県横浜市にあるはまぎん こども宇宙科学館で12月22日(土)から1月7日(月)までの期間開催される企画展:冬休み特別企画「体験しよう!バーチャルリアリティとプログラミング展」に、「VR体感サイエンスツアー【ありえなLAB】」を提供中だ。本稿では、そのメディア向け体験会をレポートする。

運用を簡略化して負荷を減らす工夫も

今回の「VR体感サイエンスツアー【ありえなLAB】」では、ふたつのコースが用意されていた。Aコース「月の直径」は、3歳以上が体験できるコンテンツで、Bコースの「月の重力」は、小学2年生以上が対象となっている。

両方とも最大8名までが同時体験でき、最初にビデオでクイズ形式のガイダンスを見た後に、実際にVRを体験。その後再びビデオで答え合わせを行うという流れになっていた。

こうしたVRコンテンツの体験にはかならず補助要員が付くなど、なにかと運用面が大変になりがちだ。そうした負担を軽減するために、ガイダンス部分でVRヘッドマウントディスプレイの装着方法が紹介されていたり、タブレットでコンテンツをコントロールできるようにしていたりするなど、様々な工夫が行われている。

頻繁に子供や家族ずれが訪れコンテンツを体験していた。ちなみにこちらは入館料とは別に無料で参加できる。

タブレットで最大8台まで同時に体験できるようにコントロールすることができる。現在使用中のデバイスが緑色で表示されるなど、視覚的にもわかりやすくなっていた。

身近なものと比較していくことで月の大きさが体感できる「月の直径」

月の直径がどれぐらいなのか、皆さんはご存じだろうか。こちらは約3500キロメートルだが、その数値だけを言われても実感できる人はあまりいないだろう。今回のツアーとして用意された「月の直径」では、それを子供たちにもわかりやすく学べるための工夫がされていた。

アリ・エナーイ博士がガイダンス役として登場し、体験者のサポートをしてくれる。博士はVR内のコンテンツにも登場する。

グリー 開発本部 XR事業開発部の渡邊賢氏と川野悠氏によると、最も苦労した点は「どうやったらスケール感を感じてもらうことができるか」ということだったという。当初はVR内にある月をメジャーで図っていくというものを考えていたそうだが、そもそも3500キロメートルがどれぐらいかわからないため実感することができなかった。

そこで、東京ドーム12個分というようなたとえで使われるように、身近にあるものから順番に大きさを比較していくという内容に変更している。「ユニークなのは、後ろ向きに進んでいくところなんです」と話す渡邊氏。こちらは子供でも楽しめるようにライド式に視点が変わっていくコンテンツになっているのだが、前方に移動していくものだとあらかじめオブジェクトが見えてしまいネタバレになってしまう。そこで、後ろ方向に移動しながら比較対象のオブジェクトが登場するようにしているのだ。

最初は身の回りにあるような木から都庁、東京タワー、東京スカイツリー、富士山、日本列島という感じで、徐々に比較対象が大きくなっていく。日本列島は約3000キロメートルと月の直径に近いため、そのスケール感がわかるようになっているのである。

子供だけではなく、老若男女問わずに楽しむことができる。筆者も体験してみたが、想像以上によく出来ており驚かされた。

3~6歳までの子供は、単眼のヘッドマウントディスプレイを使用して体験できる。

単眼のヘッドマウントディスプレイはグリーがオリジナルで作ったものだ。外観は3Dプリンターで作り、PCと連動して映像が映るようになっている。子供がかけるため、軽量化も図られている。

『Oculus Go』もいろいろと改造が施されている。上部の黒い部分は3Dプリンターで手作りしたモノで、電源ボタンを間違えて押さないように取り付けられている。また、熱対策のためのヒートシンクや顔が当たる部分のシートなど、様々な工夫が行われているのだ。

ちなみに、13歳未満は子供の立体視の発達への影響に配慮してVRの自主規制が行われていた。しかし、2018年1月5日に一般社団法人ロケーションベースVR協会が「両眼立体視機器を使用した施設型VRコンテンツの利用年齢に関するガイドライン」を施行。現在は、7歳以上は一般のVR機器が利用できるようになっている。

グリー 広報室長の入山真一氏は、「特に感受性が強い子供たちがVR体験できるようになったことで、反応も大人以上に純粋です。そのため、見ている方が楽しくなってきます」と語り、子供たちの思わぬリアクションに驚いていた。実際筆者の目の前でもゴーグルを付けた子供が、そこまで見なくてもいいだろうというぐらい真上に首を向けるなど、興味深い光景を見ることができた。

コースの最後は最初に出題されたクイズの答え合わせが行われた。月と地球の大きさが比較できるように、模型も同時に展示されていた。

月でボールを投げたらどうなる? 「月の重力」

Bコース「月の重力」は、『VIVE』を利用しており、小学校2年生以上が対象となっている。月の重力は地球の6分の1だが、それを子供でもわかりやすく学ぶことができるという内容のコンテンツだ。

最初のガイダンスで、実際のボールを投げてみて感覚を掴んでからVRを体験するという流れになっていた。VRの中では地球と月が交互に切り替わり、その中で的に向けてボールを投げて得点を競うという、ちょっとしたゲームが楽しむことができる。これがなかなか難しく、特に重力が6分の1になっている月面では、思わぬ方向にボールが飛んでいってしまい思うようにコントロールすることができなかった。

コンテンツの最後は月面でボールを投げて花火を打ち上げるようになっており、これもついつい夢中でプレイしてしまう。Aコースの「月の直径」同様に、視覚的にも面白く、十分大人でも楽しめる仕上がりであった。

月での体重は6分の1に!?

VR体験の後は、月での体重を計ることもできるようになっていた。これは『ムーンスケール』と呼ばれるものを利用しているのだが、このように市販の商品も活用しながら、様々な体験ができるようになっていたところも面白い。

JAXAが人工衛星データを提供

こちらの企画は2018年の夏に立ち上がり、その後半年かけて作られたものだが、元々は「月の教育をしよう」という話が2017年夏あたりに出ており、JAXAがデータを提供してグリーがVRのノウハウを蓄積するという取り組みからスタートしている。今回の「VR体感サイエンスツアー【ありえなLAB】」も、その一環として行われているものだ。

アポロ11号の月面データをそのままVRで再現しているのだが、こちらはJAXAから提供された月周回衛星「かぐや」の地形データから再現しており、その監修もJAXAが行っている。そのため、エンターテイメント性だけではなく、実際のデータとしても正確に作られているのである。JAXAが持つ生のデータは、そのままでは利用することができない。それをUnityで変換するための作業なども、グリーで行っているそうだ。

ちなみにグリーとJAXAは、今回のツアーの前に、「月面スポーツVRハッカソン」を2018年5月に開催している。こちらは結構な人数が集まり、月のデータを使ってスポーツをしたらどうなるかというハッカソンを2日にかけて実施している。

子供向けVRで目指すものとして、渡邊氏は「外で子供が遊ぶことは変わっていません。遊び自体はテクノロジーで進化する部分としない部分がありますが、グリーではXRという技術で子供たちの遊びがどう変わるのか考えていきながら、VRをもっと身近なものにしていきたいです」と、その思いを語っていた。

従来までの展示ではビデオだけの解説に終わっていたが、それでは子供は集中して見ることはない。しかし、こうしたVRで実際に体感できるコンテンツならば興味を持った状態で体験してくれるのだ。

なお、こちらのツアーは2019年1月7日でいったん終了となるが、その後もスケールアップして開催される予定ということなので、続報を楽しみに待とう。

Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。