2018
12.04

【World MR News】EDGEofとフランス大使館が共同でネットワーキングイベントを開催

World MR News

ゲームチェンジャースタジオ「EDGEof(エッジオブ)」とフランス大使館貿易投資庁(ビジネスフランス)は11月28日、渋谷EDGEofでネットワーキングイベントを開催した。冒頭でEDGEofは「EDGEof xR」の立ち上げを発表。その後ビジネスフランスにより仏VR産業の現状や、XR系スタートアップ5社のピッチが行われた。その後、交流会が実施され、参加者はデモや交流を楽しんでいた。

EDGEof とEDGEof xR

はじめにEDGEof協同設立者の小田島Alex太輔氏から、新たな取り組みとなるEDGEof XRについて説明が行われた。EDGEofはさまざまなネットワークやコラボレーションを通してスタートアップを支援することを目的に2018年4月に設立。中でも大使館との連携が多く、つながりのある国は16カ国におよぶ。中でも欧州圏に強いのが特徴だ。「アメリカは我々が支援しなくても、簡単につながれますからね」(小田島氏)

これに対してEDGEof xRはxR分野に特化して展開するもので、国内外の企業・団体・研究者・クリエイターと提携し、VR・AR・MRの社会実装を後押しするためのコミュニティとなることを目的としている。小田島氏は5G(第5世代移動通信システム)の到来がxR分野に追い風となるとして、「世界中のxRに関する技術発展に目を光らせ、政治レベルの高い人々と交流して、イノベーターの支援を進めていく」と説明した。

また、2019年2~3月に「Art × xR」をテーマにしたカンファレンスを開催する予定だともあかした。

続いてEDGEof共同代表でゲームクリエイターの水口哲也氏が登壇し、過去に手がけてきた作品をふり返りながら、これまで一貫して追い求めてきたテーマ「シナスタジア(共感覚)」について語った。

1991年に「VRをやりたくて」セガ・エンタープライゼス(現セガゲームス)に入社した水口氏。これまで「Rez」をはじめ、さまざまな作品を発表してきた。VR HMDが一般向けに発売されると、ようやく時代が追いついてきたとばかりに、「Rez Infinity」「Tetris Effect」などのタイトルを発表。その活動はゲームの枠を越えて、メディアアート分野にも及んでいる。

水口氏は画家のカンディンスキーが音楽に刺激を受けて絵画を書き続けたエピソードを引用しつつ、「我々は五感から得た情報が脳によって統合された複合現実の世界を生きているが、作品を創造・記録・流通させるためには、いちど個々のメディアに情報を解体する必要があった。それがVRで再統合することが可能になった」と説明。「20世紀は情報の時代だったが、21世紀は体験の時代になる」として、xRによって体験の送受信や共有などが可能になると語った。

トークセッション xR International Gathering

第二部ではGREE VR Studio Labディレクターで、フランスのVR事情にも詳しい白井暁彦氏が登壇。同社が進めるスマートフォン向けVtuber(バーチャルYoutuber)配信プラットフォーム「REALITY」の紹介や、VRと社会の関係について説明した。

白井氏はVR HMDや3DCGの誕生をVR第1世代だとすると、VR HMDが一般向けに販売され、そこにSNSやAIをはじめとした、さまざまな要素技術が統合化されつつある現代はVR第4世代にあたると説明。その上でVtuberについて、現実の肉体を離れて、アバターとして生活し始めた最初の人類だと位置づけた。

同社はゲーム事業を主力とする一方で、誰でも手軽にスマートフォン一つでVtuberになれるプラットフォーム「REALITY」にも精力的に取り組んでいる。すでにiPhone X向けにアプリを先行配信しており、今後は他機種への展開や、アバターのカスタマイズのバリエーションをより増やしていく予定だ。白井氏も毎週、Vtuber配信を楽しんでいるという。

このほか毎年3月にフランス・ラバル市で開催される欧州最大のVRイベント「ラバル・バーチャル」も紹介。1999年より毎年開催され、フランスVR産業の牽引役も担うイベントだ。同市はフランスのAR/VR推進特区にも指定されており、ラバル・バーチャルの視察にあわせて、ぜひ訪れてみて欲しいと述べた。

仏スタートアップ5社が自社サービスをピッチ

第三部はフランスから訪れたスタートアップ5社が自社プロダクトやサービスについて5分間ずつピッチを行った。5社のうち1社はAI関連、4社はVRソリューションという構成で、あらためてフランスのVR産業の厚みが感じられる内容となった。

Linagora https://linagora.com/

 オープンソースのPaaS(Platform as a Service)開発と、法人向けのスマートスピーカー「LinTo」の製造・販売を手がけており、年商は2000万ユーロ(約25億円)にのぼる。LinToは企業の会議室などで活躍し、ボイス操作でさまざまな業務支援が可能で、今後は画像解析による個人認証機能なども備えていく予定だ。また、LinToの新バージョンをCES2019で発表する予定もあかした。

Manzalab https://www.manzalab.com/

VR職業訓練とVR製品紹介を主な事業領域としており、クライアント企業はパリ交通公団(列車の保守点検訓練)やアクセンチュア(VR会議)など。中でもピッチではVR上で会議やカンファレンスなどができるソリューション「TEEMEW」と、VRショールームの「twin」が紹介された。ゲーミフィケーションやシリアスゲームの要素も取り入れ、差別化を図っている。

Skyreal https://sky-real.com/

 旅客機で知られるエアバス社のスピンアウト企業で、VR上で製品デザインや設計などを可能にするソリューションを提供しており、主なクライアントは航空宇宙分野だ。CADデータを活用して直接VRコンテンツを制作し、複数人での体験共有や訓練などに活用可能だという。日本企業にも積極的に売り込んでいきたいとした。

Virtual Room https://virtual-room.com/en/

HTC Viveを用いたVR脱出ゲームの企画・開発・運用を手がけている。4人1組で協力しながら謎を解き明かし、閉鎖空間から時間内に脱出することが目的だ。宇宙飛行士が月面で月着陸船を修理し、地球に帰還するなど、ゲームならではの脱出ゲームが体験できる点がポイント。2016年にパリでスタートし、世界25箇所で展開、これまで15万人以上が体験したという。日本でも協業先を見つけてオープンしたいと抱負を語っていた。

VirtualiSurg http://www.virtualisurg.com/

医療業界向けのVR手術トレーニングソフト。主要VR HMDに手術道具を模した専用デバイスを組み合わせ、医療機関ごと、シチュエーションごとにカスタマイズされたシナリオを提供している。海外法人の設立も進めており、シンガポール、モントリオール、ボストンで計画が進行中。日本でも2020年第1四半期をめどに現地スタジオを設立し、営業活動とローカライズなどを進めていきたいとした。

近年フランスでは「フレンチテック」に代表されるスタートアップのエコシステム創造が盛んだ。毎年1月に米ラスベガスで開催される世界最大急の家電見本市、CES2017ではエウレカパークとして知られるスタートアップエリアで178社が参加し、大きな存在感を示した。

そんな彼らが交流会で一様に指摘したのが2020年の東京オリンピックだ。5Gの商用サービスが本格化するなど、2020年はテック系において大きなターニングポイントとなる、節目の年。仏スタートアップに良い刺激をもらい、日本企業としても一層の盛り上がりを期待したいところだ。

Photo&Words 小野憲史

「ゲーム批評」編集長などを経て2000年よりフリーランス。

ゲームジャーナリストとして国内外のイベント取材・ゲームレビュー・講演などを手がける。他にNPO法人IGDA日本事務局長、ゲームライターコミュニティ代表、東京ネットウエイブ非常勤講師。