2018
10.15

黒川文雄のEyes Wide Open VOL.23 「予定調和ではないVRコンテンツの可能性」

EyesWideOpen

東京ゲームショウ2018を見学して思ったこと

前回の「コラム」で触れましたが、今年の東京ゲームショウにおいてVR系出展は昨年並みのスペースで新しい出展社(個人も含めて)やコンテンツも数多く見受けられました。

VR、AR、MRという技術やコンテツも一般的なアクティビティやエンタテインメントとして受け入れられてきたと思います。

それらの出展には、大型の可動型の筐体やフリーローム用のスペースを確保して展開するものもあり、以前よりもダイナミックな展開になっているという見方もできます。・・・とは言え、フリーロームシステムに関してはおそらく、VR上で体感するそのスペースとは裏腹に、より省スペース化が促進され、稼働率、効率性が求められていくことは経済的に必然のことと思います。

あれから25年、何が変わったのか・・・?

1994年にセガ・エンタープライゼス(現在のセガゲームス)でアーケードゲームに事業に触れたのが私のゲーキャリアのスタートですが、その頃は大型の可動型ゲーム筐体を用いたアトラクション的なコンテンツが主流で、それらのコンセプトは現実的な「レース」「エアバトル」「シューティング」などをよりリアルに表現するという映像的な演出があり、関わった開発陣は一歩でも先の未来を具現化しようと取り組んでいました。

その90年代中盤から後半にかけては、現在の3次元コンピュータグラフィック技術が最高潮に達するための研究に費やされた貴重な時間だったと感じています。

よりリアルに、より美しく、よりスムーズに、アーケードゲームでの開発技術やナレッジは、その後コンシューマーゲームに反映されていったため、アーケードに行かずとも、コンシューマーゲーム機で同等のゲーム・エンタテインメント体験ができることで、ビデオゲーム・ビジネスのジレンマ(板挟み)が発生したこともあります。

そのため、徐々にアーケード向けのビデオゲーム開発が縮小し、それに拍車をかけたのはプライズ機が流行し、ビデオゲームの減った分の収益を稼ぎだし、店頭での設置台数が増えたために、さらにアーケード向けゲームが撤去されたというサイクルが起こったと思います。

とは言え、セガゲームス、バンダイナムコエンターテインメント、コナミデジタルエンタテインメントなど有力メーカーの弛(たゆ)まぬコンテンツ開発と、その供給により、今もアーケードゲームは盛んですが、往時の収益を超えることは難しく、VRのような新しい技術とエンタテインメントの可能性を信じて開発と供給を行っています。

コンテンツの内容は何も変わっていない 

では、新しい技術であるVR、AR、MRが徐々に現実的なものになっているなかで、コンテンツは変わったのでしょうか。

90年後半、セガのAM(業務用)事業を管掌する役員は新作の企画会議の場で「撃って、飛んで、走って」というこの3つの言葉を使ってヒットゲームのコンセプトとしてプレゼンをしていました、

「撃って」は、シューティングのこと、「飛んで」は戦闘機アクションなどの未知の体験、「走って」はカーレースゲーム、バイクレースゲームなどです。

そして、その後、この3つのコンセプトに「闘って」というものが加わり対戦格闘ゲームというゲームジャンルが出来上がりました。もしこれにさらに追加するとすれば音楽をテーマにした「リズム」ゲーム的なものがあるでしょう。

これらが現在に至るアーケード、コンシューマーゲームのコンセプトベースであり、そこから逸脱することなく、四半世紀に渡って踏襲されているヒットの遺伝子とも言えることでしょう。

なお、現在、さいたま市スキップシティで開催中の「あそぶ!ゲーム展3」では、その時期のアーケードゲーム、家庭用ゲームの変遷をテーマにした展示会を開催中です。参考までにご覧になることをお勧めします。

「あそぶ!ゲーム展3」公式サイト

http://www.skipcity.jp/vm/game3/

予定調和にならないVRコンテンツの可能性

 皆さんもご存じのように、現在のVRコンテンツは、過去コンテンツのリメイクやリサイクル、もしくは現状既にあるジャンルを踏襲し、VR的な味付けと、現在ある動力的なテクノロジーで体験者に感動と興奮を与えていると思います。そして、それがこれからもメインストリームとして続いていくことでしょう。

しかし、先に挙げた「撃って、飛んで、走って」のようなヒットゲームのコンセプトと外れるようなものが生まれてほしいと思う気持ちがあります。どういうことかというと、今のビデオゲーム、VR系アトラクションは総じてゲームの目的やゴールがあります。つまり結果(勝敗やスコアと言い換えても良いかもしれません)を残すためにやっているものです。

しかし、それら結果を残すためのものだけが、VR系コンテンツではないような気がしています。それを思う気持ちの奥底にはエンタテインメントではなく、ストレスフルな現代社会へのリラクゼーション的な環境を求めているからです。そのようなニーズは、おそらく、私だけのものではないと思います。

ゴールが無いVR世界、目的のないVR体験、制限のないVR世界、何もしなくてもいいVR環境、それらは従来のビデオゲーム系コンテンツ、エンタテインメントとは異なりますが、VRが一般化すればするほど、パーソナルなニーズとしてこれから成長すると思います。

(c)SEGAGAMES

筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)

1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。