2018
09.13

【World MR News】日本マイクロソフト、ヘルスケア分野における方針と戦略についての記者説明会を開催

World MR News

日本マイクロソフトは、9月4日にヘルスケア(医療・製薬)分野における同社の取り組みを説明する発表会を開催した。

まずは日本マイクロソフト株式会社執行役員 常務 パブリックセクター事業本部長の佐藤知成氏より、同社のヘルスケアへの取り組みについて説明が行われた。

佐藤知成氏。

同社のパブリックセクターは、国民の目線で人の一生を寄り添うというスローガンを抱えて活動している。本社を含めて、地球上のすべての個人とすべての組織がより多くのことを達成できるようにするというのが同社のミッションだ。

その中で、日本マイクロソフトが目指す新たな企業像は、革新的で安心して使えるインテリジェントテクノロジーを通じて、日本の社会変革に貢献するというのを目指している。同社社長の平野氏が、7月から始まる新しい経営方針で2020年に向けた注力分野として、「インダストリーイノベーション」「ワークスタイルイノーション」「ライフスタイルイノベーション」の3つのイノベーションを発表している。

ヘルスケアは、高齢化社会に向かって進んでいる日本そのものを3つの観点で支援していこうと考えている。たとえば、病院の院内の働き方改革や生まれてから亡くなるまでの人の一生に寄り添うなど、AIやIoTといった最新のテクノロジーがどのように社会の変革に寄与できるのかをテーマに取り組んでいるという。

マイクロソフトは、現在大きく分けて8つのインダストリーに特化して戦略を推進している。これらのインダストリーにより深く、顧客の課題を理解して新しい技術をどのように活用していくのか取り組んでいる。

マイクロソフトの製品は、医療機関において電子カルテといった領域で80パーセント以上のシェアを持っている。日本の多くの人は病院を生まれるということもあり、その瞬間から同社の製品が活用されているのだ。

デザインシンキングを用いたアプローチを今年の5月より開始している。このデザインシンキングとは、世の中の課題を解決するために新しい技術・新しいものを新しい発想で、新しい使い方で世の中に提供していくといったものだ。

現在同社のパブリックセクターでは、これらのデザインシンキングのコンセプトを、チームのメンバーが吸収し実行して顧客と寄り添いながら、課題の解決に対して取り組んでいる。

日本のトップ10の製薬会社では100パーセントがAzureを利用

続いて、日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 医療・制約営業統括本部長の大山訓弘氏より説明が行われた。

大山訓弘氏。

ヘルスケア分野のマーケットサイズは年々拡大しており、日本のみならず世界的にも高齢化社会が訪れている。それに伴い、医療ITの役割も年々大きくなっており、ひとりあたり毎日1GBにあたる医療データが生成されているといわれている。

医療データというのはセンシティブな個人データでもあるため、それにまつわるセキュリティの負荷も高くなってきている。一方、大量の医療データがあることで、経営者から見たときのテクノロジーに対する期待も高まってきている。各患者が、自分の検診データを見るという願望も高まってきており、ヘルスケア産業は将来的に大きくなっていくと考えている。

同社では、2005年にヘルスケアに特化したチームが誕生し、以降13年におけるアプローチを行っている。そうしたこともあり、日本の中規模以上の病院における医療機関においては、99パーセントを超えるWindowsサーバやSQLサーバなどを導入している。

日本のトップ10の製薬会社では、なんらかの形で100パーセントの利用率でAzureが利用されている。病院など医療機関において、クラウド型オフィス製品の『Microsoft 365』は国内で35万人以上に利用されている。

ヘルスケア分野におけるデジタルトランスフォーメーションのシナリオは4つある。ひとつは、「患者との関わり」だ。リモート診断などを伸ばしていくなど、患者の生活の質をどう上げていくかという取り組みを考えていく。

2点目は「チーム対応力強化」だ。これは、働き方の改革や地域で間医療連携などを、ITの力で変えていく。3つ目の「臨床及び運用の有効性最適化」は、コンピュータが得意としているゲノム解析やAIを用いた画像診断支援など、多くの可能性が秘められている部分だ。4つ目の「ケア全体の変革」は、患者におけるエンドツーエンドのケア全体の改革を、医療機関や製薬企業、地域の人々と変えていくというものだ。

課題に対しては、「ヘルスケアクラウド」と呼ばれるの3つの分野で構成している。ひとつ目の「ヘルスケア“セキュア クラウド”」は、患者や医療に関する機密の高いデータを保持しているため、セキュリティが高く安全で安心して使えるセキュアなクラウドプラットフォームとなっている。

そのセキュアな基盤上で動くものが、@ヘルスケア“ワークスタイル イノベーション”」だ。ツールを用いて、顧客・病院・製薬企業における働き方を変えていく可能性を持つものである。

3つ目は「ヘルスケア“アドバンスト テクノロジ”」だ。世界規模で最先端の技術に関して投資を行っている同社。たとえばAIならばAIだけに特化したエンジニアが8000名ほど従事しており、日々先端テクノロジーの研究を行っている。そうしたものを通じて、最先端のAIやテクノロジーを使って、活用を訴求していく。

すべてのコンプライアンス認定を取得しているのはマイクロソフトのみ

「ヘルスケア“セキュア クラウド”」では、医療・医薬品産業における各種規制や法律に遵守している。たとえばセキュリティに対しては、世界的な規模でセキュリティ対策を実施している。技術的にもAIを使った不正トラフィックを自動的に検知し、90秒以内に遮断できる体制をクラウドプラットフォームに備えている。

プライバシーに関しても、預かったデータはマイクロソフトとしては利用しないというポリシーになっている。当然のことながら、暗号化もされているためユーザー自身しか見られないようになっている。

ヘルスケア産業には、国内外で多くのコンプライアンス認定がある。それらに関しても、対応しており、何かあった場合は日本法に基づき東京地方裁判所のほうで各種対応をしていく。

「デジタルヘルス推進室」を10月1日付けで設置

「ヘルスケア“アドバンスト テクノロジ”」は、医療行為に関連する「クリニカル」な部分と、業務をどう回すかといったことやコミュニケーションをどう向上していくかといった「オペレーション」のふたつにわけている。その中核となるのは、データやAI、複合現実の技術などである。

世界的に見ると、それぞれの分野についてはすでに事例が存在している。AIだから複合現実だからといって未来の話をしているわけではない。たとえばMRデバイスの『HoloLens』を利用した事例などもすでに存在しているのだ。

同社のAIエンジニアが『InnnerEye』というテーマで研究を行っている。これは、2Dで撮影した内臓等のデータを元に、臓器ごとに3D化をAIが行っていくというものである。単純に3Dになっているためわかりやすかったり、あるいは癌が悪性か良性かといった判別したりするといった研究も行っている。

米国では、医療画像に特化した解析を行っているirisで、『InnnerEye』の研究成果の活用が行われている。irisとマイクロソフトのAIを接続することで、糖尿病における網膜症の早期発見に活用されている。

また、米国のケース・ウェスタン・リザーブ大学の学生向けに、内科医の研修用で人体の標本の代わりに『HoloLens』でバーチャルに映し出したものを見ながら人間の内臓などの構造が確認できるものが活用されている。

また、日本のHoloeyesでは、手術前のブリーフィングで『HoloLens』が活用されている。患者の患部のデータを投影しながら、事前のブリーフィングを行うことで時間の短縮などに繋げている。

さらに、エムティーアイとナレッジコミュニケーションと協力し、創薬における複合現実を用いた実証実験も開始している。こちらは、研究者同士が円滑にコミュニケーションすることを支援しており、短期間で創薬採用を進めていくことを目的にしている。

従来までは、専門家が数日間要した専門的な解析についても短縮し、3Dで見られるようにすることでわかりやすくすることができ、効率性をあげている。

こうしたものを営業活動だけで達成するのは難しいため、今年の10月1日付けで、「デジタルヘルス推進室」を設置する予定だ。こちらの目的としては、日本のヘルスケア業界において、新しい技術を用いて一歩踏み込んだクラウド技術の活用を推進していく。

こうしたものを実現するために、医療機関や製薬企業、医療機器・医療関連サービス企業、公的機関、関係団体や学会などと連携しながら、パートナーとともに具体的なソリューション作りや訴求活動を強化していく。

また、マイクロソフトは米国の会社でもあるため、世界中の知見を集約している。ヘルスケアにおける領域においても、世界中のナレッジをこちらの推進室に集めて展開していくことも考えているとのこと。

同社では今後3年間のビジョンで考えている。現在ヘルスケア分野におけるクラウドの売り上げは4割ほどだが、それを3年後には7割に成長させていく予定だ。その結果、3年後にはヘルスケア全体の売り上げが現状の1.5倍ほどの成長になることを見込んでいる。

 

Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。