2018
07.02

【World MR News】Mixed Realityで遊ぶ人が主役になる――「第8回VRビジネスフォーラム」レポートその①

World MR News

6月22日に東京・恵比寿のフェローズでMixed Reality開発先進企業によるセミナー「第8回VRビジネスフォーラム」が行われた。

本稿ではその中から、第1部に行われたバンダイナムコ スタジオ未来開発統括本部 グローバルイノベーション本部フューチャーデザイン部イノベーション課の本山博文氏による、「テーマパークのMR(Mixed Reality)ゲーム開発で得た知見と、遊ぶ人が主役になるMR(Mixed Reality)エンターテインメントの新たな可能性について」についてお届けする。

▲バンダイナムコ スタジオの本山博文氏

ゲーム開発の立場から考えるMixed Realityとは?

ゲーム開発の立場から考えるMixed Realityとはなんだろうか。よく言われているのは、VR(仮想)はCGの世界に入っていく。リアルにCGが現れるのがAR(拡張)とMR(複合)で、そのうちリアルに融合しないのがARで融合するのがMRである。

ややイメージがしにくい場合は、映画『ジュラシック・パーク』で恐竜が登場するシーンを思い浮かべてみるといいだろう。あのCGで作られた恐竜が、リアル世界で見ることができるようにしたのがMRだ。また、こうしたものが出てくるとゲーム会社では考えているという。

当初スピルバーグは、すべて模型を使って映画を作ろうとしていた。それがILMでCGの映像を見せたところ、それ以降一気にCGが活用されるようになった。こうした「破壊的技術」が登場することで、それ以降の世の中が一気に変わっていくのだ。本山氏は、『Microsoft HoloLens』もそうしたものになると考えているそうだ。

最新MR技術をテーマパーク向けに導入

本山氏が手がけた「ナンジャタウン×MRプロジェクト」は、現実世界とデジタルが融合した、最新のMR技術を応用したテーマパーク向けアトラクションを、国内で初めて東京・池袋の「ナンジャタウン」に導入したプロジェクトだ。MRとして日本マイクロソフトと連携し、『Microsoft HoloLens』が活用されている。

その第1弾として導入されたのが、リアル・パックマン・アトラクション『PAC IN TOWN(パック イン タウン)』で、2018年1月15日から5月6日までの期間限定で運用されていた。

元々昨年オーストリアのアートイベント向けに作られたものだが、5日間で400名が遊び、いいフィードバックを得たという。それをナムコ(現在はバンダイナムコアミューズメント)に見てもらい、このアトラクションが実現している。

第2弾は、『一網打尽!蚊取りパッチン大作戦』で、2018年2月10日から3月31日までの期間限定で実施された。元々はライドに乗って光線銃で遊ぶというものだったが、それをMRにアレンジ。ただ置いてある蚊の模型を撃つだけだったものを、飛んできた蚊を叩くことで発生する衝撃波で倒せるというようにしている。

MRは安全でスポーツにも向いている

「ナンジャタウン×MRプロジェクト」で得た知見として、MRはテーマパークに最適だということがわかった。MRは現実世界にデジタルを重ねる技術のため、テーマパークのように最初から環境が作り込まれた世界に追加するだけでいいのである。

そもそもテーマパークは現実以上に面白く、そして楽しくする環境になっているため、そこにデジタルが加わることでより楽しさが増すのだ。

また、MRの利点として低コストで作れるところがあげられる。VRコンテンツとは異なり、ゼロから世界すべてを作り上げる必要はない。『PAC IN TOWN』であれば迷路とキャラクターだけ、『一網打尽!蚊取りパッチン大作戦』では蚊と壁を作る程度で済むのである。

ちなみに『PAC IN TOWN』は、ひと月で製作されている。その後オーストリアに体験展示し、ひと月調整を行った後にナンジャタウンのアトラクションとして導入されているのだ。わずか2ヵ月で作られたものだが、それでも1万人ものユーザーが体験しているのである。(※一網打尽!蚊取りパッチン大作戦と合わせたユーザー数として)

また、MRは安全でスポーツにも向いているという。ここは、アメリカのゲーム開発者会議、VRDC@GDC 2018 で講演したときに驚かれた点だという。たとえば『PAC IN TOWN』では、プレイヤーはスポーツをしているときのように自由に動き回ることができるが、これまでケガをしたユーザーはいない。当然のことながら、VRではここまでの自由度は実現するのは難しい。

たとえば、オーストリアで行われたイベントの会場には大きな柱があった。しかし、それにぶつかった人はいなかったという。

こうしてみると良いところばかりのような感じだが、もちろん課題もある。それは、体験者以外のユーザーにどうアピールすることができるかだ。

『Microsoft HoloLens』を付けているユーザーは、ファーストパーソンビューなので、没入して遊ぶことができる。しかし、それを見ているユーザーには何が行われているのは伝わりにくい。

そこでKinectを使って、外から第3者視点でわかるようなモニターを用意している。『Audience View』と呼ばれるこのモニターには、Kinectの深度情報を使って自分が奥にいるのか手間にいるのかわかりやすくしているため、パックマンの遊びに合っていたという。

オーストリアではモニターで行っていたが、ナンジャタウンではよりわかりやすくするために、観客のいる位置からカメラをプレイヤー側に向けて出し、目線の先にあるプロジェクターで目の前に動いているプレイヤーのやっていることがわかるようにしている。

しかし、これではまだまだ足りないと本山氏はいう。これをどういう風に向上していくかというのが、今後のチャレンジになるそうだ。とくにテーマパークやゲームセンターなどでは、遊んでいる人を見てどんどん遊びたくなるというのが基本だ。なるべく単に遊び回っているだけではなく、何が楽しいのかすぐにわかるということが必要なのだ。

MRはSocial Communicator

先ほど「破壊的技術」という言葉が登場したが、MRもこれあたると本山氏はいう。ほかの例では、2007年に電話の再発明として発売されたiPhoneも「破壊的技術」といえる。このスマホは、「インターネットコミュニケーター」だ。これはジョブズが講演の中で「iPod」「Phone」「Internet Communicator」といっていたもののひとつだが、その最後の部分が一番機能しているというわけだ。

昨年オーストリアのアートイベントに向けて、バンダイナムコグループならではの切り口で、新しい『PAC-MAN』の未来を創造するという取り組みの一環として、『Microsoft HoloLens』を使って何かをしようとなったときに、社内ディスカッションを行った。そこで出てきたのが、「Social Communicator」というコンセプトで、スマートフォンではない『Microsoft HoloLens』ならではの体験として、「MRはSocial Communicator」だという答えだ。

『Microsoft HoloLens』開発を主導したマイクロソフトのアレックス・キップマン氏が、モニターを見ながら作業をするというパーソナルコンピューティングからひとつの世界の中に、デジタルの人やネットワークで接続している人、リアルな人がいて、それぞれがひとつの世界を共有して使うのがコラボラティブコンピューティングだとde:code2017の基調講演で語っている。

MRをソーシャルコミュニケーターとして、それが遊びになるため「Social Play」の遊びとして、『PAC IN TOWN』が企画されている。リアルワールドゲームでありながら、GPSを使ってローケーションでいろいろやるのではなく、ソーシャルなので人同士がコミュニケーションをし、デジタルの世界にひとつ違うルールや役割を入れることで、新しい遊びができたり社会の中に新しい絆ができたり、あるいはいろんな場所でできると考えているという。

また、エンターテイメントを通じて、社会性が向上するという。オーストリアの例では、ぜんぜん知らない人同士が遊ぶと、そこで仲良くなったそうだ。これが社会の中にインストールされると、そうした世界が生まれてくる可能性もある。

作ったゲームを単に遊ぶのではなく、遊ぶ人同士が楽しみながら交流していくことで、遊びが発展していくというところに、手応えを感じているという。遊ぶ人同士がコラボレーションして、コミュニケーションする遊びがやってくるかもしれない。

そこで「Collaborative Play(遊ぶ人が主役)」というキーワードで、今後もMRのゲームをいろいろと作っていく予定とのこと。

MRエンターテイメントは始まったばかりだ。『ジュラシック・パーク』に例えると蚊のレベルだが、そのうち恐竜に育つ可能性も秘めている。そのときのために先んじて、いろいろと挑戦していきたいと考えているという。

現実世界で人が遊ぶため、短時間・少人数でプロトタイプを作り、試すこともできる。何よりも、子供の頃の夢を現実世界で実現できるところが楽しいのだ。

また、遊ぶ人同士がコラボしてコミュケーションをすることで、さらに遊びが広がっていく。つまり、遊ぶ人が主役になるエンターテイメントになっていくのである。

PAC-MANTM&©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
©BANDAI NAMCO Amusement Inc.
©BANDAI NAMCO Studios Inc.
キネクト, Kinect は米国Microsoft Corporation および/または その関連会社の商標です。
Microsoft、HoloLens は、米国 Microsoft Corporation の米国及びその他の国における登録商標または商標です。

Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。