05.28
黒川文雄のEyes Wide Open VOL.14「MR技術の未来的志向の研究開発」
5月17日、千代田区大手町、株式会社東京電力本社ホールディングス本社にてMR技術を研究活用した新たな試みの発表会が開催されました。
その発表会は、「拡現人」の運営者である株式会社ポケット・クエリーズと東京電力ホールディングスの2社に依る、Mixed Reality(ミックスド・リアリティ 以下:MR)ソリューションの取り組みでした。
当日の発表内容は既に、経済紙、WEB系ニュースメディアで報道され、こちらの「拡現人」のニュース記事としても紹介されています。私は、サイトで記事を書いているジャーナリストというスタンスを差し引いても、今回の両社の展開はMRを使った現実的な展開として注目に値するものだと思います。
詳細な内容と記事はこちらを参照。
この発表会とその研究開発である「QuantuMR(クァンタムアール)」が注目に値するという理由は、MR技術が我々の前にある問題の解決に向けてのソリューション(解決手法)のひとつだと考えるからです。
特にそれは、今回のパートナー企業である東京電力が現在抱える問題と関連するものになるのではないかと考えたからです。
それは、この発表会の質疑応答で私が質問したもので、我々の目の前にある大きな問題に端を発しており、それらを簡潔にまとめると以下のことになります。
「東京電力さんには福島第一原子力発電所の事故とその処理という大きな問題があります。その現場の遠隔処理や対応に使用する予定や可能性があるのか?」
という質問でした。
読者の皆さんも御存じのように、2011年3月11日に発生した東日本大震災により、福島第一原子力発電所は甚大な損傷を受け、さらに津波による二次災害、それに伴う電源のブラックアウト(喪失)により、炉心溶融という人類史上未曽有の惨事を我々に突き付けました。
事故から7年を経て、未だ事故収拾の目途が立ちません。
研究や現場ではAI、ロボット・テクノロジーなどあらゆる技術が試されていると思いますが、すべてが人類にとって未体験の領域の対処事案であり、予定していた様々なスケジュールは遅延しているものと思います。
これに関して、株式会社東京電力ホールディングス・経営技術戦略研究所 経営戦略調査室 エネルギー経済グループの山川泰司氏からの回答を要約すれば・・・。
「MR技術というのは素晴らしい技術で可能性があるものである。今回の研究はそのような緊急時などにおける対応も視野にあることを前提に引き続き研究を重ねて行きたい」とコメントされました。
おそらく、研究や検討はしていても、まだ不確定の要素が多いなかでの明言は難しいことでしょう。
私はこの研究をきっかけに、近い将来、それら原発事故処理を含めての業務対応としてのMRソリューション対応として活用されることを期待しています。
現時点でのバーチャルリアリティ(Virtual Reality以下:VR)技術はエンタテインメント系要素での展開がメインで、オーギュメンテッド・リアリティ(AR(Augmented Reality 以下:AR)は技術的には面白いのですが、極論すれば、ARをどのように利用、展開するかというアイディアは陳腐なものが多いのが現状です。
そして、それらを総合したMR技術は遠隔シミュレーションやオペレーション、または技術や知識が均等に行き届かないケースの作業者に対して、有識者、経験者が具体的な指示のもと作業を遂行するためには適したテクノロジーであり、ツールとなり、最終的なソリューションであると思います。
今回の発表は、マイクロソフト社のホロレンズを使って、MRスクリーン上で、3次元コンピュータグラフィックスでオブジェクトや空間内の形状を表示し、その位置を認識するものになっています。そして、AR体験者が自身の手に依り、AR画面内のポインターを操作すると言う直感的な操作もプラスの要素となることでしょう。この技術を東京電力が管理する発電所や関連する工場、建築現場、さらには医療などの現場での活用を目指していると言います。
私も体験をして思うことは、体験、体感したことの無い現場でも、このホロレンズと、今回の2社が研究を重ねているMRテクノロジー表現を使用すればオペレーションもスムーズに運ぶことでしょう。
しかし、課題もあります。現在のホロレンズの持っているスクリーンの大きさ(グラス部分)のみでは共有して表現できる視野スペースが限られます。おそらく顔前面をカバーするくらいの(イメージは宇宙飛行士のフルフェイス・ヘルメット程度のサイズのスクリーン)ものが必要でしょう。
様々な実験と研究を越えて、さらなる実用化に向かうにはMRデバイスそのものからの改良、開発が必要でしょう。そして、操作性の簡略化を行うことで、さらにシステムは完成度が高まることと思います。
VR用デバイスがOculus(オキュラス)、HTCなどから小規模メーカまで多種多様にリリースされ、つい先日、ワイヤレスのOculusGoがリリースされました。MRデバイスもこれからもっと多様に準備されることと思います。それらのデバイスと今回の2社の共同研究システムが人類の未来を救う大きなソリュージョンになることを期待して止みません。
筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)
1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。