2018
05.14

黒川文雄のEyes Wide Open VOL.13「ゲームの中に入ってみるゲーム」

EyesWideOpen

ビデオゲームの変化とそのダイナミズム

家庭用ビデオゲームが2000年代中盤から内容面が重厚長大化するに伴って、オンライン(ネットワーク)型ゲームが徐々にその頭角を現していきました。

それに伴って、多くのビデオゲームプレイヤーがオンラインゲームに移行していきました。その理由や背景は簡単には語れませんが、シンプルなゲーム性はもちろんのこと、オンライン上のコミュニティの存在、それと同じくそのコミュニティの中における、見えざる人間関係の楽しさや協調関係の維持があったのではないかと思います。

しかし、一方で、昨今、WHO(世界保健機構)が問題提議するゲーム依存症的な側面もあったと思いますが、2012年頃からのスマートフォンをポータルにしたソーシャルゲームに主たる顧客がシフトし、その実態がわかりにくいものになってしまいました。

しかし、ビデオゲームのコンテンツやポータルの在り方が変わったとしても、ビデオゲームが持つエンタテインメント性はビジネスという側面に於いても大きなダイナミズムを今も生み出していいます。

ゆえに、ある時、カミカゼのようなコンテンツが現れ、頭角を現すパブリッシャーやインディーズ(個人開発者)がいます。

ビデオゲームが他のエンタテインメント産業と異なるのは、成功した場合、その市場規模が一桁、二桁違うということです。ゆえにエントリーしチャレンジするものが後を絶ちません。

格差構造はビデオゲーム産業にも

 とは言え、一般社会と同様に、ビデオゲームパブリッシャーの中にも格差構造は生まれています。新規に投資ができる会社、今あるものを維持できる会社、外部からの受託開発のみを行う会社など、その格差は様々です。

インディーズのケースは活動の幅はそれぞれで、本業を別に持ちながら、部活の延長線で開発をしているようなクリエーターや、ビデオゲームに関わっていることで満足しているという声も聞こえてきます。

そのような中で、新しいビデオゲームの産業として期待されているのがバーチャルリアリティ(以下:VR)です。

なかでも、株式会社バンダイナムコアミューズメント(以下:BNA)はVRビジネスを積極的に推進しています。4月には、株式会社バンダイナムコエンターテインメント(以下:BNE)の中にあったVR系コンテンツの企画、開発などをBNAに吸収合併を行いました。

それまでは、BNEを核としてVP系コンテンツの企画開発を行っていましたが、アーケード向けビジネスを管掌するBNAに、それらを集約しより柔軟かつ積極的にVRアクティビティの運営を行うという意気込みと方針を感じます。

ドラゴンクエストVRはその試金石

写真)体験中の筆者

VR ZONE SHINJUKUに新たに導入された「ドラゴンクエストVR」(以下:ドラクエVR)が良い事例だと思います。

今までビデオゲームプライヤーたちの願望であった、ビデオゲームの中に入ってゲームを疑似体験するという要素が集約されたものに仕上がっています。

本来のドラゴンクエストほどのボリュームはありませんが、その世界観を疑似的に体験するにはもってこいのVRアクティビティに仕上がっています。「ドラクエVR」は参加する4人のメンバーの役割パーツを選択します。4人一組のパーティは、「戦士」2名、「僧侶」、「魔法使い」のユニットで、体験用のデバイスは専用の剣と盾、杖を携行します。そして、それぞれに与えられた役割を理解してゾーマ城を目指し、ゾーマを倒すストーリーです。

開発を主導したBNAの濵野氏に依れば…

「4人一組の仲間パーティじゃなくても、バラバラなメンバーでプレイしてもらっても、ラストを迎えた頃には仲良くなっている。帰り際にメッセンジャーIDを交換していました」…という逸話もあるといいます。

もしかするとアクション映画などにあるようなストックホルム症候群のようなものが、ドラクエVR体験がもたらしてくれるのかもしれません。それは良い意味でVRアクティビティのコンテンツの仕上がりの良さと、体験チームによるプレイの一体感がもたらす効用だと思います。

写真)DRAGON QUEST VR ロゴ

木馬からVRまで

 かつて(旧)中村製作所を起業したナムコの創業者中村雅哉氏は、中古の木馬を購入してきて、その木馬を電動化してアトラクションとしてビジネスを軌道に乗せてきました。

そこにはエンタテインメントの本質としての「人を驚かす」「人を喜ばせる」という意識とその具現化があったことでしょう。

そして、その本質は1955年の起業から今も開発に携わるクリエーターの中にあります。VRアクティビティを身近なものに、より楽しいものに、より驚きのあるものに…これらのスピリッツが新しいエンタテインメントのムーブメントになっていくことでしょう。

そして長年ゲームプレイヤーたちが望んできた、自分自身が、実際のゲームの中に没入してキャラクターとなり活躍するというゲーム内ゲームがVRアクティビティのなかで実現を果たそうとしています。

もちろん長時間の体験にはまだ時間は掛かりそうですが、開発のスピードやデバイスの進化を考えれば今までの時間軸とは比較にならないタイミングでそれらは具現化することでしょう。

写真)勝利した筆者

VR ZONE SHINJUKU / フィールドVRアクティビティ『ドラゴンクエストVR』

■ドラゴンクエストVR
稼働開始日:4月27日(現在稼働中)
価格:3200円(施設入場料別途800円)
対象年齢:7歳以上 ※13歳未満の場合は保護者の同意が必要となる
公式サイト
(c)ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.
(c) BANDAI NAMCO Amusement Inc.

筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)

1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。