05.13
【World MR News】[Unite Tokyo 2018]3DデータとxRを活用することでやりたかったことが実現化する―トヨタ自動車のxR活用事例
5月7日から5月9日までの期間、東京・千代田区の東京国際フォーラムで国内最大のUnityカンファレンスイベント「Unite Tokyo 2018」が開催された。その2日目にあたる5月8日に、トヨタ自動車株式会社 エンジニアリング情報管理部主幹・栢野浩一氏によるセッション「トヨタのxR活用事例ご紹介」が行われた。本稿ではその模様をレポートする。
同社は海外170以上の国や地域で自動車の販売を行っているが、今回紹介される事例はそこで活用されているものだ。これだけグローバルに仕事を展開していこうとすると、どうしても非効率な部分が出てきてしまう。
そこで同社では、「データ正活動」と呼ばれるデータによる業務遂行を全行程にわたり推進・支援している。そこで武器となっているのが、車両1台分の3Dデータである。それを企画からデザイン、設計、評価など全行程にわたり活用しているのだ。
トヨタのVRの歴史は1996年から始まった
トヨタのVRの歴史は、1996年に導入された「V-Comm」から始まる。これは社内のニックネームで付けられたものだが、生抜のデジタルエンジニアリングの開始となる。現在ならVRですぐできるような感じだが、その当時かなりの金額をかけて、システムを作り生抜の検証を行っていたそうだ。
当然のことながら、隙間を図るような機能もなかったためCADで定規を作って利用していたという。最近のVRでもハンドコントローラーに定規が付いていたりするが、そういう意味ではこの時代とやっていることはあまり変わらないといえる。
2005年には、市販のCG用データを公開し、CMや動画、カタログなどで活用している。しかし、設計のCADデータだけでは、綺麗なCGを作ることはできない。そこでマテリアルなデータと紐付ける形でビジュアル3Dデータを日本のトヨタで作成。それを海外の販売拠点に配布し、それぞれでカタログやウェブなどで活用してきている。
たとえばオーストラリアの店頭&CMイベントでは、カーコンフィギュレータやCM、VRイベントなどでこれらのデータが活用されている。
こうした後工程が安心して作れる環境のことを、同社では「自工程完結」と読んでおり、このような概念に基づき展開が行われているとのこと。
同社では、2007年頃から修理書等のイラストに3Dデータの活用が開始されている。多治見サービスセンターというところで、配線図から取扱説明書、パーツカタログ、新型車解説書などのサービス技術情報の書類を制作していたが、1997年ごろのものと比較して、2007年には、その3倍以上の数になるほどの量に印刷物が増えてしまった。
そこで、それまで手書きで書いていたイラストをCADなどのデータを利用することで、90パーセント近く減らすなど、大幅な工程の削減を図っている。
10年以上取り組んできた3DデータをxRでも活用
すでに10年以上こうした作業を続けているということもあり、若い世代の社員は3Dデータをさらに活用していこうということで、AR/VR/MR/ホロレンズなどxRの活用にも2016年頃から取り組んでいるという。
ここから「試行中」としていくつかの事例が紹介された。
最初は、VRを使ったトレーニング教材(ゲーム教材)だ。どうせ学ぶなら、楽しくしたほうがいいのではないかということで、こうしたものが生まれたそうだ。
デモ映像では、ドアのレギュレータを外すトレーニングが紹介された。このレギュレータの取り外していく作業には順番があり、正確にボルトを外していかなくてはならない。それをVR空間の中で、ゲームを遊ぶように作業を進めていくのだ。
これを作ってみたところ、車内で大変好評だったそうで、特にアジアからはもっとこうしたものが欲しいという要望まで出たとのこと。それならばもっと作ろうということで、様々なトレーニング教材がVRで作られている。
実車がなくてもゲーム感覚でトレーニングができる車両点検用のものや、グローバルに若いエンジニアのレベルアップを図るための基礎教材に安全教材など、いくつかの種類が用意されている。
こうしたVR教材を利用することで、結果を容易にデータ化できるといった副次効果も生まれているそうだ。これらで利用しているのはPhotonのサーバとUnityのゲーム機能のみしか利用しておらず、安価にレスポンスも良い物が作れるという。
また、Unityのキャラクターであるユニティーちゃんを利用したバーチャルショールームも製作している。修理書やオーナーズマニュアル、相談事例といった様々なコンテンツをAIにディープラーニングさせており、音声対話ができるようになっている。
こちらは、将来的にこうしたバーチャルショールームが登場することを想定して、大日本印刷と一緒に取り組んでいるそうだ。
さらに、ホロレンズを利用した修理書にも取り組んでいる。実際の車にCADデータをスケルトンで表示させることで、パーツの構造などがわかりやすくなるという。
ちなみにCADデータとしては3GB以上になっており、そのままではホロレンズで表示することができない。そこで、「PiXYZ」というツールを利用して270万ポリゴンほどに落とし込み、ファイルサイズ的にも100MBほどになるようにしているとのこと。
プロセスとしては、CADデータを「PiXYZ」でリダクションし、そこにマテリアルのライブラリーを貼り付けてバーチャル3Dモデルを製作している。それらを、Unityでハイエンドに持って行ったり、VRやホロレンズ、ウェブなどに利用したりしている。
ここに使用するマテリアルは、自社で所有している高性能な物理スキャナーを使って数学的なデータに変換。その数学的なコンバーターを利用してカラーのマテリアルを生成している。現在は、Unityの新バージョンに合わせたものを開発しているそうだ。
最後に栢野氏から、「Unity+xRは、可能性を実現する!」というメッセージで本セッションが締めくくられた。3DデータとxRを活用することで、これまでやりたかったことなどの「可能性」を実現化できるのだ。
Photo&Words 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑紙の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。