2017
11.29

黒川文雄のEyes Wide Open VOL.7「革新はいつも小さな一歩から」

EyesWideOpen

2017年、その年のトレンドを占うメディア、産業界、ならびに世間一般からの視線はバーチャルリアリティ元年という言葉に注目した。

実際に、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントからはプレイステーションVRが発売され、導入には良質なコンテンツが少数ながら揃ったこと、そして、インディーズ開発者に依る話題性のあるコンテンツなどがネット系メディアを賑わした。さらには、バーチャルリアリティ専用の各種デバイスも華を添え、欧米を中心にクラウドファンディングなどでのファンディング成功事例も耳目を集めた。

しかし、エンタテインメント系業界の反感を買うかもしれないが、実際のところ、その展開や普及事例に関してはあまり芳しくないと思う。私自身が感じることだが、家庭でのVRデバイス設置、装着の手間、体験スペースなど色々と面倒な課題が今も解消していない。また、コンテンツは一度体験すれば、しばらくは良いかな…と思ってしまい、埃をかぶってしまっている・・・という私の経験を上書きするようなユーザーも少なくはないだろう。

一方で、先に10月末日から東京ビッグサイトで開催された東京モーターショウ2017では、バーチャルリアリティでのデモ展示、シミュレーション展示体験などを行うブースが多かった。ちなみにちょうど開催期間中に発売されたバーチャルリアリティ(PSVR)対応の「GT SPORTS」も展示体験ブースを展開しており、その完成度の高さ、バーチャルリアリティのシステムとコンテンツのマッチングセンスは素晴らしかった。

さらに、株式会社バンダイナムコエンターテインメントや株式会社コーエーテクモウェーブなどの大手の業務用ゲームを開発する企業はゲームセンターでのアクティビティの強化に余念がない。ある程度のスペースを確保でき、コンテンツ自体に動きに加えて五感を刺激するようなアクティビティという点ではゲームセンターでの展開が優位であると思われる。

VRとは異なるが、やや場所を必要としたのが、マイクロソフト社のキネクトのような、自身の動きをキャプチャーし、レイヤーの動きをキャプチャー入力するデバイスも徐々に様変わりしてきている。

今回、体験することができたデバイスとそのコンテンツはミックスド・リアリティ(Mixed Reality/以下MR:複合現実感)の研究を重ねているemmmR株式会社(本社:東京都品川区)にて「リアルタイム・エフェクター(仮称)」を紹介したい。

写真)リアルタイム・エフェクター(仮称)と接続したスマートフォン

今回、体験した「リアルタイム・エフェクター(仮称)」はスマートフォンにケーブ接続された小さなセンサー・デバイスで対象者の動きを取り込みリアルタイムに再現。キネクトの横幅が約25センチに対して、5分の1程度、5センチ程度のセンサーに集約されている。⼤掛かりなシステムの必要性がなくなり、⼈の動きに合わせてリアルタイム表⽰される3DCGエフェクトと現実空間を融合させたMRライブ動画配信が実現することができる。

写真)リアルタイムで動きをスキャンしている

写真を見て頂ければご理解いただけると思うが、リアルタイムで対象者のアクションをスキャンし、画面上に表示する。さらに今回のこのソフトの特徴は、このアクションにエフェクトを付けることができる。例えば下の写真のように、手を動かせば、そこに炎やアクションマンガの吹き出しのようなエフェクト画像をオンすることができるのである。

写真)動きに合わせてエフェクトを表示

日本での展開はもちろんのことだが、代表取締役の天野友昭氏はネット配信の最大市場である中国での展開に主眼を置いている。ネット配信者が自身のダンス、コスプレ、トークなどで活躍し、中には年間で1億円超の「投げ銭」を稼ぐ配信者もいる。それらの配信者への画像課金エフェクト市場を醸成するのが目的という。

写真)代表取締役 天野友昭氏

インターネットとスマートフォンが作りだしたリアルとバーチャルリアリティがミックスしたマーケットで、配信者のみならず、その支援者たちも巻き込んだクリエイティブは小さな革新から始まるのかもしれない。

参考URL 【emmmR(エムアール)株式会社】 http://www.emmmr.com

 

筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)

1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。