10.23
黒川文雄のEyes Wide Open VOL.6「映画に観る未来と現実の戦争」
映画はいつの時代も少し先の未来の姿を私たちに投影してくれる。
公開を控えた「ブレードランナー2049」の初編は1982年に公開された「ブレードランナー」。あれから既に35年過ぎた今も煌(きら)めきと少しの不安という未来を提示している。
映画の世界に描かれた未来は徐々に現実社会に溶け込み、気が付くとアップデートされている。そんな繰り返しのなかで日常は上書きされて行く。
映画のなかで未来を描くように、コンピュータゲームやそれに付随するテクノロジーやシステムが現実を超えるという概念や次元もすぐそこまで来ている。
私が好きな映画監督のひとり、ジョン・バダム(John Badham)はそんな現実と空想的な未来を映画のなかで展開してくれたクリエーターだ。ちなみに彼の出世作品はジョン・トラボルタ主演のダンス・ムービー『サタデー・ナイト・フィーバー』。
そんなジョン・バダム監督の作品「ウォー・ゲーム」は、現在、北朝鮮と世界を取り巻く緊張感のなかで観ておくべき作品と言っても過言ではない。
(※ちなみにジョン・バダム監督に作品のなかで、観るべき作品は最新鋭ヘリコプターを主役にした『ブルーサンダー』が素晴らしい)
さて、「ウォー・ゲーム」の内容だが…「コンピュータとネットワークが管理する戦争」がテーマで、マシュー・ブロデリック扮する主人公の高校生デビッドが、自身の高校の教師用コンピュータにハッキングし、自分の成績を書き換えたりすることから始まる。
それが徐々にエスカレートし、それとは知らずにNORAD(ノーラッド:北アメリカ航空宇宙防衛司令部)のホストコンピュータ「ジョシュア」にアクセス。
すると「ジョシュア」が「一緒にゲームやろうぜ!」ということになり、アメリカ合衆国とソビエト連邦との核戦争をシミュレーションするゲーム「世界全面核戦争」を起動してしまう。
つまり、高校生のハッカーが国家戦略レベルのコンピュータのバックドアを開けてしまい、その結果、国家レベルの核戦争の危機が刻々と迫るというストーリーだ。この映画は今観ても色あせること無い危機感と緊張感と新鮮さを失っていない作品だ。
この映画で描かれた世界観と同じように、コンピュータのテクノロジーとネットワークのテクノロジーは軍事技術もしくは軍産複合体とは切っても切れない関係にあると言ってもいい。
ゲームとの関わりで言えば、かつて私が所属したセガ・エンタープライゼス(現在のセガゲームス)ではアメリカの軍事系企業である「ロッキード・マーチン」社と共同で3次元コンピュータグラフィック用基板「MODEL(モデル)1」を開発し「MODEL2」「MODEL3」へと進化発展させた。
この技術も戦争、戦闘シミュレーションをリアルに展開するというテクノロジーのスピンオフ・プロダクトだ。アメリカは軍事、宇宙開発などの軍産複合体からのテクノロジーの民間へのスピンオフは良く行われている。そして、現在に目を移すと、今度はゲームからのテクノロジーや人材がハンティングされているという。
すでに世界の戦争・紛争・戦闘地域を覗けば極端な局地戦は減っている。そして、長距離ミサイルやドローンによる照準でピンポイントの爆撃などが通例と化している。
これらにおいて、それをコントロールするエンジニアにオンライン・ゲーマーがヘッドハントされているという話を皆さんもどこかで耳にしたことがあるだろう。
戦争や戦闘はすでにモニターのなか、コントローラを動かし、最後のボタンを押す場所は爆撃地点よりも数千キロ離れたコントロール・ルーム。爆音はなく、血も見えない、土埃も立たない。すべてはモニターの向こう側の日常の非日常。
そしてもうひとつわかりやすい事例が、先の「MODEL1-3」と同じく「ロッキード・マーチン」社の開発に依る最新鋭のステルスジェット戦闘機の「F35ライトニングⅡ」に搭載されたパイロット支援用のヘルメット内の視認システム。
現在、「F35ライトニングⅡ」のパイロットが装着しているヘルメットはバーチャルリアリティのテクノロジーをさらに進化させたもので、バーチャルリアリティ、オーギュメンテッド・リアリティ(AR)を総合したミックスド・リアリティ(MR)を体現したシステム。
正式な名称は“Electro Optical Distributed Aperture System,”(電子光学分散開口システム)、通称“EO-DAS(イーオー・ダス)”。
このシステムはパイロットの視界を全周囲、360度に渡って確保しているもので、赤外線センサーを機体(F35のボディ)の周囲に6基備えているという。現在はややグリーンがかった単色のモニタースクリーンだが、昼夜を問わず全天候での視界を、このシステムによって確保している。
システムとしては、6基それぞれの画像を繋ぎ合わせてパイロットのヘルメットバイザーモニターに投影している。皆さんがご存じのオキュラス・リフトや、PSVRのようなHMD(ヘッドマウントディスプレイ)をより高度化したものを想像してもらえればわかりやすい。
それは非常に優れたシステムで、コックピット内でパイロットが後ろを振り返れば後方視界が確保でき、仮に下を見れば機影の下の状況が視認できるというものだ。このシステム・テクノロジーは同じく軍事系企業ノースロップ・グラマン社のものである。
詳しいことは軍事機密なのでわからないが、もしかすると既に「アイトラッキング」で敵機や破壊対象物をロックオンし、ミサイル発射ができるレベルになっているのかもしれない。
ちなみに、一般的な自動車メーカーが新車(モデル)が発売された頃には、次の4-5年先のモデルの開発に入っている…となれば国家のリスクを管理する軍事技術はすでに10年以上先を見越して開発が行われていると思われる。もはや我々の知らないところで、AI(人工知能)、軍事ロボット・ソルジャーなどが着々と開発されていることだろう。
映画「ウォー・ゲーム」のラストは戦略コンピュータ「ジョシュア」のバックドアからデビットがログインをし、左右3マスの〇×ゲームを試みる。そして「ジョシュア」は核戦争が勝者なき戦争であること自らのコンピューティングのなかで悟り、この世界最終戦争は回避される。
しかし、現実の世界ではすでにエンタテインメントとコンピューティングと最新のテクノロジーは、リスク回避の有用な手段であるとともに大きなリスクへのトリガーであることも忘れてはならない。
筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)
1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。