2017
09.25

黒川文雄のEyes Wide Open VOL.5「VRネイチャーはアミューズメント施設から生まれる」

EyesWideOpen

古い話で恐縮だが、今から30年ほど前のこと、大学4年生の初夏から就職活動を始めた。

それはかなり遅いスタートだった。若気の至りとは言え、まあ、就職そのもの自体をあまり深く考えていなかった。今思えば「まあ、なんとかなるだろう」「ダメでも、音楽で生きていける」くらいの甘い考えだったような気がする。

昔も今も「いまどきの若いヤツは」って言うが、そんなものは古今、洋の東西を問わず、あまり変わっていない。

就職したのはレコード会社

ちょうどその頃、大学の就職あっせん掲示板には、銀座に本店を構える老舗のレコード店「山野楽器」と文化放送と芸能プロ・渡辺プロダクション(当時)の子会社「株式会社アポロン音楽工業」が若干名の募集をしているのを見つけた。

この時期にまだ募集をしているということは、まだ採用の可能性があるのでは…と思い早速応募した。その後のことは長くなるのでヤメておくが、結局、音楽の制作現場に近そうというイメージでレコードの制作販売を行うアポロンに入社した。

しかし、入社して分かったことはカラオケと演歌を中心にした販売ラインナップで、自分が目指していたニューミュージックやロック路線の音楽は皆無だったということだ。

さらに、不味いことに、入社して2週間の研修を経て、愛知県名古屋市にある営業所への配属が決まった。主な仕事は営業車で名古屋市近郊のレコード店舗への営業だった。若い人にはよくわかってもらえないかもしれないが、かつて音楽は黒いビニール盤のレコードで流通し購入するというものだったのだ。

写真)第3セクターが運営する愛知環状鉄道で豊田市駅へ

30年ぶりの豊田市は大きく変貌していた
あの頃、会社の営業車で巡回した地域は岡崎、安城、豊田市などであった。

一般には「三河(みかわ)地区」と呼ばれる地域で、徳川家康にゆかりのある地域。その中でも、今回30年ぶりに豊田市を訪れることになった。

訪問先は9月7日にオープンする「モーリーファンタジー 豊田店」の見学で、アミューズメント施設を運営する株式会社イオンファンタジーが、日本初の子供向けVRコンテンツとアトラクションが「イオンスタイル豊田店」の3階に開業する「モーリーファンタジー豊田店」の中で展開する。

訪問の目的は、その施設の見学と子供向けVRコンテンツを体験することだ。

写真)途中駅の車窓からの景色は30年たってもあまり変化はなかった

私の記憶が正しければ豊田駅前には松坂屋ストアがあっただけで、閑散とした雰囲気の駅だったが、今では駅前にロータリーも出来て賑やかな駅に変貌を遂げていた。ここでも街は上書きされていた。

モーリーファンタジー 豊田店とは

モーリーファンタジー豊田店がテナントとして入る「イオンスタイル豊田店」は、トヨタ系企業を擁する豊田市を支える大きな消費拠点になるもので、敷地面積:約52,822平方メートル、延床面積:約37,570平方メートルで、東京ドーム1個分(46,755平方メートル)ほどの大きさを誇る。その中で、モーリーファンタジー豊田店の店舗面積:1,090平方メートル(約330坪)である。

モーリーファンタジー豊田店の中の3分の2程度は従来型のアミューズメントマシンが配置されているが、残りの部分は、有料施設「わいわいぱーく」となっており、子供向けの「ごっこ遊び」を楽しめるような仕様になっている。

日本初の子ども向けVR(単眼VR)仕様

今回、モーリーファンタジー豊田店に導入されたコンテンツは「単眼VR」である。

表現方法を変えれば、それは子供向けVR映像という見方もできるが、13歳未満の子供への対応配慮を前提にしたものである。通常、今現在、体験できるVRコンテンツは「複眼(二眼)VR」デバイスを介したものになるが、通説としてある、小児がVR複眼を体験した場合の斜視のリスク(※)を回避するために単眼VR仕様に変更したという。

(※13歳未満の斜視リスクは科学的、医療的に実証的されたものではなく、また、法的に国家が定めたものではなく、あくまでも学説のひとつだと言っていいだろう。あくまでも13歳以下は非推奨という範疇になる)
モーリーファンタジー豊田店で展開されるコンテンツの内容は、「動物園」・「昆虫採集」・「海中体験」が設定されている。

【どうぶつどーこだ?(対象年齢2~4歳)】
夜のジャングルを歩いてかくれている動物を探すコンテンツ。

【こんちゅうをあつめよう!(対象年齢4~6歳)】
植物に水をやり、花が咲いたところにやってきた昆虫をあつめるコンテンツ。

【ドキドキ!マリンワールド(全年齢向け)】
フルCGの360°動画。海の中に入ったような体験ができ、様々な生き物が登場するコンテンツ。

これらのコンテンツの全てが子供向けの範疇を越えるものではないが、このような新興都市において、成長、生育途中の子供たちがVRコンテンツを体験できる場所が提供されるということは重要なことだと思う。

かつて、自分たちの少年時代には携帯もスマホも無かった。放課後は校庭や公園でキャッチボールやかくれんぼくらが遊びだった。ちょうど高校2年生の頃、街は「スペースインベーダー」に侵略された。

その衝撃的な体験と記憶は今も忘れていない。

街は日々変わり、上書きされ、人の記憶も同じように曖昧に上書きされて行くことだろう。

しかし、どんなに上書きされても消えない記憶はその人の感性となり創造性へと結びつくはずだ。

街、生活スタイル、デバイス、メディアはこの30年で大きく変わったが、体験はいつの時代も新鮮だ。それは30年経っても色あせることはない。

いつかこのVR体験をしたデジタルネイチャーたちが新しいエンタテインメントを創造してくれるに違いない。

 

筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)

1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。