2017
08.28
※写真 左から 黒川塾主宰 黒川文雄 三宅陽一郎 森川幸人

黒川文雄のEyes Wide Open VOL.4「人工知能はゲーム攻略の夢を見るのか?!」 黒川塾52「誰にでもわかるゲームAI(人工知能)の話」

EyesWideOpen

※写真 左から 黒川塾主宰 黒川文雄 三宅陽一郎 森川幸人

 去る8月17日、自身で企画開催する黒川塾にて「誰にでもわかるゲームAI(人工知能)の話」というテーマでトークセッションを行った。登壇したゲストは日本の人工知能研究者のなかでも主にゲーム系に特化した研究を行っているゲームAI開発者の三宅陽一郎氏、そして、もうひとりは「がんばれ森川君2号」など、AIを使ったコンテンツを数多く手がけてきた森川幸人氏である。

実は昨年の8月にも同様のセッションを開催しており、その際は「誰にでもわかる!エンタメ的人工知能(AI)考察」というテーマで、松原仁氏(はこだて未来大学教授)、伊藤毅志氏(電気通信大学助教)、 そして三宅陽一郎氏というメンバーでした。1年の間の人工知能カテゴリーの進化と深化のスピードを改めて感じるセッションとなりました。

この1年の人工知能を巡る動き…

人工知能の研究は、産業界において、ある種のブームになっている。マイクロソフト、グーグルやアマゾン、フェイスブックを筆頭に、日産自動車、トヨタ自動車という世界的な規模の企業が積極的に研究と参入を表明している。中には名前だけで中味の無い「人工知能あるある」ビジネスもあるのではないだろうか?

いくつか事例を追ってみよう…。

一番良く知られている事例は…マイクロソフトが自社で開発した人工知能「Tay」をツイッター上で公開したところ、ユーザーとのやり取りのなかで人種差別や陰謀論を学習したという。おそらく悪意のあるツイートなどを多数読み込み、それらが人工知能のなかで大きな知識領域を占めたのではないだろうか。その結果、「ヒトラーは間違っていない」「黒人は首を吊れ」「フェミニストは地獄で焼かれろ」…などの不適切発言を繰り返し、公開から半日ほどで緊急停止と公開終了になったことが記憶に新しい。

同じマイクロソフトでも日本法人が展開する「りんな」では、そのような事象や問題は発生していない。これは育て方の問題なのかも知れない。

写真 Tay ツイッターアイコンより)

さらに、人工知能先進国と目されている中国でも問題が勃発した。

こちらは中国のITネット系企業・テンセントが「QQ」(ソーシャルネットワークス)上で公開した「Baby Q」という人工知能が、ユーザーからの質問に対して「共産党政治が間違っている」「無能政治」や「一党独裁を批判する」回答をしたということから、急きょサービスを中断して、「再教育」を施して再度公開に至ったという。

ちなみに面白いのは習近平国家主席の政治スローガン「中国の夢」についてBaby Qに、「あなたの『中国の夢』は何?」と尋ねると、「私の『中国の夢』は米国への移民」と答えたという…おそらく、これらも中国国民のビッグデ-タからの人工知能としての適切な回答だったことだろう。しかし、テンセント側の自己批判や再教育の結果、後日そのような発言は鳴りを潜めたという。

写真 テンセント ベビーQ Qはペンギンのアイコン)

日本のエンタテインメント系人工知能の現状

さて、冒頭にご紹介した黒川塾52の話題に戻ろう。

今回開催された8月17日の前日の16日にちょうど森川氏がゲーム系人工知能の研究開発会社「モリカトロン」を立ち上げたことを紹介した。

この会社は、20年以上にわたり、森川氏がゲームやエンタテインメント系にて培ってきたナレッジを活かし、ゲームにおけるAI研究開発事業を行うという。

まさに日本でもゲームにおける人工知能の活用とそのあり方が明確に提示された日と言っても過言ではないだろう。

三宅氏に於いては、すでに1990年代からゲームにおける人工知能研究のトライアンドエラーを行っていたが、日本では、クリエーター自身が「手付け」でモーション作ったり、スクリプトを書いてしまうことが多く、なかなか理解されなかったという。

しかし、昨今は、人工知能がゲームにもたらす効果や影響がゲーム内に反映されるようになってきたという。ゲームに人工知能を使うことによりキャラクターの思考や行動を、その場で生成できるようになり、プレイヤーひとりひとりに適応した難易度やストーリーなどの人工知能が創出できるようになったという。

森川氏の人工知能の原点は「ゲームに於いて自分で何もしないこと、究極の放置ゲー」を創ってみたかったという。そのために研究し、ゲーム的に盛り込んだ結果が過去から今に至っているという。

今の日本におけるゲーム的人工知能のさらなる発展系としてはVRやARとの組み合わせがマッチするのではないだろうか。それは、たとえば、対象である個人(顧客)データに基づく、情報提供や、商品提案や、マッチングなどではないだろうか。

イメージ的にはスピルバーグ監督の「マイノリティレポ-ト」(2012年公開/原作:フィリップ・K・ディック)の中で展開する街頭のデジタルサイネージが個別に商品や宣伝を訴求してくるシーンに似ているはずだ。

ゲームでの「オープンワールド」が、本当のオープンワールドでの展開として帰結するというイメージと言えばわかりやすいだろう。

三宅氏はゲームにそれらを準(なぞら)、そこに必要なのは人工知能とゲームデザインの両方を理解して開発できる人材が必要だと言った。ではゲームのみならず一般的なオープンワールドとしての必要な人工知能的AR技術に必要なものは、人間の善意を基にした人工知能データベース、そしてそれらを総合的にデザインし、適切に提供するインフラストラクチャーだろう。

人工知能はゲーム攻略の夢を見るのだろうか?

昨日見た景色、それは未来の景色かもしれない。未来は身近にある

 

 

筆者: 黒川文雄(くろかわふみお)

1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ジャーナリスト、コラム執筆家、アドバイザー・顧問。
『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。現在、注目するカテゴリーはVR、AR、MR、AIなど多岐に渡る。