2020
02.04

【World MR News】ホロラボのHoloLensの業務利用最前線――「XR Kaigi 2019」レポートその③

World MR News

2019年12月3日と4日の2日間、東京・秋葉原で国内最大級のVR/AR/MRのカンファレンス「XR Kaigi 2019」が開催された。本稿ではその中から、12月4日に行われたホロラボ 代表取締役 CEO 中村薫氏によるセッションの模様をお届けする。

▲中村薫氏。

『HoloLens 2』は、ハンドトラッキングとアイトラッキングが注目のアップデートポイントだ。前モデルと比較して、手をかざすとメニューが表示されるなど、UIがより自然になったともいえる。今回のセッションでは、中村氏が実際に『HoloLens 2』を使ったデモを披露しながら行われた。

MRには様々な定義があるが、アカデミックな定義ではリアルとバーチャルを繋げるものだ。それらの中でもリアルよりのものがAR、完全にバーチャルなものがVirtual Environmentで、その間にAugmented Virtuality(AV)がある。

ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンのオフィスでは、現実空間をタップすることで様々な情報が表示されるようになっている。これは、建築業界のBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)という3次元データを使い、それをリアルな世界に重ね合わせている。

こちらはメッシュとコライダーとプロパティを持っており、メッシュだけが見えていない状態だ。そのため、現実世界が見えておりデータのコライダーがあって、そこにインフォメーションが出てくるようになっている。

『HoloLens』などで見たときに、メッシュを無くしてワイヤーフレームのみの描画にしてみると、机や椅子の位置など現実とのズレも少し見えてくる。そこでメッシュも表示させずコライダーだけ残すようにすると、現実世界に当たり判定がでるようになるのだ。

これを表に当てはめると、コンピューター・ジェネレーティッドの割合が多くなればVRになり、リアル・ワールドの割合が多くなるとARよりになっていく。これらはひとつの例で、見せ方により様々な使い方ができるのだ。

ホロラボから見た2019年は?

2019年について、ホロラボにとっては不遇の年でもあった。『HoloLens』が年始に製造中止になり、『HoloLens 2』が2月25日に発表されたものの、出る出ると言われ続けて11月まで引っぱられてしまった。そのため『HoloLens』が入手できない期間が長かったのだ。しかし、実際にふたを開けてみると『HoloLens』に取り組む顧客が多かったという。また、NTTドコモがMagic Leapに出資したということもあり、Magic Leap Oneの案件も出始めてきた。

業務面では、製造業の顧客が増えている。建設業では、2018年にPoCだったのがPilotのフェーズに移行している。それにより、2018年は半年間ぐらいがマックスだったのが年間予算を組んで開発をするという案件がちらほら出始めている。

2018年度は、51案件中30件が『HoloLens』絡みのものだった。それが2019年は、『HoloLens』だけで49の案件があった。顧客業種の割合では、2018年は製造業と建設業、TMT(放送や通信など)がそれぞれ3分の1ずつぐらいを占めていた。それが2019年は45パーセントほどが製造業になっている。

ホロラボは、ビジネス系アプリと3DでUnityが使えるというのが、元々の強みだった。そこに3DCGやCADという要素が加わっている。なんだかんだいっても『HoloLens』はパワー不足な面もあるため、綺麗に見せようとするとどうしてもフレームレートが下がってしまう。それをうまく調整して、いかに綺麗なモデルのまま体験を良くすることができるかということが、2017年あたりからできるようになってきた。

最近は、様々な顧客からの悩みを相談されることが多いため、ノウハウが入ってくるようになってきている。顧客が何に困っていて、どうすれば嬉しいのかということもわかってきたという。

ここでトヨタ自動車の事例として、作業確認モレ防止(MR×AI)の紹介が行われた。車のエンジンを外したり付けたりするときに、最後にしっかり元に戻っているか人の目で確認が行われている。それを、機械的にも支援するためのものだ。たとえば本来戻るべきところが戻っていない場合、赤い文字で表示されるようになっている。

三菱重工マリンマシナリの事例では、MET過給機という船のコンプレッサーのトレーニングアプリを開発している。この過給機の特徴は、メンテナンスがしやすいところだ。過給機自体はほかのメーカーでも作られているが、三菱重工マリンマシナリのものは社内のエンジニアだけではなくメンテナンス業者も作業に携わるようになっている。

メンテナンスのためのマニュアルや動画も拡充している。それらでもわかりにくいものを、『HoloLens』向けに作り正確に作業を理解してもらうというものである。この過給機は船で使われるものであるため、世界各地に散らばっている。当然のことながら、メンテナンス業者も世界各地にいることになる。

重たくて持ち出せるものでもないため、これまでは研修は日本で行われていた。それを『HoloLens』を使うことで、実物ではないのですべては網羅できないが日本にわざわざ来なくとも、ある程度トレーニングが行えるようになった。

『HoloLens』プロジェクトを上手く進めるには?

いくつかの事例を通して、『HoloLens』の活用方法がわかってきた。顧客が持つ課題の共通項には、生産性を上げたい、労働人口減少への対応や労働者の高齢化、教育時間の減少、海外の労働者も増えてきているため言葉の問題などが出てきている。

こうしたときに『HoloLens』を使って解決していくのだが、進みやすいケースと難しいケースがあるという。進みやすいケースとしては、顧客側のとりまとめ役の存在が重要となる。社内や現場の理解が得られる人がいるといないのとでは、大きな違いがあるからだ。その上で、ファーストラインワーカーに使ってもらうために、現場の人の協力も必要である。これは、実際にやっている作業を見せてもらう必要があるからだ。

止まってしまうケースとしては、大企業では人の移動があり最初からやり直しになってしまうことがある。また、PoCからPilotへ進むときに、社内のネットワークに入れるのがブロッキング要素になることがある。セキュリティの要件や認証回り、デバイスマネージメントなどいろいろ制約が出てくる。そのため、初期の段階からIT部門の担当者と連携をして進めていくことが必要である。

『HoloLens』がハマるケースは、データがないものや昔からあるもので、一子相伝でメンテナンスが伝わってきたもの、作りが複雑なものをわかりやすく伝えるなどだと中村氏はいう。『HoloLens 2』については、軽くなったというよりも重量バランスが良くなったのでかけやすくなった。そのためトレーニングだけではなく、実作業でも使えるという意見が出ていたという。

『HoloLens 2』の特徴は?

2019年11月7日より、日本でも出荷が開始された『HoloLens 2』。値段は買い切りモデルで約38万円だ。特徴は表示エリアが2倍、被りやすさが3倍になっている。Unityで2メートル先にCUBEを配置したアプリを作り、前モデルと『HoloLens 2』とで同見え方が変わるか比べてみると、明らかに一回りぐらい見え方が異なることがわかる。

同様に1メートル先にCUBEを配置した場合は、前モデルで約56センチメートルしか見えなかったモノが『HoloLens 2』では約80センチメートルで見えるようになるため、車などの大きさのものでも問題なく見られるようになった。

『HoloLens 2』になって、地味にありがたいポイントはUSBホスト機能が搭載されたところだ。これにより、キーボードやマウス、有線LAN、USBメモリなどを有線で接続できるようになっている。

たとえばUSBのキーボードとマウスを接続すると、マウスカーソルが表示される。それに合わせてジェスチャーも使うことができる。しかし、現在はIMEが使えないためひらがなしか入力できない。しかし、スクリーンキーボードはIMEに対応しており、そちらを使って入力することは可能だ。

イベント会場などでは無線LANのトラブルがあるが、有線LANも使えるのはありがたいポイントといえるだろう。本体に接続すると表示も無線LANからイーサーネットに変わるようになっている。もちろん、USBハブ経由で充電することも可能だ。

また、通常の状態でQRコードを読み取るという機能も搭載されている。こちらはドキュメントには掲載されておらず、このような隠し機能のようなものがいくつかあるようだ。

PhotoWords 高島おしゃむ
コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。
雑誌の執筆や、ドリームキャスト用のポータルサイト「イサオ マガジン トゥデイ」の
企画・運用等に携わる。
その後、ドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年より再びフリーで活動中。